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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第3章(後半):クロイツ
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第78話:フェーデ決着

「危ないからQ(キュー)ちゃんをお願い」

「わかりました」

Q(キュー)!」


 Qを美優に預けて、僕は広場中央へと向かう。

 時刻は正午に近いこともあり、太陽が燦々と輝いている。

 あまりの眩しさに少し目を細めつつ、中央へと歩みよると、そこにはシスターと山川がいた。


「おせえぞ、剛田! 早くしろ」

「ごめん、すぐ行くよ」


 準備にモタモタしていた僕に向けて、山川が苛立った声を上げる。

 先に村田が僕に決闘(フェーデ)を申し込んできたのだが、話し合いの結果、山川が最初の相手となった。

 この後に、川村、村田とそれぞれ相手をすることになったけど、山川達は初戦で終わると高を括っている。


「それでは両者構えを」


 僕と山川は言われた通りシスターが指定した位置に着く。

 決闘の立会人は今回シスターが務めることになった。


「まあ、お互いこの世界での生活も長いんだ……間違って殺したらごめんな」

「……」


 ニヤニヤと笑いながら、山川が自分の神具―――細剣(レイピア)を取り出した。

 火属性の神具なのか、細剣の刀身は赤く輝いている。

 対して、僕は腰元に装着していた剣を無言で構えた。

 メルディウスから貰った物で、帝国騎士が使用している一般的な剣だ。


 僕が神具を顕現していないことに気づいた山川は、怪訝な目で僕を見る。


「おいおい。そんなチャチな剣で俺と戦うってか! なめてんじゃねーぞ! 剛田!」

「別になめているわけじゃないよ。ただ、僕は、今神具を使うのを止めているんだ」


 僕は神具の暴走を恐れて、よほどのことがなければ神具を使わないことにしていた。

 僕の態度が気に食わなかったのか、山川の怒りはさらに大きくなる。


「それをなめてるって言ってんだ! コラァアアア!」

「なっ!」

「ヤマカワさん! まだ開始の合図を言っていません!」


 立合役のシスターを無視して、山川が僕に向かってきた。

 不意を突かれた僕は、山川が繰り出す細剣の連続攻撃を何とか躱す。


「オラ、オラ、オラ、オラ! どうした! 剛田!」

「クッ!」


 この世界に来て強化された身体能力をフルに活用した山川の剣戟は、途轍もなく速かった。

 瞬きする間に2~3回の速さで鋭い突きを繰り出してくる。

 神具の特殊能力なのか、躱した際に掠った衣服から焼け焦げた匂いがしてくる。

 直接身体に触れれば、火傷だけでは済まなそうだ。


「俺の神具はな、触れた物を焼き尽くすことができる炎の魔剣だ! どうだ! 余裕こいてないでお前も神具を使え!」

「うぉっ!」


 さらに勢いを増し、細剣が僕の首や心臓といった急所を正確に狙い定める。

 明らかに、山川が僕を殺しにきていることが伝わってくる。

 しかし。

 ―――甘い!


 咄嗟に、太陽光を刃に当てて、山川の目を眩ませる。


「クッ!」


 一瞬、眩しい光に目を眩んだ山川に隙が生まれた。

 当然、僕は見逃さない。


「なっ!」


 カーンという金属音とともに、細剣が山川の手を離れて宙へと舞い、やがて後方の地面に突き刺さった。

 何が起きたか分からず動揺している山川の首元に、僕は剣を突き付けた。


「……僕の勝ちでいいよね」

「ぐっ! そんな、馬鹿な!」


 決着は一瞬でついた。

 誰が見ても僕の勝ちだとわかるだろう。


 一応、補足しておくが山川は決して弱いわけではなかった。

 スリゴ大湿原で戦ってきたCランクの凶暴な魔物達よりも、動きが速く、正直いつ殺されてもおかしくないと思っていた。

 だが、山川の動きはあまりにも単純で稚拙すぎた。

 これなら、鋭い勘と闘争本能を持つ魔物達のほうが怖いと感じた。

 恐らく、今まで強敵と戦った経験がないんじゃないかと、僕は戦闘中、山川を分析していた。


 それに、僕は神具を使ってはいないが、相手の攻撃を瞬時に見切る特殊な眼を持っていた。

 この眼の前では山川の攻撃はスローモーションのようにしか見えない。

 正直、楽勝すぎた。


「嘘だ、嘘だ、うそだぁあああ!」


 山川は僕に負けた現実を受け入れず、わめき散らしている。

 その姿を見て、シスターが僕の勝利を告げようとしたときだった。


「【冥魔法―――黒緞帳(ブラックカーテン)】」

「【土魔法―――土槍(アースジャベリン)】」

「―――なっ!」


 外野にいた村田と川村が、突如僕に向けて魔法を放ってきた。

 村田の唱えた冥魔法が、僕を中心に半径10m(メートル)の範囲内を暗闇へと変える。

 さらに、鋭い切先を持つ土槍が数本僕へと降り注いでくる。


 突然の奇襲に驚きながら、僕は剣で土槍を防ぐ。

 だが全てを弾くことができず、一本左腕に被弾した。


「ツゥウウ!」


 左腕からは、ドクドクと血が流れている。

 だが、川村の魔法は留まることなく僕へと向けられている。

 さらに、気付けば山川の姿も見えなくなっていた。


(まずい! この暗闇だと、どこから攻撃されるかわからない!)


 完全に暗闇に覆われ、視界が何も見えなくなった。

 僕は目を瞑り神経を研ぎ澄ます。


(三時方向に二人、いや三人? あれ、おかしいな。九時方向の気配は山川くんのはずなのに)


 村田、川村、山川以外の他に誰かが僕を狙っているのか。

 そもそも、何故彼らは当たり前のように魔法が使えるのかという疑問もあるが、今は置いておく。


「死ねぇええ!!」

「終わりだ! 【土魔法―――土槍(アースジャベリン)】」

「くたばれ! 剛田! 【冥魔法―――黒弾(ブラックブレット)】」


 勝利を確信した山川達が一斉に僕に向けて、それぞれ自身が得意とする攻撃を仕掛けてきた。

 だが、僕はこの時を待っていた。

 三人の魔力を感知し、完全に居場所を把握した僕は剣に力を込めて解き放つ。


「【武装灰化(アームス・アブルム)】!」


 剣から灰色の巨大な炎が出現し、僕に向かっていた土魔法と冥魔法をそのまま呑み込み山川達へと直撃した。



「イギャアアアー!」

「あ、熱い! 死ぬゥウウウ!」

「グワァアアアア! だ、誰か助けてェエエエ!」


 悲鳴を上げ泣き叫ぶ山川達に、僕は静かに語り掛ける。


「……大丈夫だよ。この剣技は命を奪わないことを目的とした技だから。君達が死ぬことはないよ」


 死ぬことはないが、さすがの僕も正直山川達の卑怯な行動には怒っていた。

 だから、少し火力を強めにして剣技を放ったのだ。


『なんだ! おい、一体どうなったんだ』

『志! 大丈夫でしょうね!』

『志くん!』


 暗幕の外から、外野で観戦していた人達の声が聞こえる。

 ついでに、僕は簡単な火魔法を包み込む暗幕へと放った。


 暗幕は簡単に燃え広がり、【冥魔法―――黒緞帳】が解除された。

 視界が顕わになると、目の前には山川、川村、村田の三人が地面に横になり気絶していた。

 炎に焼けたはずなのに、彼らの衣類や皮膚に目立った火傷の損傷などはない。

 これもメルディウスとの特訓の成果だった。


 ヨルド公国で飛鳥達に【武装灰化】を使って以降、僕は威力をある程度調整できるようになっていた。

 というより、神具を使わなければなんてこともないんだけど。


 改めて、倒れている山川達の姿を見た。


(やっぱり三人だよな……うん? なんだ村田くんのすぐ傍)


 山川は〝細剣“を、川村は〝魔導書”を握ったまま横に倒れている。

 そして、村田のすぐ傍には、等身大サイズのマネキンが転がっていた。

 全身真っ白のマネキンは村田の身体を覆いかぶさるようにしている。


(まさか―――)


 ふと脳裏に浮かんだ推測を頭の中で整理していたとき。


『『『ワァアアアアア!!』』』


 一際大きな歓声が上がった。

 歓声を上げたのは周りにいた野次馬の人達だった。


『なんかよくわからんが、あの少年の勝ちみてえだな!』

『というか何が起きたんだ、一体!』

『つうか、なんであの三人、あそこで寝てんだ』


 そう言えばすっかり忘れていた。

【冥魔法―――黒緞帳】により、外にいた人達は僕が山川達三人に襲われていたことに気づいてなかったみたいだ。

 暗幕が出てフェーデが観戦できなくなったと思いきや、すぐに暗幕が消滅して、中から山川、川村、村田の三人が倒れているのだからビックリするのも当然だ。


 飛鳥と美優は、川村達が乱入したことに気づき、非難の目を向けている。

 美優の肩の上には、ピョンピョンと飛び跳ねるQの姿がある。


「……えーっと、これは明らかですよね。勝者はココロ殿です!」

『『『ウォオオオオ!』』』


 取りあえずフェーデの勝者が決まり、野次馬達の声が大きく響いた。

 その声で、気絶していた山川達が目を覚ました。

 フェーデで乱入者が現れるというまさかの事態にシスターが戸惑いつつも、僕の勝利を宣言してくれた。


 僕は横たえたまま疲労している山川達に近づいた。


「……もう、僕達のことは放っておくこと。わかったね」

「く、くそぉお」

「あ、ああ。わ、わかった!」

「……何故だ。何故なんだ。ちくしょう!」


 悔しがる三人をその場に置いて、僕は美優達のもとへ戻ろうとする。

 だがその前に一つ。


「なあ、あと一つ聞きたいんだけど。山川くん達は昨日の目撃者の情報をどこで知ったんだ?」

「な、なんだ、そんなことか。簡単だよ。目撃者から直接話を聞いたからだよ」

「……ふーん。そっか。ありがとね」


 川村の言葉に満足した僕は、美優達と一緒に山川達を残してこの場を離れた。


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