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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第4章(後半):戦争
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第106.5話:友のためにできること(レナ視点)

レナ視点です。

『クミは、大丈夫かしら』

「……大丈夫よ。クミちゃんなら……それよりも私達の心配をしましょう。こうしている間にも私達の支援を待っている人がたくさんいるんだから」

『はい、わたし達が成果を上げればクミちゃんの負担は大きく減るはずです!』

 

 グランディール王国が秘密裏に用意した通信用の巻紙(スクロール)を使って、私はミレーユとアイリスに連絡をとっていた。

 私はこれから手配獣となった危険な魔物討伐へと向かう。

 

 ベルセリウス帝国と王国連合の戦争が始まって以降、凶暴な魔物の出現が頻繁に起きていた。あまりの凶暴さに教会が手配獣と認定した魔物は、様々な街や村で災いを起こしている。

 

 ある村では、大量の蜂型の魔物の襲撃に遭って壊滅することもあった。

 別の村では、3m以上の大きさの巨大な猪型の魔物の群れに襲われ跡形もなくなった。

 

 私達“自由の風”は、こうした危険な手配獣の討伐や戦争から逃げ延び盗賊となった犯罪者達から、人々を助ける手伝いをしている。

 

 まだ未成年だけど、“自由の風”で私が手伝えることは多かった。

 クミちゃんに出会う前から鍛えていた槍術も、クミちゃんの隣に立つため必死に研鑽を積み上げていたことで、今では私の力が魔物討伐の役に立っている。

 ……とてもありがたいことだ。

 

 今の私の実力なら脅威度Cランクの魔物とだって十分相手をすることができるようになった。

 

 頑張っているのは私だけじゃない。

 ミレーユやアイリスも“自由の風”の支部長をそれぞれ務め、適切な指揮で人選を振り分け十分な成果を果たしている。さらに二人は得意魔法をそれぞれ伸ばしつつ、時には自ら現場へと赴き日夜困っている人々の救援活動を行っている。

 

 アグリ王国の女王であるクレミア様。

 本来なら獣人で平民の私が声をかけるなど重罪ものだけど、私、ミレーユ、アイリス、そしてクレミア様とで密かに乙女の同盟を結んでいる。

 名をクミちゃん同盟。

 そう、ここにいる私達は立場や人種は違うけど一つだけ共通していること。


 ―――それは、皆クミちゃんを大好きってことだ。


 クレミア様のおかげで、私達〝自由の風“はこうして他国の制限や教会の関与を回避しつつ行動することができている。

 本当に頼もしい人です。


 私達の最重要人物でもあり私の親友―――クミちゃんは、今ティナちゃんと二人で、最も危険なベルセリウス帝国へ潜入活動を行っている。

 戦争反対を掲げた帝国の王妃アンジュ様と話をし協力を求めるためだ。

 

 この任務がどれだけ重要なのかはとても良くわかる。

 オーラル王国という独裁国が消えても、帝国との落としどころを見つけなければ、サブネクト王国同様にアグリ王国は侵略され奴隷のようにこき使われるだろう。

 

 それほどまでに、今ベルセリウス帝国がサブネクト王国に行っている侵略活動は酷いものだった。

≪魔皇城≫のエネルギー確保のため、サブネクト王国の人々は死ぬ一歩手前まで魔力を奪われる。

 備蓄していた食料も全て帝国に没収され自由に生活することもできない人々。

 もはや、帝国はサブネクト王国の人々を家畜同然に扱っていました。

 

 だから、クミちゃんは代表として帝国で影響力のあるアンジュ様と接触し、この戦争の落としどころを探すための行動をとっている、というのはわかるけど。

 

「またわたし達は危険な任務をクミちゃんに押し付ける形になりました……どうして、わたしはそんなクミちゃんの傍で支えることができないのでしょうか?」

 

 アイリスがぽつりと心の内を漏らした。

 その言葉は、ここにいる皆の気持ちを代弁していると思った。


 フリーダ村での新村長の件にしてもそう。

 暴走した伝説の幻獣―――風竜の迎撃。

 怪盗キティとしての活躍。

 アグリ王国での革命運動。

 

 全てのことに、クミちゃんがリーダーとして私達を引っ張ってきました。

 本人はそんなこと何も感じていないのでしょうが、少なくともフリーダ村の人々いやアグリ王国の人々は間違いなくそう感じているはず。


 最近では、ルネ王国城都にできた商店街。

 元は貧民街だった街の人達が、こぞって私達“自由の風”の支援に参加してくれます。

 皆が自分達の生活を助けてくれたクミちゃんに感謝していた。

 それほどまでに、クミちゃんの功績は凄すぎるものなのです。

 

『すまない。ワタクシが不甲斐ないばかりに皆に……いや、特にクミに背負わせておること。本当に申し訳ない』

『『クレミア様!』』

「あっ! いえ、クレミア様のせいなんかじゃないですよ。私達“自由の風”がこうして各地を自由に行き来できるのもクレミア様達のおかげですから」

 

 クレミア様の謝罪を受け、ミレーユとアイリスが戸惑いの声を上げる。

 私は戸惑う二人の心の内をわかっているからこそ、冷静にクレミア様の心遣いを労う。

 

 クレミア様は表向きオーラル王国に従う素振りを見せつつ、“自由の風”が自由に動けるよう上手く采配を行っている。

 おかげで、オーラル王国や教会に私達の行動が妨げられたことはない。

 クレミア様の他にピエール王、セリス王女の助けがあったからこそ、“自由の風”という組織は、ザナレア大陸南部を中心に勢力を広め、次々に救援活動の和を広げることができたのだ。

 

『だが、ワタクシ達がクミの本意である足かせ(・・・)となっているのは間違いないだろう。本来なら、行方不明になった自分の想い人を探しに行きたいはずだろうに。またクミにワタクシ達の都合を押し付けてしまった……本当に申し訳がたたん』


 クミちゃんと一緒に生活を共にして、時折クミちゃんが遠くを眺めていることがあった。

 その表情からは、大きな切なさと悲壮感が伝わっていた。

 

 クーデター時に会ったティナちゃんから、クミちゃんの想い人の話を聞いた時のクミちゃんの表情は忘れられない。

 ようやく会えた探し人。

 その探し人は今回帝国と王国連合の引き金となった人物で、さらには魔族に攫われ行方不明となったと聞いている。

 絶対に探しに出かけたいはずなのに、クミちゃんは先に戦争の被害を少しでも減らそうと今も懸命に活動している。

 

 私には到底真似できない行動だった。

 というより、彼女の在り方はあまりにも人という枠を超えているように思えた。

 教会の聖女と言う存在はクミちゃんこそがふさわしいと私は思う。

 

『あいつさ……自分に責任なんて全くないのにさ。滅びたアタシ達の村をアタシに内緒で復興させたりもしてたんだぜ。クーデターや“自由の風”の活動の合間をぬってさ……本当バカだよ、アイツ! もっと自分の事を考えろっつうのに!』

『……クミちゃんらしいです。わたしの父も一度はサース領を離れ、一次当主がいないことで責任を取り領主の立場を捨てようとしていたのですが、領民からの反対を受け父は当主へと戻ることができました。話を聞くと、どうやら裏でクミちゃんが動いていたことが後になってわかったんですけど』

『あやつは、決してそういうことを人に言わんからな……普段はボーっとしているようにしか見えんのにな』

 

 ミレーユ、アイリス、クレミアが敵地にいる友を想い心配の声を浮かべる。

 勿論、私も皆と同じ気持ちだった。


「でも、皆忘れていない? 今回の“自由の風”の組織は、クミちゃんが初めて私達を頼って生まれた組織なんだよ! あのクミちゃんが私達を頼ってくれたんだよ!」

「「「!」」」


 今でも覚えている。

 クミちゃんと別れて暫く会えないと、落ち込んでいた私のもとへ突如クミちゃんが現れた日のことを。


「お願い、レナ! 私の大事な人が危機に晒されているの! 力を貸して」


 久しぶりにフリーダ村に帰って来たクミちゃんは、風ちゃんの背中から飛び降りたと同時に私に助けを求めてくれた。

 ―――そのことがどれだけ嬉しかったか。


 “自由の風”への誘いをクミちゃんがまず最初に私に打診してくれたとき、私は嬉しくして思わずクミちゃんに抱き着いたほどだ。

 クミちゃんに頼ってもらえたことが、とても嬉しかったからだ。

 だから―――

 

「……頑張ろう。頑張るしかないんだよ、今は。目の前にあることを精一杯確実にこなしていこう。そうすれば、いつかは―――」

『ええ、そうね』

『はい、その通りです!』

『お互いこれから通るはとても険しいけれど……目指す場所は同じですからね』

 

 今の立ち位置から、理想とする場所までは果てしなく遠いと感じる。

 でも、それでも私は決して諦めない。

 必ずたどり着いて見せる。

 ―――私達は不器用で優しいあの親友の隣を一緒に歩くんだ!

 

 想いを心に秘めて、私達は今日も精一杯生きる。


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