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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第3章(後半):クロイツ
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第77話:フェーデ再び

「……全く疲れたわよ」

「「お努めご苦労様です!」」

「なによ、二人してそのノリは? まあ、いいわ。ああ~疲れた!」


 朝、神聖騎士に従い教会へと僕達は連れていかれた。

 事情徴収のため、美優達と個別に分かれて騎士達から色々な質問を受けた。

 容疑者である飛鳥だけは、取り調べが長くだいぶ時間がかかったようだ。

 先に終わった僕と美優は教会の前で飛鳥を待っていたのだ。


「大体、帝国領事館から事件が起きた場所までかなりの距離なのよ! 私のはずがないでしょう」


 結果、飛鳥は証拠不十分ということで保釈された。

 ちょうど殺害時刻に、僕達はシスターと一緒だったことが幸いし、シスターが証人となってくれたことが大きかった。

 ただ、殺害現場には飛鳥の姿をハッキリと目撃した人がいたそうだ。


「ああ、腹立つ! きっと犯人の仕業よね!? 一体、どうして私なのよ!」


 飛鳥の意見はもっともだった。

 今までは事件が起きるたびに帝国騎士が目撃されていいたのに、今回は街に来たばかりの飛鳥が疑われた。

 どう考えても裏があるとしか思えない。

 僕はそう考えていた。


「その、目撃者の方に詳しく話を聞くことはできないのでしょうか?」

「うん。そう思って、シスターにさっき頼んでみた。今、休憩室で仮眠を取っているみたいだから、起きたら呼んでくれるって」


 目撃者は二人いた。

 彼らは事件直後、教会へと駆け込み保護されていた。

 犯人を見たことで、次は自分達が殺されるのではないかと怯えているそうだ。

 彼らを安心させるために、シスターが一緒に立ち会ってくれることになった。

 僕達はしばしの間、教会の前でシスターに呼ばれるのを待っていた。


 ………

 ……

 …


「ヒェエエエー!」

「こ、この人です! た、助けて! こ、殺されちゃう!」


 シスターに呼ばれて、僕達は教会内の一室へと案内された。

 入室した直後、中にいた男性と女性の二人が飛鳥の顔を見て大きく取り乱した。


「落ち着いてください! ほら、安全のために、彼女は両手を拘束していますから」


 そんな二人をシスターが落ち着かせる。

 シスターの言う通り、飛鳥は現在両手を拘束された状態でいた。

 いくら目撃者の安全のためとはいえ、罪人のような扱いを受ける飛鳥の姿を見て、言いたいことは山ほどあるが、ぐっと堪える。


 飛鳥も堂々とした姿勢で、目撃者の二人に落ち着くよう優しく話かけている。

 一見、何ともないように優しく語りかける飛鳥だが、僕にはわかった。

 二人に恐れられているこの状況に、彼女が傷ついていることが。


 目撃者の二人が落ち着いたところを見計らって、僕は飛鳥を背中に隠しながら話しかけた。


「……本当に昨夜彼女を見たんですか?」

「あ、ああ。間違いない。少年を剣で突き刺して、血を吐いて倒れた少年をめった刺しにしていたよ。その少女が返り血を浴びて俺達の方を見たとき殺されるって思ったよ!」


 犯人は二人を殺さずに、そのまま逃亡したらしい。


「なあ、だから、こいつが犯人なんだよ! 早く捕まえてくれ!」

「……それがですね。事件が起きた時間、ちょうど彼女が私と一緒にいたのは間違いないのです。それは教会の神聖騎士達も目撃しています……彼女は無実です」


 シスターが淡々と二人に向かって事実を述べた。

 だが、二人は全然納得しなかった。


「じゃあ、俺が、見たアイツはなんなんだよ!」

「そうよ! 大方、魔法や魔導具でも使ったんでしょう!」

「……それはありえません。現在、このクロイツは魔法や魔導具といった魔力を介するモノの使用を強制的に封じているのですから。それはお二人が一番わかっていることでしょう?」

「そうだけど……じゃあ、なんだったのよ! お兄ちゃんと私が見たものは!」

「……」


 結局、その問いに誰も答えることができなかった。

 目撃者の二人との話はここで終了した。


 ………

 ……

 …


「これからどうする?」

「もち、犯人を探すわよ! 絶対許さないんだから!」

「飛鳥さん、燃えてますね」


 目撃者の二人から話を聞き終えた僕達は、事件が起きた現場へと向かう。

 意地でも事件を解決して、飛鳥の無実をちゃんと証明しなければいけない。


「私が案内します」


 シスターが騎士達に教会の留守を任せて僕達と同行を望んだ。

『私が間に入ったほうが情報が取りやすいと思いますので』と、シスターも僕達の調査に積極的に協力してくれるみたいだ。

 ……正直、とても助かった。誰からも信頼を寄せられているシスターがいれば、情報集もスムーズに進むと思う。


 僕、飛鳥、美優、そしてシスターの四人で現場付近で聞き込みを続けていると。


「よう、聞いたぜ! 戸成さん。なんか大変みたいだな」

「若夫婦の二人が君の姿を目撃したそうだけど、君がそんなことをするわけがない!」

「良ければ俺達が力を貸すよ! 俺達はサブネクト王国に強いコネがあるから、何かあったときに役に立つと思うよ」


 山川達が現れた。

 急な出現に驚いたが、少し気になる言葉を聞いて僕は考えこんでいた。


「大体、戸成さんがそんな非道なことをするわけがないじゃないか。大丈夫かい?」

「……ええ、大丈夫よ。それより山川くん達はどうしてここに?」

「君達の力になりたいと思ってね。それに、戸成さんが傷ついていないか心配だったんだ」

「そう。ありがとう……でも結構よ」

「「「えっ!」」」


 断られるとは思っていなかったのか、山川達が飛鳥の返事を聞いて戸惑いだした。


「こんなことくらいじゃ、私は全然めげないし。それに、私には美優や志が傍にいるから大丈夫よ」

「しかし―――」

「俺達がいればキミの無実を証明してみせるよ!」


 それでも飛鳥に必死に食い下がろうとする山川と村田。

 だが、飛鳥の意思は変わらず、首を横に振るだけだった。


「……波多野もうそうなのか?」

「えっ?」


 ふと、村田が美優に尋ねてきた。


「剛田が……こいつがいるから、波多野も戸成も俺達のところに来てくれないのか?」

「……はい。もちろん、それだけではないですけど。大部分の理由はそうなります」

「―――クッ!」


 ハッキリと答える美優の態度を見て、村田が悔しそうな表情を浮かべた。


「まあ、ヤマカワさん達には申し訳ございませんが、ココロさんのほうが力は明らかに上ですし、一緒にいてとても頼もしいお方ですからね」

「ちょっと、シスター!」


 シスターが山川達に向けて痛烈な意見を率直に述べた。

 いくら何でもそれは言いすぎだと思う。

 その証拠に、ほら―――


「ならよ、剛田! 俺と勝負しろよ!」

「えっ!」


 突然、村田が僕に向かって土下座を始めた。

 いや、これは土下座ではない。

 ()()()、同様に嫌な流れがする。


()()()()だ! おい、あの少年が()()()()を申し込んだぞ!』

『おい! 本当かよ!』


 クロイツにいた帝国人が、土下座姿の村田を見て騒ぎ始めた。

 帝国より古くから伝わる決闘(フェーデ)が行われると知り、野次馬が次々と集まり始めた。

 

 やはりそうか。

 トパズ村で荒くれ者のジュンと決闘した時のことを思い出した。

 あの時は、フェーデのことを何も知らない僕が全てを賭けジュンに決闘を申し込む形だった。

 しかし、今回は村田の方からなので決定権は僕にある。

 さらに、村田の頭の垂れ方からして僕のように全て掛ける必要はない。

 あれから、ガイネルやメルディウスにこの世界の常識について勉強してて本当に良かった。


「おい! 村田、正気か!」

「うるさい! こうでもしなくちゃ、波多野が俺のところに来てくれないんだ!」

「馬鹿か、君は! 君の神具は使用を制限―――」

「おい、川村。声が大きいぞ!」


 勝手にフェーデを申し込んでいる村田を止めようとする山川と川村。

 だが、村田は頑なに二人の話を聞こうとしない。

 それどころか。


「お前ら悔しくないか! 剛田みたいなダサい奴が戸成達を独り占めにしているのを見て」

「うっ! そ、それは」

「確かにそうだが―――」

「そもそも、剛田が俺達より強いなんて信じられるわけがない! きっと、あの魔導具も戸成さん達を測定した後に壊れていたに決まっている!」

「そ、そうだよな」

「ああ、そうだ! その通りだ。僕が剛田より弱いはずがない」


 村田の意見に山川と川村が賛同していく。

 やがて、


「剛田! 俺達とも戦え」

「そうだ! 戸成さん達を賭けて僕達と戦え」


 山川、川村の二人も僕にフェーデを仕掛けてきた。

 あまりの展開についていけず、どうすればいいか、僕は悩んでいたが。


「……わかった。ただし、一対一でいいよね? 三人一辺は流石に厳しいし……そして、敗者は奴隷になるとか、そういうのは絶対に無し! あと僕に勝ったからと言って、飛鳥達の意見を無視するのも絶対に止めてほしい……どうかな?」

「ああ、いいぜ。その条件を呑むぜ。お前をボコボコにできるんなら、何だっていい!」


 いくつか条件をつけて、山川達と決闘(フェーデ)を行うことにした。


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