SS2-18話:城都での戦い
投稿遅れました。
師走は忙しすぎて休みが全くありませーん。
私はレナ。
猫族の獣人兼クミちゃんの友達だ。
アグリ王国の革命運動が始まって二ヶ月が過ぎた。
南領地から始まった獣人達の反旗の炎は瞬く間に各領地へと広がり、今では北の城都にまで革命の炎が広がっている。
これも怪盗団として、国を運営する貴族達の傍若無人な振舞いを私達が世間に明らかにした結果だ。勿論、フリーダ村の人達の後方支援があったからでもある。
必ずこの革命をやり遂げて、私達は自由を獲得するんだ。
ここまで私達を導いてくれたクミちゃんのためにも。絶対に。
アグリ王国城都での最後の戦い。
私達の反乱を防ぐためアグリ王国の騎士達が私達の進行を妨害してくる。
特に厄介なのはルネ王国から雇われた治安部隊の人達。
卓越した戦闘経験と王国騎士には無い自由な発想で、私達の鎮圧化を図ろうと動いてくる。
恐らく、かなり手練の冒険者達を雇ったのだろう。
その中でも、特に危険なのが目の前にいる赤髪の亜人の少女。
頭の上に犬耳が見えることから、犬族あるいは狼族だと思う。
「さーて、ここはオレが守らなきゃいけない防衛ラインだけど……どうした? かかってこないのか?」
『クッ! やべえよ、アイツ!』
『これだけの数をたった一人で倒すなんて!』
『おい、どうする!? 早く先へ進まないと計画に支障が』
革命運動に参加した獣人達が目の前の少女に慄いていました。
それもそのはずです。
真っ直ぐ城内へと向かっていた私達の前に突如現れた彼女は、一瞬で五十人の獣人達をぶっ飛ばし無力化させたのですから。
「レナ! あの娘!?」
「うん、わかってる」
集団達を率いていた私は、隣にいるミレーユとアイリスに目配せをした後、直ぐに判断を下す。
「……皆さんは先へ行ってください。この人は私とミレーユ、アイリスで抑えます」
「ええ、何とかくい止めてみせるわ!」
「皆さんはどうか先へお願いします」
少女とは度々拳を交え戦ったこともある。
はっきり言って勝てる気がしない相手だった。
それでも、私達が今もこうして自由に行動できるのは、彼女が私達を見逃していたからだと思う。
今回もあわよくば私達を見逃してくれればと思ったけど。
「おっ、お前らか! いいね。どうせ、これで最後なんだから、今日は思いっきり暴れさせてもらうぜ!」
「クッ!」
「なんて闘気!」
「凄い……もしかしたらクミちゃんに匹敵する程の力かも!」
嬉々として嬉しそうな笑顔で少女は私達を見つめる。
……どうやら、私達を見逃すつもりはないみたいだ。
少女は、治安部隊を指示するリーダー格の男とは違い、この治安部隊の切り札的な存在のようだった。このまま、この少女を自由にさせたら、革命運動に参加している人達は全滅する可能性がある。
だからこそ、私達が彼女をこの場で止めなければいけない。
「お前らだけじゃ危ねえ! 俺も一緒に残るぞ」
「駄目です。アンドリューさんは皆を指揮しないといけませんから」
「レナ!? まあ、確かにその通りだが……」
「大丈夫です。アタシ達でなんとかしてみせます」
「だから早くこの場から皆さんを連れて離れてください!」
今、この場でアンドリューさんが群衆から離れるのは得策ではないと、ミレーユとアイリスも私と同じ考えのようだ。
アンドリューさんは少し悩んだが。
「……お前ら、すまねえ! 行くぞ、てめぇら!」
『『『おう!』』』
すぐさま、残りの獣人達を引き連れてこの場から離れていく。
「……」
亜人の少女は、追い討ちをかけることなく黙ってアンドリューさん達を見逃していく。
どうやら、完全に私達三人にしか興味がないようです。
「良い? 二人共! あくまで時間稼ぎでいいからね! 私達の目的は彼女を足止めすること」
「「了解( です )」」」
幸いなことに、先ほどイズール王が玉座を下り、クレミア様が新たにアグリ王国の王となる報告を受けた。
あとは、この内乱が収まるのを待つのみ。
私達は決死の覚悟を持って少女と相対する。
「……良い気迫だ。おもしれえ。お前らをぶっ飛ばせば、オレのこの苛立ちも少しは晴れるってもんなのかな」
「―――っ!」
少女から発せられる闘気がさらに大きくなる。
その闘気を受けて思わず私の尻尾が丸く縮みそうになる。
……本能が彼女を恐れている。でも引くわけにはいかない!
「いくぜぇええ! てめえら!」
風の速さで少女がこちらに一直線に向かって来る。
すぐさま、アイリスが少女の進行方向に魔法で土壁を作り動きを制限する。
すると、少女は進行方向を変えて、今度は真横からこちらに向かって来る。
……でも、それこそが私達の狙い。少女の方向を誘導させた先。
そこには、魔力を溜めたミレーユが控えている。
「火魔法―――【溶岩噴泉】」
ミレーユが放った火魔法(地面から4000℃近くの溶岩が地面から噴出)が少女へと襲い掛かる。
「しゃらくせえ!」
「なっ! これを避けるの」
ミレーユの戸惑いを他所に、少女は自らの直感に従い地面から湧き出る溶岩をヒョイヒョイと躱しこちらに向かって来る。
しかし、これもまだ想定内。
「かかった! 今です」
方向を一つに絞り、さらに飛び上がった少女に目がけて、私は渾身の勢いで槍を投げた。
(殺った!)
少女に恨みはないが、戦場で戦う以上容赦はできない。
というより、容赦など考えれば私達が瞬殺されてしまう。
最高のタイミングで放った私の全力全開の一擲。
それを少女は、歯で受け止めた。
「嘘ぉおお!」
「あ、ありえない! あの槍を歯で受け止めるなんて」
「いけない! レナさん。逃げてぇええ」
受け止めた槍を「ペッ」と捨てて、少女が私を見る。
大丈夫。少女との距離はまだあいている。
いくら神速のスピードを持つ少女でも、この距離なら私でも対応できるはず。
「【風咆哮】!」
「ぐっ!」
「「きゃああああ!」」
突如、少女の口から飛び出した風属性の衝撃波が私達を襲った。
その凄まじい衝撃を受けて私達の身体は後方に大きく吹き飛ばされた。
叫び終えた少女は地面へ着地した後、すぐさま私達のもとへと駆け出してくる。
……マズイ。体勢が崩された今の状態では。
「アイリス、早く土魔法を!」
「は、はい!」
再び土魔法を放ち少女の動きを制限しようとするが、さらに加速する少女の動きに土魔法が追いつかない。
「だ、駄目です! は、速すぎッ! キャァアアア!」
「アイリス!」
縦横無尽に駆け巡る少女は、私達のすぐそばまで距離を詰めると、まず初めにアイリスを蹴り飛ばした。アイリスは壁に叩きつけられ、そのまま気絶した。
「よくもアイリスを!」
「駄目よ、ミレーユ! この間合いでは―――」
「わかっているわ! 天魔法―――【 電撃結界】!」
私とミレーユを包む雷の結界が周囲に現れた。
ミレーユを殴り飛ばそうとしていた少女の拳が結界によって弾かれた。
「つぅうう~中々硬い結界だな」
「はあ、はあ、危なかった―――って! 嘘でしょう」
「オラ、オラ、オラ、オラァアアアア!」
一瞬、怯んだ少女だが、構わず硬い結界に拳を振り翳してくる。
結界には雷を帯びているため、殴り続ける少女の拳の皮膚は徐々に焼け爛れていた。
それでも、一向に構うことなく少女は拳を振り続ける。
まるで自分の身体などどうなっても構わない――そんなふうに感じ取れた。
「まずい! レナ! このままじゃ結界が―――キャアアア!」
「ミレーユさん!」
ついに結界が破れ、少女の拳がミレーユに突き刺さる。
思いっきりボディーブローを食らったミレーユは後方へと吹き飛び地面へと倒れた。
「このぉおおおッ!」
私は別の槍へと持ち替え少女に攻撃を仕掛ける。
これでも、私はフリーダ村で一番の槍の使い手なのだ。
いつも私達を守ってくれるクミちゃんの隣に立つためにずっと密かに稽古をしてきたのだ。
(絶対に負けられない!)
更に槍に力を込めて少女に狙いを定めるが。
「クハハ! いいねえ! ワクワクしてくるぜ、お前ら!」
少女は見切ったように、私の槍撃を紙一重でさばき切る。
少女に恐怖心はないのだろうか。
当たれば間違いなく致命傷を受ける威力なのにまったく怯えた様子が見えない。
それどころか、その状況をむしろ楽しんでいるように見えた。
足を狙って振るう槍の速度を限界以上にまで高め少女を狙うが。
「-――カハッ!」
「残念だったな。アンタの気力に対して身体がついてこれなかったみたいだな……でも、いい攻撃だったぜ」
疲弊で体勢が流れた隙をつかれた私は少女のボディーブローをくらい後方にあった民家の壁に叩きつけられた。
「―――ッ!」
「おっ! まだ戦意を失ってねえみてえだな~すげえなお前」
「当たり前です! 私は、この城都攻略の最前線をクミちゃんに任されたんです! 何としてもやり遂げなくちゃいけないんです!」
私は気力を振り絞りながら叫んだ。
今の一撃で足元がふらつき、少しでも気を抜けばミレーユ達同様に気を失ってしまう。
挫けそうになりかけた弱い自分を叫ぶことで強引に引っ込めた。
立ち上がって再び戦闘の構えを取ろうとした。
すると。
「……いいな、お前らは。戦う理由がはっきりしていて」
「? 何を言っているのですか?」
今まで高揚した様子で戦っていた少女の顔が一瞬暗くなった。
「うらやましいって言ってんだよ。オレみたいにただ戦うこと以外どうでもいい人種にとって、お前らのような奴らはまぶしすぎんだ」
何故だろう。
私のほうがボロボロのはずなのに、目の前の少女が弱々しく見えた。
まるで、行く当てがない迷子のように。
「……お前らを倒せば、ナニかわかるのかな?」
「来い!」
少女が一歩一歩私に近寄って来る。
どうやら、私に止めを刺すつもりみたいだ。
(ごめん、クミちゃん! 私はここまでだけど……それでも、せめてミレーユとアイリスだけはここから逃がして見せるから)
全身全霊をかけて少女へと挑もうとしたときだった。
「……もう大丈夫だよ、レナ」
「! 誰だ、てめえ」
私と少女の間にヒュッと現れた人物がいた。
その人は、亜人と獣人と人間の三種族の共存という前代未聞の快挙を成し遂げ、私達フリーダ村の村長にして、アグリ王国の世直しヒーローとして多くの国民に慕われている怪盗キティの頭領にして、現在のクーデターの旗印ともなっている人間の少女。
「ク、クミちゃん!」
「よく頑張ってくれたね、レナ……後は任せて」
クミちゃんが助けに来てくれた。




