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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:ベルセリウス帝国(トパズ村編)
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第11話:特訓の成果、そしてティナとの出会い

 トパズ村にて、ガイネル達との訓練がちょうど一カ月が過ぎた。


 ガイネル達に同行を求められた当初、すぐに村を出ると思っていたが、「お主らにはまず戦闘の基本を身につけてもらわなければならん」ということで、ガイネル、メルディウスの指導の下、戦闘訓練を受けていた。


 ジュンの賞金で手に入れた装備品に着替え、いつもの訓練場へと向かった。

 トパズ村から少し離れた訓練場所は森に囲まれた広野。

 その中心にメルディウスが一人いた。

 ガイネルも一緒にいるはずが、一週間前から別の用事で彼はいなかった。

 どうやら、最近トパズ村の周辺で盗賊団の動きが目立っているため、その調査に出かけたみたいだ。


「それでは、訓練を始めましょう」


 メルディウスの後に続いて僕達は森の中へと入った。


 訓練に利用している森は、以前僕達が彷徨っていた森であり、〝魔の森“と呼ばれている。

 危険な魔物が徘徊しており、一般の村人なら入ることを躊躇う危険な場所だ。

 そんなことを知らず五日間森を彷徨っていたことを、メルディウスに教えてもらったときは、なんて命知らずなことをしていたいのだと反省した。

 それと同時に〝神具“に守られていたことを知って、改めて神具の凄さに驚いた。


 しばらく森の中を歩いていると、魔物の集団を発見した。


「ふむ、数は三十か……十分でしょう。今日は、三人だけで戦ってください」


 茂みに隠れ、前方の魔物を確認したメルディウスは、僕、飛鳥、美優の三人でも大丈夫と判断したようだ。

 魔物は『ゴブリン』、『ウッドウルフ』、『グリムベアー』と、特訓が始まってからよく相手にした魔物達である。


 今まではガイネルやメルディウスと一緒に戦っていたので、簡単に倒せた相手だが今日は僕達だけだ。

 気を引き締めなければいけない、そんな僕の気持ちは隣にいる飛鳥、美優にも伝わった。


「ええ、わかったわ」

「大丈夫です」


 二人とも余裕のある笑みで返してくれる。


 彼女達はお互いそれぞれの神具を手に取り出す。

 飛鳥は水色に輝く細身の長い杖、美優はエメラルド色に輝く弓だ。

 そして僕は、


「【ウェーニ・グラディオ(来たれ・大剣)】」


 手元に薄っすらと炎が纏った大剣が現れた。


「アンタ、本当に無駄なことするわね」

「志くん、カッコいいです」


 僕の詠唱を聞いて、呆れた表情を浮かべる飛鳥。対照的に美優は褒めてくれる。

 飛鳥の言う通り、神具を取り出す際、別に詠唱する必要はない。

 しかし、僕は気分の問題で詠唱することにしている。


「皆さん、お喋りはそこまでです。向こうは私達に気づきました」


 僕達に気づいた魔物達が怒号をまき散らしこちらへ向かってくる。


「それでは、今までの訓練の成果を見せてください」


 メルディウスの言葉を機に、僕は茂みから抜けて前へと出る。

 後方には、飛鳥と美優がそれぞれの武器を構える。


 サッーンと風切り音が鳴り、僕の後方から無数の矢が飛び出してくる。

 その矢は先頭にいた『ウッドウルフ』の脳天を次々と貫通していく。

 美優の弓矢だった。


 美優の神具―弓は〝木“の属性を持っており、一番の特徴は美優がイメージする植物を生成し、矢として使用できる点である。

 今、美優が使っている植物は〝ジャイカ“と呼ばれる木々であり、貫通力に優れた矢となることで知られている素材だ。

 美優は、このようにイメージすることで様々な特徴を持つ矢を生成することができるのだ。

 それも、自身のマナが尽きない限り、ほぼ無限に。

 元々、弓道部に所属していたことと、こちらの世界に来て身体能力が向上した影響もあるのだろうが、ほぼ百発百中で敵の頭蓋を射貫いていく。


 そんな美優の弓矢を盾で何とか防御しながら、こちらへ近づいてくる『ゴブリン』を


「【ターゲット・自動照準(ロックオン)発射(ファイヤー)】!」


 飛鳥の周りに浮かぶ、十個程の直径30cm(センチメートル)の水球が吹き飛ばしていた。


「さて、どんどん行くわよ~【水弾(アクア・バレット)―バレル・展開】」


 飛鳥の詠唱に反応し、更に水球の数が増える。

 その数は三十にまで増えて、飛鳥の周りを守るように取り囲んでいる。


 飛鳥の神具―――杖は自由自在に〝水“をコントロールすることができ、一番の特徴は生成した水に飛鳥がイメージした効果を付与できる点である。

 つまり、


「【水弾(アクア・バレット)】―プラス【付与(エンチャント)(サンダー)】」


 飛鳥が新たに呪文詠唱すると、周りの水球の中に⚡印のマークが現れた。


発射(ファイヤー)!!」


 放たれた水球は、僕達の二倍大きな体格を持つ『グリムベアー』へ当たった。

 『グリムベアー』は甲高い悲鳴を上げあっさり倒れた。

 『グリムベアー』は水の塊に当たったはずなのに、身体は濡れておらず、代わりに焦げ臭い匂いをしている。


 これが、飛鳥の【付与(エンチャント)】である。

 飛鳥が水に対してイメージできる物であれば何でも付与することができるのだ。

 今のは、水の弾丸の中に上位属性の天属性を付与したのだ。


 飛鳥は周りの水球を使って、次々と『グリムベアー』や美優の弓矢から漏れた魔物を殲滅していく。

 そして、気が付けば、


「ふう、楽勝ね」

「はい!」


二人で全ての魔物を殲滅していた。


「……僕の出番は?」


ボソッと呟いてみたが、


「うーん、【自動照準(ロックオン)】、便利なんだけどセットまでに時間がかかるのがネックね」

「それでも、凄く便利だと思います。一度、創り出せば後は勝手に敵へ向かってくれるなんて」

「まあね。でも、弾丸の補充に少し時間がかかるから、その点が今後の課題かしら。その点、美優の神具は万能ね。矢は尽きることなく連射ができるし、【爆弾草(リーフボム)】っていう爆発する矢もあるわよね。さらに、矢はあくまで植物を使用しているということもあって、私に比べて魔力の消費も少ないっていうのは羨ましいわ」

「えへへ~、ありがとうございます。でも、まだまだ頑張らくなくちゃですね!」

「ええ」


 誰も聞いてくれなかった。

 飛鳥と美優は先ほどの戦闘の反省を話し合い、盛り上がっていた。

 寂しげにしている僕にメルディウスが近づいてくる。


「えーっと、ココロ殿は取りあえず、魔石やドロップ品の回収を行いましょうか」


 そう言って、メルディウスは回収用の麻袋を僕に渡した。


「まだ周囲に、少し魔物がいるみたいですが、アスカ殿とミユ殿で十分対処可能だと思います。ココロ殿は戦闘訓練よりもむしろ魔物の血や死体に慣れるほうが良い経験になると思います。勿論、私もお手伝いしますから」


 僕に優しく声をかけたメルディウスは、近くの魔物の死体から魔石を回収していく。

慣れた作業で淡々とこなすメルディウスに対して、吐き気がしない程度に死体に慣れてきた僕では回収作業のスピードが全く違う。

イヤイヤながらも、血まみれで死んでいるゴブリンの死体から魔石を回収していく。

その周りでは、新たな魔物を見て、意気揚々と戦う飛鳥と美優。

女の子ってたくましいなと、思いながら目の前の魔石回収に僕は集中した。


…………

……


周辺の魔物をあらかた倒しつくした飛鳥と美優も魔石回収作業を手伝い、全ての作業が終了した。


「だいぶ手際が良くなりましたね」


途中から、回収作業を見ていたメルディウスが僕達を褒めてくれた。

僕達との模擬試合のさい、問答無用でボコボコにする鬼教官が突然褒めたことに僕達は驚いた。

僕達の驚いた顔を見たメルディウスは苦笑する。


「何ですか、その顔は。まあ、元々、貴方達の身体能力と神具の力には目を見張るものがありました。使い方さえ覚えればすぐさま戦力として活躍できるというのは予想できていましたからね」


コホンと、一呼吸してメルディウスは話を続ける。


「とはいっても、まだ初歩中の初歩を教えたにすぎません。何度も言っていますが、慣れ初めの最初が一番危ないのです。だから、これからも油断することなく訓練に励んでください」

「「「はい」」」


元気よく答える僕達を見て、メルディウスは柔らかく微笑む。

メルディウスは高嶺の花と思うぐらい顔立ちが整った美人で、いつも凛とした佇まいでいる。そんな彼女が、今みたいにたまに笑いかけられると、思わずドキッとしてしまう。

そんな僕の内心を察知したかのように、


「なに、デレデレしてんのよ。別にアンタにだけ言ったわけじゃないでしょう」

「志くん。そんな目でメルディウスさんのことを見たら失礼ですよ」


にこやかに微笑む飛鳥と美優に思いっきり足を踏まれた。


本日の訓練を終え、僕達はトパズ村へと戻った。

メルディウスは帝国騎士団の宿舎に用があると言って、途中で別れた。

飛鳥と美優も先にお風呂に入りたいということで宿屋へ帰った。

特にやることもなかった僕は、取りあえず今日回収した魔石を換金するため、『教会』へと向かった。


『教会』

この世界で教会という存在は必要不可欠である。

古から人々の生活に寄与しており、様々な恩恵を教会は人々に与えている。

例えば、魔石の換金、魔導具の製造・販売、魔療士(マリョウシ)や騎士団の派遣など、ありとあらゆるところで役立つ大変便利な組織なのである。

そのため、この世界の人々はたとえ王族であろうとも教会に敵対することはしない。

また、教会も、〝政治的な介入は一切せず、相互援助を行うのみ“というスタンスのため、争うことはないらしい。


トパズ村の教会は村の中心地、ちょうどジュンと戦った広間の一角にある。

厳かな佇まいに石造りの堅牢な建物。

中に入ると、目の前に巨大なステンドグラスがあり、色鮮やかな光が差し込まれていた。

真っ赤な絨毯が中心を彩り、その端には多くの椅子が並べられている。

その中央に、巫女姿の女性がいた。

女性は二十代前半ぐらいの出で立ちに、ピンク色の三つ編みをしている。

目元は少し垂れており、おっとりした印象を与えている。


「ガーナさん。こんにちは」


巫女姿の女性―ガーナさんに僕は呼びかけた。


「あら、ココロさん。こんにちは。今日はどのようなご用件で?」

「魔石の換金に来ました……これお願いします」


そう言って、今日回収した魔石をガーナさんに渡す。

量としては、5L(リットル)容量の麻袋一杯に入った魔石。それが二袋ある。


「あらあら、随分稼ぎましたね~。わかりました。奥で換金いたしますので少々お待ちください」


袋を受け取ると、ガーナさんは奥の部屋へと入っていく。

しばらくして、奥の部屋から戻ってきた。


「だいたい4,750RGですが、ここ最近のご活躍を考慮して、5,000RGで買い取りたいと考えていますが、いかがでしょうか?」

「全然大丈夫です! むしろ、ありがとうございます」


彼女の提案にすぐさま僕は乗っかった。

飛鳥がいれば、「馬鹿! 足元見られてるかもしれないでしょう!」と怒られた可能性もあったが、ガーナさんは人を騙す人ではないと僕は信じている。


換金を終え教会を出た僕はのんびりと村を歩く。

中央広場から宿屋までの間には、様々な屋台が並んでいて、あちこちから良い匂いがしている。

ウルフの焼肉、川魚の塩焼きなど、美味しそうな物ばかりある。

なにか食べようかなと屋台を見て回っていたら、


『ヒック、なんだって!』


屋台の前で座り込む犬耳少女がいた。

紅蓮の赤い髪に、ホットパンツからはみ出た尻尾が目立つ。

露出が激しい服装をした彼女だが、僕よりも背丈は低く恐らく年齢も四つ下ぐらいと思う。

彼女の頬は赤く、屋台の店主と何やらもめている。

どことなく、彼女の周りからお酒の匂いがする。


「だからお客様。先ほど申した通り、まだお代金をいただいていないので――」

「だ・か・らよ~、何度も言ってんだろう。このティナ様はちゃんと払ったって……ヒック」

「だから、足りてないんですって!」


酔っぱらってるティナに一生懸命説明する屋台のオッサン。

しかし、ティナは全く理解できていない。

そんなやり取りが目立ち、段々と人だかりができてくる。

やがて、


『オイ、あれ『亜人』じゃないか?』

『ああ、あの耳に尻尾……間違いない』

『大丈夫か。あの店主。亜人は野蛮な者が多いからな』


観客がざわつき始めた。


『亜人』

ティナのような人間と同じ姿形をしているが、一部犬耳や尻尾といった獣の要素を持った人種をいう。

この世界の人種は、ワーウルフやリザードマンといった獣の姿をした〝獣人“、一般的な姿形をした〝人間”、そして獣人と人間の特徴を有した〝亜人“の主に三種類がいる。

〝獣人“や〝亜人”は身体的能力が〝人間“に比べ優れている一方、〝人間”に比べ数は少ない。

また、この世界は〝人間“中心の考えが根強く、〝獣人“と〝亜人”は奴隷に近い扱いを古くから受けていた。そのため、〝人間“と〝獣人“または〝亜人”には大きな溝がある。


そんな周囲のざわつきなど無視して、


(すげえ! 初めて見た。本物の犬耳!)


僕は目の前の犬耳少女を見て感動していた。

アニメや漫画のような二次元ではなく、現物が目の前にいるのだ。

しかもコスプレのような作り物には見えず、彼女の感情に反応してピクピク耳や尻尾が動いている。

この世界に来て、理不尽なことに悩まされ続けたきたが、今だけは異世界に来たことに感謝した。

そんなふうに感激していると、


「チッ! さっきから、うるせえな。ったく――殺すか」


少女の目つきが鋭くなった途端、辺りが静寂に包まれた。

少女が放つ殺気にビビって、誰も声を発することができなくなったのだ。

緊迫した空気が紡ぐ中、少女の手が動けない店主の首に触れようとする。


「待ちなさい! このアホ犬!」


突然、奇妙な格好をした大男にティナが頭を叩かれた。


「いってぇえー!! 何すんだよ、ビーグルのオッサン!」

「誰がオッサンよ! 私は清らかな乙女よ。失礼しちゃうわ」


叩かれて怒るティナにオッサン呼ばわりされ、逆に怒り出す大男。

四十代に見えるごつい髭面の顔に対して、服装は女性が着るビスチェである。

違和感が半端ない。

仕草も男の動きではなく、自分が女の子であることを意識した動きである。

……ぶっちゃけ変態だと思う。


だが、ビーグルのおかげで緊迫していた空気が霧散した。


「とにかく、こんなところで騒いじゃだめでしょ」

「って、オイ! 放せ、こら」

「貴方もごめんなさいね。この子、田舎者だから、ついハメをはずしちゃったのよ。これお詫びね」


ティナの首元を片手で掴んだまま、店主にお金を渡す。

「こんなに! 受け取れません」と店主が必死に断ろうとするが、「迷惑料よ」といって強引にお金を握らせ、その場を後にする。


二人は言い争いながら、反対方向へ向かうが、途中立ち止まった。

そしてティナが振り返り、僕と視線が合った。

獲物を見つけた―そう言わんばかりに目を輝かせ、僕を見ている。

そんな彼女に、ビーグルがバシッと頭を叩き、僕と目が合い、そのまま何事もなかったように立ち去って行った。

不思議な人達もいるんだと思いながら、宿屋へと僕は戻った。


…………

……


深夜の時間帯。

雲に包み込まれ微かに見え隠れするかすかな月の光。

事件はその日の夜中に、この声から始まった。


「「火事だー!!」」


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