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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第4章(前半):戦争
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第99.5話:アイアンゴーレム内部(雄二視点)

酒井 雄二視点です。

 アイアンゴーレムの内部。

 一人用のスペースしかなかった内部は、数十人が余裕で入るコクピットへと生まれ変わっていた。

 数人のグランディール王国の先鋭達が、交代でゴーレムを動かすための魔力を供給している。


 魔力供給を行う人達を見下ろし、外が見えるモニタ画面を見つめるのは。

 グランディール王国のルイ国王、オーラル王国のイデント宰相、光の勇者である原 貴士、そして、


「おい! もういいだろう! いくらなんでも、これはやりすぎだ!」


 酒井 雄二の姿があった。


 雄二がゴーレムを止めようとするのも無理はなかった。

 先ほどからモニタから見えるのは、恐怖に怯え逃げる帝国騎士達を問答無用で踏みつぶす残酷な映像ばかりが流れているからだ。


 これはもはや戦争とはいえなかった。

 ただの虐殺である。

 イメージするなら、幼い子供が小さなアリを踏みつぶす光景を想像してほしい。

 敵意もなく、ただ動いていたから踏みつぶした。

 そんな感覚が、目の前の映像からは伝わっていた。


「何を言っているのですか、グランディール王国の異世界人よ?」

「そうだ、酒井。私達の敵が簡単に倒れているのだぞ。もっと喜ぶべきじゃないか!」


 雄二の発言に、反対の意を示したのはイデント宰相、そして原貴士だった。

「喜べるわけがねえだろう!」と憤る雄二を見て、イデント宰相は溜息をつく。


「なぜですか? 我々に被害はなく、敵は即死というこの状況をアナタはどうして喜ばないのですか? もしかして、我が軍にも犠牲が無いと、敵を殺してはいけないなどと思っているのですか?」

「そうじゃねえ! そうじゃねえが」

「そう言っているのですよ、アナタは。酷い人ですね。異世界から来たことで強力な力を有するアナタにはわからないかもしれませんが、我々は本来アナタ達と違いとても弱い生き物なのですよ。だからこそ、こうした工夫が必要なのです」

「酒井、お前もこの世界に来て長いだろう。情けないことを今さら言うな!」


 二人は雄二の話を全く聞き入れる様子はない。

 それどころか、ワザと憤る雄二を怒らせるような言動ばかり行っている。


「おい! ルイ国王(オッサン)もなんとか言ったらどうなんだ! ええ!?」

「……」


 中央の大きな艦長室に座り各員に指示を与えるルイ国王に雄二は尋ねたが、彼は雄二の話を無視してゴーレムを動かす指示しか与えていなかった。

 その姿は、まるでロボットのようだった。

 先ほどから何度も雄二が話しかけても、ルイ国王は何も答えようとはしなかった。


「てめえら、ルイ国王(オッサン)に何しやがった! 答えろ!」

「ええ、実を言うと彼は私に脅されているのですよ」

「えっ!」

「なーんて、嘘ですけど」

「なっ、おまぇえええ!」


 おちょくるイデント宰相に完全にブチ切れた雄二が詰め寄ろうとするが、間に入った原の蹴りをくらい雄二が壁に叩きつけられた。

 さらに、原は天魔法で作った光針を雄二の手足に突き刺し、雄二の動きを制限する。


 突き刺さった痛みに顔をゆがめる雄二だったが、原達に自分が痛がる姿をみせたくないため、顔には出さず睨みつける。


「ガキが大人に暴力で詰め寄ろうとするなんて。申し訳ない、イデント宰相。いくら教育時間が少なかったとはいえ、こいつは一応私の元教え子なんです。大変すみませんでした」

「いえ、気にしていませんよ。所詮、子供の戯れですから」

「ありがとうございます……おい! そこの木偶の坊! 良かったな。イデント宰相が寛大なお方で」

「……くそったれが!」


 雄二は壁に縛り付けられ身動きが全くとれない。


(原の奴。段々と力が増していやがる! 一体、奴に何があった!)


 戦時中、原が戦う姿を何度か目撃していた雄二。

 原は戦争開始時に比べて、明らかに強くなっていた。

 今では、雄二とタイマンで戦ったとしても勝てる相手ではなくなっていた。


「……イデント宰相、光の勇者様。どうか、そのへんで許してはいただけないでしょうか?」


 ここにきて、初めてルイ国王が雄二を気にする素振りを見せた。


「ユウジ。ここで争われても迷惑だ。お前は、外に出て下にいる彼らを迎撃せよ」

「くっ!」


 そう言って、ルイ国王が指刺したのは、ゴーレムに戦いを挑もうとする帝国騎士達の姿があった。

 その中には、雄二の見覚えのある顔が並んでいた。


「ほう。戸成、福井、増井か。相変わらず、無駄なことをしているな。大人しく、我らと一緒に来ればよかったものを」


 戦時中、飛鳥達と刃を交える機会が何度か合ったとき、原は王国連合に来るよう説得を行っていた。勿論、飛鳥達はその誘いを断っていた。


「確かに異世界人の神具は厄介ですからね。良いでしょう。ユウジよ、直ちに彼らを迎撃に向かいなさい!」

「うるせえ! 誰が、お前の言うことなんか聞くかっつうの!」

「そうですか。では、こうすればどうでしょう?」


 そう言って、イデント宰相はルイ国王の首元に刃を当てた。

 刃が皮膚に当たり、薄っすらと血が滲みだした。

 血が流れている本人は、全く気にした様子もなくモニタを見つめている。


「おい、止めろ! 止めてくれ!」

「言うことを聞かない場合、この王の命はありませんが如何しますか?」

「てめえ、やっぱりルイ国王(オッサン)に何かしたんだろう!」

「私じゃありませんよ、ねえ、勇者様(・・・)


 イデント宰相が見つめる先には、ニヤニヤと笑う原の姿があった。

 その態度を見て、雄二はルイ国王をおかしくした張本人が誰かを悟った。


「いやあ、勇者と聖女にしか使えないという、この精神操作魔法は、実に制御が複雑でね。ジェネミのように上手にコントロールができないのだよ。僕の力だと、せいぜい僕の命令を聞くだけの廃人にしかすることができなくてね」

「てめぇええ!」


 原に対する怒りが収まらない雄二は、無理やり自分の手足を拘束していた光針から抜け出し地面へ着地した。

 神具―――鎚を構えて、今にも原達に襲い掛かるが。


「頼む。ユウジ。止めてくれ」

「クッ!」


 ルイ国王が雄二と原の間に割って入った。

 表情は無表情のルイ国王。

 どう考えても、原が命令してこの場に立たせているのだと雄二もわかっているが、何もすることができず、握りしめた拳を解き放ちがっくりと項垂れる。


「……おい。お前らの言う通りにする。だからルイ国王(オッサン)にかかっている魔法を解きやがれ!」

「では、下にいる帝国騎士達を蹴散らしてください。話はそれからです」

「チッ! わかった」


 雄二は仕方なくイデント宰相の案を呑む以外になかった。


「イデント宰相。僕も下に言ってもいいかな? この男が裏切る可能性もあるし、何より僕にとってとても興味深い玩具達が転がっているんだ」

「ええ、構いませんよ」


 モニタ越しに映る増井と福井の姿を見て、原はペロっと唇を舐める。


 雄二は嫌そうな顔をしながら、先に出口へと向かった。

 少しでも、原達と一緒にいたくないための小さな抵抗だった。


「ん?」

「ユウジ殿……これを」


 通路で、ゴーレムを操作している副官から、雄二は巻紙(スクロール)を受け取った。

 巻紙(スクロール)には、付箋がありルイ国王からの物だと雄二は瞬時に気付いた。

 内容を確かめようと中を開こうとしたが副官から止められた。


「間もなくオーラル王国の者も来ます。彼らに決して気付かれないところで読んでください」


 イデント宰相達に絶対に悟られはいけないことと、ゴーレムの合図を見たあと開いて欲しい、と強く念押しされた雄二は言う通りにすることにした。


 後方から原がゆっくりとこちらに向かって来る姿を見て、副官は雄二に伝えた。


「アナタは我らグランディール王国の英雄です! どうか、皆の事をよろしくお願いいたします」

「お、おい。なんだよ。まさか。おまえら―――」


 敬礼を構え、その場をあとにした。

 副官のあまりにも動に入った姿勢に、雄二は嫌な予感を覚えた。


「おい、何をしている。早く下に行くぞ」

「あ、ああ。わ、わかってる」


 原に促され仕方なく出口へと歩く雄二だったが、嫌な予感を拭うことはできなかった。

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