第16話:ビーグルの乱入
押し寄せる魔物達の奔流を、大剣一つで薙ぎ払い、洞窟へ向かう志。
既に志によりアシルドが集めた戦力の2/3が消滅していた。
そんなことなど知らず、志は自分の進行を邪魔する敵を淡々と斬り捨てていく。
そのまま志が破竹の勢いで進んでいくと、
(見えた!)
洞窟の入り口が見えた。
中へ入ろうとしたそのとき、
「おーっと、少し待ってちょうだい~」
頭上からビーグルが飛び蹴りを放ってきた。
「―――!」
強力な魔力が込められた蹴りであることを瞬時に見切った志は、後方に飛んでビーグルの攻撃を躱した。
ドーンと凄まじい衝撃音とクレータが生まれ、その場所にビスチェを着た筋骨隆々のオッサン(ビーグル)がいた。
志は目の前に現れたビーグルを斬ろうとするが、
(――――! 何だ、この人! スキが全くない!)
ビーグルの纏う威圧感に気づき、志は距離をとる。
「さて、改めて自己紹介しましょう。アタシはビーグル。しがない武器商人よ。よろしくね~で、貴方のお名前は?」
「……剛田 志」
「そう、ココロというの。よろしくね~」
のんびりとオネエ口調で話すビーグルに警戒する志。
「良い目ね。村で見たときは、興味がなかったんだけど、今の姿の方が素敵だわ~もう惚れちゃいそう!! うぅぅーーむ!!(志に投げキスを飛ばす)」
「――――!(サッと身を屈める)」
ビーグルに投げキスを飛ばされ、志はすぐさま身をかがめた。
(何という攻撃だ、精神破壊を狙うとは!)
志の本能がビーグルの軽い投げキスを攻撃判定と見なした。
「あら、ピュアなのね、可愛い♡」
「―――――グオッ!」
キャッピと可愛く振る舞おうとするビーグルの姿を見て、志は吐き気を覚えた。
「あっそうだ。一応伝えておくわ~貴方が心配している人質達は無事だから~安心していいわよ」
「本当ですか!!」
「ええ、こんなことでウソついたってしょうがないからね~ただ、しばらくここで足止めはさせてもらうけど」
「……そこをどいてください。さもないと死にますよ」
大剣を構え志はビーグルを睨みつける。
「アタシもこんなところで死ぬわけにはいかなんだけどねえ、これもお仕事だから仕方ないのよねぇ~たく、雇われの身は辛いわよ―――あっ、そう言えばあのバカ娘のティナは元気かしら?」
「……元気です。一応、あの子に助けてもらいました」
「そう、元気ならそれでいいわ~あの娘は予測不能なことばかりするから、アタシでも制御しきれないのよねぇ~でも、そこが面白いんだけど。あの娘のこと、よろしくね」
「貴方の娘なら、どういう教育してるんですか!? それによろしくってどういう意味ですか?」
「質問が多いわね~勿論娘よ。血はつながってないけどね。アタシの下で修業し、大事に育てたんだから、親愛の情は当然あるわ~でも、ティナにはティナの目的があるの。それを邪魔するのは野暮ってものでしょう~」
ビーグルの佇まいに、先ほどまでの戦意が少しずつ失われている志は黙ってビーグルの言葉を聞く。
「ボロボロのあの娘を拾ったのは今から十年前になるかしら。聞くと、虐待する親や兄達から逃げてきたと。まあ、亜人や獣人となった者には良く聞く話だからアタシも何とも思わなかったんだけど、あの娘は『獲物にやられた。今のオレじゃ勝てねえ。オッサン鍛えてくれ!!』って、無邪気に笑いながらアタシに頼み込んできたの~」
あの時は本当に驚いたわと、ビーグルは当時を懐かしそうに振り返る。
「大体、虐待された獣人や亜人達は強い憎しみあるいは絶望のどちらかを抱えているケースが多いのだけれど、ティナはそんな気持ちが一切なく、ただ獲物を見つけたことにひどく喜んでいたの~本当、初めて見たわよ、あんな娘。だから、あの娘をアタシの下で育ててみたのよ、本当楽しかったわ~」
「……」
当時を懐かしむビーグルの話に志は思わず耳を傾ける。
「で、すぐにジュンなんて簡単に倒せる力をつけたのに、楽しかったのでしょうね、自分が強くなることが。中々、アタシの下から去って行かなかったわ。ひたすら、戦場を求めて戦う、そんな生活を十年続けてきたの~そしたら、ある日、ジュン達が死んだって知らせが届いたのよ~そのときのあの娘の顔ったら傑作だったわよ~」
ビーグルは当時のことを思い出し腹を抱えて笑う。
「アタシはねぇ、キレイで純粋なモノが好きなの。そんなあの娘が、今ココロ君を獲物と見定めアタシから離れて行動しようとしている。そんな娘をアタシは邪魔できないわ~」
「それで、娘が死ぬとしてもですか?」
「ええ、それがあの娘の生き方だと、アタシは割り切るわ~きっと、あの娘のことだから、死ぬ間際も精一杯生きようとするのでしょうから」
「ビーグルさんの考えが僕には全然わかりません」
「いいのよ、分からなくて。他人なんだから、分からなくて当然でしょ。全ての人は勝手にわかったつもりで、周りをそして自分を騙して生きているのだから」
「……僕は――!」
志はビーグルに向かって何か話そうとした、そのときだった。
突然、志の足元が黄色く光り出し、魔法陣の模様が現れた。
「さて、話も大分終えたことだし……時間稼ぎも十分かしらね。【土よ。我が狙う敵を拘束せよ―土鎖―――発動】」
ビーグルはパチリと指を鳴らす。
すると、地面からできた土の鎖が志の手足を縛りつけた。
「なに、これは!?」
土の鎖に縛られまったく身動きがとれない志が叫ぶ。
「【土鎖】。アタシの土魔法よ。その鎖にはアタシの魔力が込められているの~普通の詠唱魔法ならココロ君をここまで拘束できなかったんだけど、魔法陣付きなら十分でしょ~」
全てビーグルの計算通りに事は運んでいた。
奇襲時に地面に穴を開けたとき、ビーグルは自身が使役する小型の魔物を放っていた。
10cmほどのミミズの姿をした魔物は、ビーグルが志と話をしている間、志の地面の下に【土鎖】の魔法陣を作成していたのだ。
補足するがこの世界で、魔法は主に三つのパターンで発動できる。
【無詠唱魔法】――術者が頭の中でイメージすることで、瞬時に発動できる。ただし、イメージが鮮明でなければ発動せず、また威力も弱くなる。
【詠唱魔法】――術者が魔法のイメージを詠唱することで、発動できる。術者のイメージが鮮明になるため、安定した魔法を発動することができる。
【魔法陣】――術者が魔法のイメージを魔法陣に描くことで、発動できる。術者のイメージが詠唱魔法よりもさらに鮮明になり、陣の魔力を注ぎ込むことで、より強力な魔法が発動できる。ただし、魔法陣に少しでも不備があれば、その効力は失われる。
後は魔石と魔法陣が付与された道具―――【魔導具】と呼ばれる、魔法を使えない人でも魔法を使うことができる道具があるが、これは【魔法陣】に分類される。
ビーグルは、高い魔力を保有する志を止めるために、最も威力が高くなる魔法陣付きの詠唱魔法を唱えた。
ビーグルの作戦は見事的中し、志は自身の動きを制止された。
さらに、
「あら? 貴方の髪と瞳も元に戻ったわね~」
志の【神気開放】も解除されていた。
「くそ!! 放してください!!」
「まあ、こちらの実験が終わればすぐに開放するわよ~」
「……実験!?」
志はビーグルを睨みつける。
「あら、口がすべっちゃったわ~まあ、ココロ君は気にせず、ここで暫く足を止めていてね~」
ビーグルが拘束されて動けない志へと近づこうとした。
そのときだった。
「オイ、じゃあ、その実験というのをワシに教えてくれんかの!!」
「―――!!」
ドカーンと、大きな破砕音と共に、志とビーグルに間にガイネルが飛び込んできた。
地面が砕け、志を拘束していた魔法陣の光が消えた。
ビーグルはガイネルの攻撃を躱し後方へと下がる。
「師匠!!」
「ふむ、遠方よりお主の炎の勢いが弱まるのが見えたからのう、そろそろ出番と思ったのじゃ」
土煙を上げて、ニヤリと笑いながらガイネルが姿を現した。
「あら、珍しいお客様が来たわね。【鬼神】さん」
「ふん、遠くから見ておったが、その奇妙な格好―――やはりお主じゃったか」
「えっ!?」
ビーグルは嬉しそうに話しかけるが、ガイネルの表情は苦々しいものだった。
語り掛ける二人の姿を見て、二人が旧知の仲ということを知り志は驚く。
「お久しぶりね~何年ぶりかしら?」
「『南北戦争』のときじゃから、まあ十年前かのぉ……で、今度は何を企んどる!!」
ガイネルの纏う空気が突如重々しくなった。
『南北戦争』―
今から十年前、〝ザナレア大陸“の北部と南部との間で行われた戦争のことである。
北部を支配していた〝ベルセリウス帝国“と、南部の各王国をまとめた代表国〝オーラル王国”との戦争は二年間に及んだ。
教会の仲介により、現在、〝南北平和条約“が締結され、二国間では停戦状態となっている。しかし、いつ開戦の火ぶたが切って落とされるかわからない状況である。
当時、ガイネルは帝国騎士団員として南北戦争に出兵していた。
そのとき、戦場を渡り歩く武器商人のビーグルと出会っていたのだ。
「あら、何をそんなに怒ってるのかしら?」
「忘れたとは言わせんぞ! あの時、お主が行った非人道的な毒ガス兵器のことを!!」
「……ああ、あったわね~そんなこと。でも、戦争なんだから仕方ないじゃない」
「確かにお主の言う通りじゃ。戦争なんじゃ。命の奪い合いをしとる。そこに綺麗事などないこともわかっておる。だが、非戦闘員まで手にかける必要はなかったはずじゃ!!」
「甘いわね~戦場にいるのなら、誰でも立派な戦士よ。当然、殺すし、殺される対象になるわよ~」
当時のことを思い出し激怒するガイネルに対し、ビーグルは軽い口調を崩さない。
いつもと違うガイネルを見て心配そうに見つめる志。
そんな志の姿を見て、落ち着くようガイネルは自分に言い聞かせる。
「すまん。小僧、このオカマを久しぶりに見て、つい興奮してしまったわ」
「いえ、あのビーグルさんのやり方は、本当に人をイラつかせるのが上手いので、その気持ち良く分かります」
「あら~貴方達、そんな熱い目でアタシを凝視して……アタシに気があるのね~」
「「ねえよ!!」」
ビーグルの見当違いの思い込みに思わずダブルでツッコミを入れる志とガイネル。
二人のツッコミを見て、ビーグルは「キャッ、モテル乙女は辛いわ~」とぶりっ子姿勢を崩さない。そんなビーグルを見て、志とガイネルは呆れ果てる。
「はあー、すまん。少し熱くなりすぎた――さて、ココロよ。ここはワシが受け持つから、早く嬢ちゃん達のところへ行け!!」
「……師匠、すみません。後お任せします!!」
ビーグルの不気味な強さを目の当たりにした志は、ガイネル一人を残して先に行っていいのか一瞬不安になったが、ガイネルの強さを信じることにした。
「ほれ、『マナポーション』じゃ。これで失った魔力も回復するじゃろう」
「あっ、ありがとうございます」
ガイネルは、腰元につけたポーチから『マナポーション』を取り出し志へと渡す。
『マナポーション』を飲み、魔力を回復した志は、
「それでは、後よろしくお願いします!!」
急いで洞窟の方へと向かった。
志が去っていく姿を何もせずビーグルは見つめていた。
「まったく、こんな魅力的なレディを置いて行くなんて、ココロ君ったらい・け・ず♡」
「……随分、簡単に通したの?」
「まあ、時間稼ぎは十分できたしねえ~なにより、貴方相手だと他を気にしている余裕なんてないからね~」
「ふん、ぬかせ」
ガイネルが背中に抱える大斧を両手に持ち構える。
「まあ、この際もう言葉はいらんのう―――部下の仇、取らせてもらうぞ!!」
「やだ、もう―――しつこい男は嫌いだわ!!」
ビーグルに向かって突進するガイネル。
そんなガイネルを見て、ビーグルは真剣な表情になり相対する。
二人の戦闘が始まった。
2018/7/1:誤字脱字等を修正。




