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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第3章(前半):クロイツ
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第65話:志(暴走状態) vs 飛鳥&美優

帰宅が遅れて投稿が遅くなりました。

大変すみませんでした。

 真っ黒に焼き尽くされ地面に倒れている木竜(ドリアード)のすぐ傍。

 巨大な木竜の体躯と比較すると、豆粒に見える三つの小さな星々。

 その星々は、流れるように互いの色を交差させながら光り輝いている。


「【水弾(ウォーターバレット)】」

「【麻痺草(パラライズソウ)―――セット!】」


 水色と緑色の輝きを放つ無数の閃光が、一際輝く青黒い星へと折り重なる。

 だが、濃い青色に染まるかのように、二色の色は瞬時に輝きを失う。


「ウォオオオ!!」


 身に纏う炎で、飛鳥と美優の攻撃を防いだ志は雄叫びを上げる。

 その姿は凶暴な魔物(モンスター)を連想させる立ち振る舞いだった。

 破壊衝動に魅入られた怪物。

 そんな怪物に、二人は毅然とした態度で臨む。


「美優! アタシの援護をお願い!」

「わかりました」


 飛鳥は美優を後方に下げ援護射撃をお願いすると同時に、自身の神具―――杖に魔力を込める。


「……【水剣(ウォーターソード)】!」


 声に反応して、飛鳥の握る杖が水に包まれ剣の形状へと変化した。

「で、できた~」と飛鳥がホッとしたのもつかの間。


「飛鳥さん! 左斜め上方向に来ます!」

「―――ッ!!」


 美優の指示を聞き、飛鳥が慌てて水剣を美優が指示した方向へと構えた途端。

 キーンと、炎と水の剣が交差した。

 高速で接近していた志の姿を美優の瞳は正確に捉えていた。


「ぐぬぬぅううう! 負けるもんですか!」

「……ホウ」


 剣で押し合う形になった飛鳥と志。

 飛鳥が気合を入れて、志を後ろへと押し返す。

 ゼエゼエと息を吐きながら、飛鳥は離れた志を睨みつけた。


「コレハドウダ!?」


 志の背中に生えている炎翼の片方が広がり、飛鳥達に向かって羽ばたいた。

 数百に及び炎の羽が凄まじい速度で飛鳥達を襲う。


「てぇえええい!!」

「セイッ!!」


 飛鳥は水剣と、周りに浮かぶ水弾(ウォータバレット)で炎羽を次々と打ち落とす。

 美優も常人離れした動体視力を用いて矢で打ち落とす。


 全ての羽を打ち落とした二人は、すぐさま志を捕縛するための行動をとった。


「思い付き魔法パート2! 【幻影霧(ミストハイド)】」


 再び飛鳥が魔法を唱えた。

 飛鳥が生み出した幻惑の霧が辺りを包み込んだ。


「コザカシイマネヲ!」


 辺り一面、霧に覆われて志は飛鳥と美優の姿を見失った。

 霧の煩わしさに志が苛立つ中。

 突如、全方位から志に目がけて一斉に大量の矢が放たれた。

 矢には全て麻痺効果のある【麻痺草(パラライズソウ)】が付与されていた。


「ウットオシイィイイ!!」


 襲いかかる矢を瞬時に見切った志は大剣でを振り払い悉く破壊する。

 後方の矢は、炎翼と尻尾で焼失させる。

 無数に降り注ぐ矢を振り払いながら、飛鳥達の気配を探す志だが、幻惑の霧が邪魔をして二人の気配を探ることができない。

 見えない視覚からの攻撃は、延々と続いた。


「―――ナンダ、コレハ!?」


 襲い掛かる矢を破壊していると、自分の動きが鈍くなっていることに志は気づいた。

 自分の身体を見ると、身体の数か所が氷で覆われ凍結していた。


(麻痺矢以外に、別の物が紛れている! これは氷の矢!? それに、なんだ! 変な匂いもする)


 美優の放つ矢に紛れて、飛鳥は凍結効果のある【氷矢(アイスアロー)】を放っていた。

 さらに、志の周辺には美優が創成した【睡眠草(スリプルソウ)】が設置されていた。

 香りに(いざな)われ、志の意識は少しずつ奪われていた。


 志の動きが鈍くなっていることを、飛鳥と美優は遠くから観察していた。


「いける! この調子なら。美優、あと少しよ! 頑張って!」

「はい!」


 飛鳥の指示通りに、美優は数百の麻痺矢を創成し志に向けて何度も放つ。


 数百の矢を瞬時に創成するというのは、美優の力を持ってしても至難の業だった。

 また、志の周辺に睡眠草(スリプルソウ)を咲かせるという、二つの魔法を美優は同時に行っていた。


 二つの同時魔法は、この世界の一般的な魔法士では、まず魔力が足りず不可能なものであった。

 仮に魔力が足りたとしても、術式が混ざり合い、制御が上手くいかず最悪の場合、自爆する危険性もあった。


 そんな神業を自分の感覚で制御する美優は、魔法を扱うセンスがずば抜けて高いと言えるだろう。

 だが、そんなことを知らない美優は、隣にいる親友(アスカ)の凄さを目の当たりにして驚いていた。


「美優! 次は向こうへ! 振り払った瞬間がチャンスよ!」

「わ、わかりました!」


 飛鳥は【氷矢(アイスアロー)】を放ちつつ、【幻影霧(ミストハイド)】の効果を維持するよう努めていた。戦況を細かに分析しながら、要所要所で的確な指示を美優に伝えつつ、志を追い詰めていた。


 飛鳥は志と戦うことを決めて、すぐにこの作戦を思いついた。

 圧倒的な力で攻めてくる志に直接対峙するのではなく、姿を隠して遠距離から攻撃を仕掛ける。

 志が矢に気を取られている隙に、本命の氷結魔法と、美優から事前に聞いていた睡眠草を使って無力化させるのが狙いだった。


 瞬時に考えたこの戦略にも驚いたが、美優が驚いたことはもう一つあった。


(飛鳥さんはどうやって即興で魔法を創り出すことができるんでしょう?)


 美優にとって、魔法を創り出すことは植物図鑑を見てイメージを膨らませる以外になかった。

 イメージだけで作った魔法もいくつかあるが、どれも魔力が十分に伝わらず形にならないことが多かった。


 しかし、飛鳥が先程放った水魔法―――【水剣(ウォータソード)】、【幻影霧(ミストハイド)】、【氷矢(アイスアロー)】は即興で作ったにしては、どれも形になっていた。全て飛鳥のイメージ通り効果の高い魔法となっていることは傍目から見ても明らかだった。


「……やっぱり、これ(・・)のおかげみたいね」

「それは?」

海竜リバイアサンから貰ったの」


 美優の表情を見て気づいた飛鳥は、自分の神具―――杖にぶら下がっているアミュレットに触れた。

 このアミュレットは、氷結魔法が解除されたときに、飛鳥の神具にぶら下がっていたモノだった。

 飛鳥はこのアミュレットを海竜(リバイアサン)から貰ったと認識していた。


「……何でくれたのかは分からないけど……ありがとう。助かった」


 飛鳥は杖に更なる力を込めて、暴走する友達の動きを止めようとする。

 志は先程から防戦一方でその場から動けないままでいた。

 両足や両腕も氷つき始め、顔も下がり始めてきた。

 睡眠草の効果はジワジワと志の身体に影響を与えていた。


(いける! あと少し! お願い、最後まで持って!)


 美優同様に、もはや枯渇寸前の魔力を気力で振り絞る飛鳥。


 だが、ほんの少しのミスだった。

 美優が矢を一斉掃射した後の数秒の遅れ。

 本来であれば、飛鳥の氷矢がその隙をうめる手筈だったが、立ちくらみがして一瞬遅れてしまった。


「飛鳥さん!! 逃げてぇええ!!」

「えっ!」

「……【紅蓮一閃】!!」


 その隙を、志は見逃さなかった。


 幻惑の霧は、青黒い炎一色に染まり全てが灰燼と化した。

 爆発の規模は凄まじく、辺り一面が焼け野原となった。

 飛鳥と美優は爆風により、倒れている木竜の背中に叩きつけられた。


「ハア、ハア……ズイブン、テコズラセテクレタナ」


 自身の足や腕が凍結しているにも関わらず、志は気にする素振りも見せず飛鳥達のもとへと近づいてくる。内から湧き上がる力の解放感に魅了され、自分の身体が既にボロボロになっていることに気づいていなかった。


「あ、飛鳥さん! しっかりしてください」


 隣で倒れている飛鳥に美優は声をかけるが、返事はない。

 飛鳥は爆風で叩きつけられ意識を失っていた。


 美優の声で、志の【紅蓮一閃】に気づいた飛鳥は、咄嗟に【水壁(ウォータ・ウォール)】を自分達の前に放ち辛うじて直撃は免れたが、戦況は志に優位に傾いた。


 魔力も底をつきかけ、自分達を隠していた幻惑の霧もなくなり、頼りになる親友は気絶している絶望的な状況下の中、それでも美優は諦めていなかった。


「私は、あきらめ、ません。必ず、本当のアナタを、取り戻してみせます」


 ゆっくりと迫ってくる志を前に、美優は立上り戦う構えをみせる。

 志の燃える腕が、か細い美優の首を掴もうとする。


 そのとき、懐かしい声が聞こえた。


「何をしているんですか! アナタ達は!」

「えっ!」


 声のする方向へと美優が視線を向けた。

 そこには。


「特訓にしてはやりすぎです! もう少し自嘲しなさい!」

「いや、メルディウス。あれは特訓という感じではないと思うぜ……」


 帝国騎士団のメルディウスとアナベルの姿があった。

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