第69.5話:クロイツへの道中(メルディウス視点)
私はメルディウス・シュバルツ。
職業は騎士です。
……。
……。
いや、本当ですよ。
表向き騎士団を止めたということになっただけで、私は騎士なのです。
最近、「〝自称騎士“ってよりも、俺達に魔物を戦わせて自分は何もしていないから〝ニート騎士“のほうが的確なんじゃねえの!?」という、心ない発言をした元同僚がいたので、少し気にはしているのですが(もちろん、その同僚は倍以上に特訓の負荷を上げて、その減らず口を黙らせてあげましたが)。
何度でも宣言します。
私は騎士です!
さて、私のことをわかって頂いたところで、本題に入ります。
「こっちのほうが似合いますよ! 飛鳥さん!」
「わかってないわね美優。凛としたメルディウスさんだからこそ、このフリフリドレスが間違いなく似合うのよ!」
現在、着せ替え人形の如く次々に服を着せ変えられている私は一体なんでしょうか。
………
……
…
ココロ殿達と一緒にクロイツへと向かうことになり、私達はリデント村を後にしました。
出発の際、多くの村の人達がココロ殿達にお礼を言っていました。
ココロ殿達の出発を駆けつけ遠くの村から出向いてくる者までいました。
中には出発を惜しんで泣く者達もいました(主にアスカ殿とミユ殿の近くにいた人達でしたが)。
いずれにしろ、彼らは大勢の村人達を救った英雄ですから、村人達に別れを惜しまれるのは当たり前だといえます。
誰かに言われたからではなく、自ら考え行動したココロ殿達を私は誇りに思います。
結局、村の異変は全て木竜の暴走が原因だったそうです。
ココロ殿にやられた木竜は正気を取り戻した後、地面奥深くに潜り、この森から姿を消しました。
もう二度とこんなことは起きないと、ミユ殿が太鼓判を押していました。
話を聞けば、どうやらミユ殿は木竜と話をしたそうです。
どうやったら、木竜と会話できるのか謎ですが、この三人が選ばれし勇者だということは間違いないと思いました。
私達はリデント村を出発しました。
木竜の暴走により、砂漠化していた箇所は少しづつ緑の芽が生えてきています。
これは木竜が自然を回復させているのか、それはわかりませんが良い兆しのように見えます。
私は昨日から考えていたプラン―――旅の道中、ココロ殿達に稽古を付けること―――をココロ殿達に提案しました。
皆さん、とても驚いていましたが、私の本気度が伝わったのか素直に聞いてくれました。
やはり、有無を言わさず馬車から突き落としたことが功を奏したようです。
これからも、この調子で皆さんを扱いていきたいと思います。
旅は順調に進みました。
途中、何度も多くの魔物達に襲われたり、特訓の扱きに逃げだそうとした不届き者達を罰したり、ミユさんが振るった料理の味に悶絶したりするなど、想定外のことばかりが起きましたけど。
魔物との戦闘では、ココロ殿達に一つ制約をかけました。
―――神具の使用禁止。
最初は驚いていたココロ殿達でしたが、私が言った意味を充分に理解してくれたのでしょう。
素直に指示に従ってくれました。
私が三人に神具の制限を課した理由。
それは、神具の力があまりにも強大すぎ、かつ未知の部分が多すぎるからです。
気がつかない内に、彼らは神具の強大な力に頼り切っているようにみえました。
だから、この機会に一度自分の力を見つめてほしいと思いました。
この旅が始まってから三週間が過ぎました。
旅の始めではEランクの魔物に手こずっていたココロ殿達ですが、今ではDランクの魔物も普通に倒すことができました。
そう、彼らは神具がなくとも元々十分強いのです。
もっと自信をつけてもらわなくてはいけません。
……この辺にCランクの魔物っていたかしら。
そんなふうに、私達の旅が順調に進んでいたときでした。
『おい、あれってメルディウス様じゃないか!』
『本当だ。疾風の妖精だ!』
『オレ、サインほしい!』
私の姿がものすごく目立ってしまいました。
私達はちょうどクロイツへと向かう街道へと入ったところでした。
人の往来も大分多くなったため、私のことを知っている人もチラホラ出てきたみたいです。
一応、そういう事情も考慮して、私達は人々が通らない場所を移動していました。
近道なんですが魔物の巣窟ということが少しネックです。
まあ、ココロ殿達の特訓もかねてちょうど良かったのですが。
「さて、これは困りましたね。ココロ殿達の認識阻害の魔導具を借りるわけにもいけませんし」
「どうしましょうか?」
「……あの街で変装できる服装を探すというのはどうでしょうか? ちょうど、私達も服を色々と買いたいと思っていたので」
困っていた私に、アスカ殿とミユ殿が助言をくれました。
服装には正直無頓着な私だったので、二人の提案には正直助かりました。
そして、サボエラの街へと到着した私達は久しぶりに野宿ではなく宿を借りました。
荷物を置いた私達は、これから必要な物を買い揃えようと街へ繰り出したのですが……
………
……
…
「だから、メルディスさんは大人なんですから、もう少し落ち着いた印象にした方が良いに決まっています! そんなこともわからないんですか、飛鳥さんは」
「美優! アンタはミーアのときもそう言って、地味めな服ばっかり選んでいたじゃない!」
「……あ、あの」
私の服装を巡り、ミユ殿とアスカ殿が言い争いを始めました。
かれこれ一時間以上はかかっています。
「じ、地味って何ですか! 飛鳥さんが選ぶ服が派手すぎるんです!」
「派手って、こんなの普通でしょう!? 美優、あんま地味な色ばっかり選んでいたらオバサンっぽくなるわよ」
「お、オバサンって! 飛鳥さんさこそ、大○のオバサンみたいに派手派手な服装ばっかり選ぶにようになるんじゃないですか!」
「あんですって!!」
とうとう二人は取っ組合いの喧嘩をするようになりました。
こういうときこそ、ココロ殿に止めてもらいたいのですが。
彼は。
「あ、その、僕達は服は後で買うから、その、皆は先に行っててよ」
「おう、男の俺達がいると色々気を使うからな! じゃあな! よし、行くぞ! ココロ」
と言って、彼とアナベルは私達と別行動をとっていました。
恐らく、この事態を見越してのことでしょう。
私に何も告げず、自分達だけ助かろうとする姿勢。
……更に特訓を厳しくする必要がありそうですね。
「あの、私はどちらの服装でも構わないので―――」
「「メルディウスさんは黙っていてください!」」
「……はい」
仲裁に入ろうとしますが、二人の剣幕になす術もありません。
喧嘩している最中なのに、何故息ぴったりに答えるのでしょう、この二人は。
二人は、私を試着室に置いて別の服を探しに行きました。
その間、一人になった私はこれから先のことを考えることにしました。
この〝サラエボ“の街を超えると、クロイツに向かう二つのルートがあります。
一つ目は、遠回りになるが魔物の敵襲もない安全な街道。
二つ目は、近道だがザナレア大陸北部で最も危険度の高い魔物達が生息する〝スリゴ大湿原“を通るルートだ。
前者は三週間、後者は一週間でクロイツへ到着することを考えると圧倒的に後者のルートを選びたいところですが、〝スリゴ大湿原“は、時折Cランク以上の魔物が出現することもある。今の彼らで大丈夫なのか不安な部分があります。
つい最近読んだ鳥獣新聞社の新聞によると、南部の国々が何やら兵を集めクロイツへと向かっているという話も聞きました。このまま、ココロ殿達をクロイツへと連れて良いのか私は心配していました。
三人がクロイツへ行くことを楽しみにしているのを、この道中で良く分かっていたため、今さら行ってはいけないとは言い難かったです。
特に、意外だったのがアスカ殿とミユ殿が、ユウジ殿に会って話をしたいと言っていたのが印象的でした。親友同士であるココロ殿ならわかるのですが、あの二人が一体どうしてあんなにユウジ殿に会いたがっているのでしょうか。謎です。
「メルディウスさん! 聞こえてますか!?」
「―――!!」
「メルディウスさんに絶対似合う服を見つけたんです! どうぞ!」
考えに気を取られていたら、いつの間にか二人が帰ってきていました。
先ほどまで言い争いをしていた二人でしたが、何故か仲直りしているように見えました。
ただ、私はもっと気になることがあったので尋ねてみました。
「……あの、これを着ろと」
ミユ殿が手にしていたのは、執事が着る男性の礼服が用意されていました。
アスカ殿も「これなら間違いない!」と言うような顔で私をキラキラと見つめていました。
「ミユ殿、アスカ殿。一応、言っておきますが、私の性別は女性なのですが……帝国貴族でもある私が給仕の服を着るというのは、その―――」
「そんなのわかっていますよ!」
「だから、良いんですよ!」
「えっ! ちょっとま、待って、待ってくださいってぇええええ!!」
二人に腕を掴まれた私はグイグイと試着室へと連れて行かれる。
おかしい。この二人、訓練中でもこんな怪力を発揮したことなどなかったのに。
「あの親切な紳士さんの言う通りでしたね!」
「ええ。盲点だったわ。メルディウスさんの美しさと体格を生かすなら、〝男装令嬢“というジャンルはとてもいいわ!」
「なんですか! そのジャンルは! とういうか、誰ですか! その紳士の方は!」
何故でしょう。
トパズ村のときに私に強制的にメイド服(魔封じのドレス)を着せたあの変態のことが頭の中を過ったのですが。
「アタシ、いい仕事したわね~」とグッと親指を決めている気がして、正直無性に腹が立ちました。
「ほーら。ごねていないで早くお着換えしましょう!」
「どちらの服装でも構わないってメルディウスさんが言ったんですから……それともメルディウスさんは自分が言ったことを嘘だというのですか!?」
「ミユ殿! それは卑怯!」
「さっ! 覚悟を決めてレッツゴー!!」
「い、嫌だァアアアア!!」
店を出た後、私の姿は執事服を着た男性の姿をしていた。
その姿を、ココロ殿とアナベルが見て、二人ははじめ大きく笑った後、「とても似合う」と言ってくれました。屈辱です。
だから、これから私達が行くルートは、〝スリゴ大湿原“を通るルートに決めました。
……決して腹いせなんかじゃありませんから。
章ごとに必ず着せ替えされるメルディウス。
許してくださいw




