表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:ベルセリウス帝国(トパズ村編)
15/293

第12話:トパズ村襲撃

『『火事だー!!』』


 突然の叫び声に僕は目を覚ました。

 深夜の時間帯、通りに電灯がないこの村は、この時間真っ暗なはずである。

 しかし、今、窓の外を見ると周囲はオレンジ色に明るく輝いていた。

 カンカンとなるベルの音と、悲鳴や助けを呼ぶ叫び声が聞こえる。


「志! 起きてる!」

「志くん!」


 部屋の中央に引いたカーテンを開けて、飛鳥と美優がやってくる。


「今、起きたとこ。とにかく、着替えてすぐに外に出よう」


 僕達は着替えを済ませて外に出る。

 すると、周りの家々が火に包まれ、あちらこちらで激しく炎上していた。

 その火災場所から荷物を抱え必死に逃げる村人がいた。

 あるいは、必死に炎を消そうと、水の魔法を唱え、消火にあたる者達もいた。

 皆必死だった。


 そんな必死な村人達を後ろから襲っている人達がいた。


『目の前にある物全てを略奪しろ!』

『『『イエッサー』』』』


 スキンヘッドの大男が指示すると、周りの柄の悪そうな手下達が次々と村人を襲い始めた。

 そんな光景を見た飛鳥は、


「貴方達、止めなさい! 【水弾(アクア・ブレット)】」

「ぬわ!」


 乱暴な男に襲われかけている母子を魔法で助けた。


「【麻痺草(パラライズソウ)―セット】―ヤッ!」


 美優も麻痺の効果を持つ矢をセットし、襲撃者を弓矢で次々と打ち抜く。

 急所に当たらないよう、手足を狙っていた。

 刺さった襲撃者は体の自由を奪われ、その場で動かなくなった。


 僕も、


「【ウェーニ・グラディオ(来たれ・大剣)】」


 大剣を手に取り、村人を襲う襲撃者と戦う。

 ジュンとの戦いを経験して、僕は殺生しない戦い方を考えた。

 その一つが、これだ。


「【武装灰化(アーミス・アブルム)】」


 大剣に白い炎がまとわりつく。

「セイッ!」と、襲撃者達に向けて剣を振りかざす。

 途端、白い炎は襲撃者達を焼き尽くした。

 「ぐわあああー」と炎の中から、いくつもの悲鳴が聞こえてくる。

 そして、炎が無くなると、そこには全身素っ裸のオッサン達が仰向けになったまま倒れていた。

 裸族のオッサン達の肌には、火傷の後もなく、気を失っているだけである。


「ふっふっふ! これが、【武装灰化(アーミス・アブルム)】の力だ」


『【武装灰化(アーミス・アブルム)】』

 相手の装備品を灰化させ、その温度で相手の気を失わせる僕のオリジナル魔法である。

 この魔法の凄いところは、相手を無力化させ、かつ相手の命を奪わないモノである。

 僕がガイネルと協力して編み出した技である。


 ……アイディアはネ○まの主人公のくしゃみを参考にした。ごめんなさい。


 ガイネルは面白い魔法だと興味深そうにしていたが、女性陣の反応は違った。

 「私にこれ使ったら殺すから」と飛鳥が冷めた目で、「もし志くんが女性に使ったら、私が命に代えても止めますから」と美優に笑顔で言われ、「志殿。ガイネル様は男です、そんな趣味はない方だと信じております」とメルディウスさんに変な心配をされた。

 地味にメルディウスさんに心配されたことが傷つく。


……男色の気なんてないから。


 僕達は次々と襲撃者達を無力化させていくが、襲撃者達の人数が明らかに多すぎた。

 五十いや百人は超えていた。

 さらに、


『『『グルルルゥゥウウウウ』』』


 僕の三倍はある巨大な蜘蛛の魔物が数体現れ、襲いかかってくる。


『おい、いたぞ、てめえら。あそこにいるガキ共だ。アイツらを掻っ攫え!』

『『ヘイ!』』


 襲撃者のリーダと思しきスキンヘッドの男が僕達を捕まえるよう指示する。

 新たに出現した魔物と一緒に、襲撃者達は僕達に襲い掛かる。

 敵自体は大したことはないのだが、村人を守りながら戦うというのは、あまりにも難しく、


「ちょっと、アンタ達離れなさいよ!」

「クッ……エイっ!」


 遠距離から狙撃する飛鳥と美優との間に襲撃者達との距離が少しずつ近づいてきている。このままじゃまずい、そう思った僕は飛鳥と美優のもとへと向かう。

 しかし、


「おっと、兄ちゃんの相手はオレだ!」

「うぉお!」


 僕の不意を突くように、上空から突然鋭い飛び蹴りが放たれた。

 気配をたまたま察知した僕はどうにか、蹴りを放った襲撃者の攻撃を避ける。


 火事の炎で、蹴りを放った襲撃者の正体が露わになった。

 赤髪に犬耳を生やした女の子―――屋台で会ったティナだった。


「よく避けたな。不意を十分ついたんだけどな」

「君は!? 犬耳少女!」

「ってこら! 誰が犬だ! オレは狼の亜人だっつうの」


 犬と呼ばれたことにティナは怒り出した。

 尻尾もビーンと逆立っている。


「そうなんだ。それはごめんね。で、何で僕を襲ってくるのかな? それとも、君もこの襲撃犯の一味と考えていいのかな?」

「ああ、そうだ。まあ今回のやり方はオレも好きじゃねえが、どうしても戦いたい奴がいたからな、襲撃に参加した」

「戦いたい奴?」

「お前だ、お前」


 ティナは僕を指差す。


「お前、ジュンとノシターの兄貴達を殺したんだろ? あれ、オレの兄貴なんだよ、一応」

「!」


 その言葉に、僕の心臓はドクンと跳ね上がる。


「ああ、別に復讐なんて気持ちはねえから、安心しろ……ただな、アイツらはオレの獲物だったんだ。それを横から突然掻っ攫えられたら、そりゃ腹が立つだろう」

「獲物って……」


 目の前の少女が何を考えているのか僕には全く分からなかった。

 ジュンそして、直接的ではないがノシターも僕のせいで死ぬことになった。

 その親族には恨まれて当然だと僕は思っていた。

 だが、目の前の少女には復讐という暗い気持ちを僕に向けていなかった。

 彼女の目にあるのは、強敵と戦いたいという好奇心に満ちふれていた。


「あいつら妹のオレが言うのもなんだが、最低な兄貴でな。小さいころ亜人ってことでしょっちゅういじめられたよ。だから、いつかあいつらを殺してやると、そう誓って、ビーグルのオッサンの下で腕を磨いていたら、あるとき、兄貴達が死んだっていうじゃねえか、それも全てを賭けた〝フェーデ“で」


 ティナはクックックと笑う。


「驚いたぜ。ノシターはともかく、ジュンを殺るのは難しいと思ってたからな。一応元帝国騎士団だからな、アイツ。まあ、今のオレなら問題ないけど」

「君は、自分の兄貴を殺した僕が憎いんじゃないのか?」

「はあー!? 兄ちゃん、人の話聞いているか? 憎んでないっていっただろう。それより、俺が殺すはずだった獲物を獲られたことに、オレは怒ってんだよ」

「……」


 少女とのあまりの価値観の違いについていくことができなかった。


「ビーグルのオッサンに無理行って、どうにかここに来たらよ、アシルド盗賊団がお前らの身柄を狙っているじゃねえか。それを聞いて、ピンときたわけよ」


 アシルド盗賊団。

 おそらくあの襲撃者達のことだろうと、僕は推測した。


「【鬼神(ガイネル)】や【疾風の妖精(メルディウス)】といった邪魔な奴らは、アイツらに任せて、オレは獲物を奪ったお前と殺しあうことができるってな」


 ニヤリと笑みを浮かべるティナは狼のような四足歩行の構えをとる。


「だから、楽しみにしてんだからさ―――あんま簡単にくたばんなよ!」


 ティナが勢いよく向かってくる。


(―――早い!)


 今まで戦ってきた魔物や襲撃者達に比べ、圧倒的な俊敏さを持つティナのスピードに僕の眼はついて行くことができなかった。


「ウグッ!」


 気づく間もなく、後ろをとられた志はティナの回し蹴りをくらった。

 蹴られた勢いで、僕は後ろの家の壁に叩きつけられた。


「まだまだ!」


 吹き飛ばされた僕を更に追撃するため、ティナは駆け出す。

 このままやられるわけにはいかない、そう思った僕はティナに相対した。


 右側面からティナの鋭い拳が飛ぶ。

 その拳を躱し、大剣の腹でティナに思い切りフルスイングをぶつける。

 しかし、ティナの拳に妨げられ、簡単に防御される。


「おいおい、兄ちゃん。なんで斬口のないとこで攻撃してんだよ。興ざめだぜ」

「……僕はできる限り、人を殺したくないんだ」


 カラカラと笑うティナに、人殺しをしたくないと答える志。


「甘い、甘い過ぎるぜ。そんなんじゃ、戦場ですぐ死ぬぜ」

「それでも、僕はもう人を殺したくない」

「はあ~、そうかい、まあ人のポリシーに口出ししたところで、どうにもなんねえしな」


 両手を頭の後ろに組み、ティナはのんびりと話す。


「別の方法はないかな。そうすれば―――」

「うるせえ!」


 ティナは瞬時に詰め寄り、僕の顔面に向けて拳を振るう。

 ティナの攻撃をどうにか大剣でガードする。


「お前の戦い方は認めた。だからと言って、オレが戦いを止める必要はねえ!」


 防御する大剣ごと、ティナはドカドカと拳を振るい続ける。

 その連続攻撃に、徐々に僕の腕が痺れてくる。


(やばい。このままじゃ、やられる!)


 そう感じた僕は、ティナが大振りになったところを躱し、ティナの後方へと回る。

 そして、背を向けているティナを斬ろうとするが、


『この人殺しが!』

『呪ってやる』


 ジュン兄弟の呪いの言葉が思わず頭の中をよぎり、攻撃を躊躇った。


「……バーカ!」


 その隙を見逃さなかったティナは、僕の腹に回転蹴りを放つ。


「ガッ――!!」


 僕は勢いよく吹き飛ばされ、大きく地面に叩きつけられた。

 その勢いで、大剣が手から離れた。

 すぐさま足元に落ちている神具を拾おうとするが、


「おっと、させないよ!」

「ガッ――――」


 ティナのアッパーカットをくらい脳天が揺れる。


「兄ちゃんのその武器、見てて強力な武器だってことはわかったけど……兄ちゃん自体は大したことねえよな」


 話ながら、ティナは僕のお腹に右、左と強烈なパンチを放つ。

 頭が揺さぶられ、さらに現在進行形で生じている腹の痛みにより、まったく身体を動かすことができない。


「んじゃ、〝先手必殺“ってことで――じゃあな、兄ちゃん」


 上空に投げられ、ふわりと宙に浮く。

 そして僕の心臓目がけて、指先に力を溜めたティナが手刀を突き刺そうとした。

 そのとき、


「させません!」


 ティナに目がけて幾重の矢が放たれた。


「なっ!」


 向かってくる弓矢を回避するため、ティナは後方へ下がる。

 次に矢が放たれた箇所に美優が空中から現れた。


「志くんに指一本触れさせません!」


 ティナを睨みつけるようにして美優が立ちふさがった。


「み、美……優――」


 美優の名前を呼ぼうとするが、ティナから受けたダメージがひどくて話すことができない。


「なんだよ……てめえ! てめえこそ、オレの獲物を獲るんじゃねえええ!!」


 両足に溜めた力を一気に開放させ、ティナは瞬時に美優へ攻撃を仕掛けた。

 ティナの俊敏さに、美優は弓を構え狙いをつけるが、照準が何度も外れてしまう。

 ティナが速すぎるのだ。


(だめ! 速すぎて、照準が定まらない!――なら!)


「【爆弾草(リーフボム)―セット】」


 美優が構える矢の先端に突如赤色の花が咲いた。

 ティナは美優の照準から逃げるように周囲を走り回りながら近づいて来る。

 そんなティナに目がけて、


「ハッ!」


 美優は矢を放った。

 矢はティナの脇をそれ、後ろの地面に刺さった次の瞬間―地面を爆破した。


「なっ、なに!」


 ティナは後ろから爆風を浴びて前面に押し出される。

 宙に浮いているためティナ本人に自由が利かない。

 そんな状態のティナに、


「【麻痺草(パラライズソウ)―セット】―ヤッ!」


 美優は麻痺の特性を持つ矢を放った。

 矢はティナの腕に刺さり、ティナはそのまま地面に落下した。


 全て美優の計算通りに動いた。

 動きが素早いティナの動きを止めるため、爆弾草(リーフボム)で足場を壊す。

 動きを止めたところで、麻痺で捕縛する。

 ここまでは美優の思惑通りだった。

 しかし、


「えっ!」

「……ったく、やるじゃないか、ねえちゃん。まさか、とっておきを使うことになるなんて」


 ティナが巨大な狼の姿に変化することは想定していなかった。


 ティナのこの姿は〝獣化“と呼ばれる〝亜人”だけが使える特殊能力である。

 〝獣化“することで、その亜人が持つ獣の能力を最大限に発揮することができる。

 ただし、〝獣化“を行うためには、各亜人によって条件が異なる。

 ティナの場合、


「この場所がちょうど月の光が差し込む場所で助かったよ。じゃなきゃ、やられてた」


 やれやれと、首を振りながら、狼は美優にゆっくりと近づいてくる。

 深紅のきれいな毛色に、黄金色に輝く瞳。

 こんなきれいな生き物を初めて見たと、戦いの最中美優は思わず見惚れてしまっていた。


「それじゃ、ねえちゃん、バイバイ!」

「きゃぁあああああ!!」


 防御する暇などなく、美優はティナの体当たりにより吹き飛ばされ気絶した。


「さて、邪魔者はいなくなったことだし、兄ちゃんの止めを刺さないとな」

「ぐっ!――」


 ダメージがひどく立ち上がることすらできない僕に向かってゆっくりとティナが近づく。

 そのとき、


「させません!」


 突如、メルディウスがティナの目の前に現れた。


―――何故か、ゴスロリ服で。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ