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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第3章(前半):クロイツ
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第63話:巨大樹の調査

 巨大蔦の被害を受けた村々の復興作業にようやく目途が着き始めた頃。

 僕達はこれから先のことについて話し合った。


「ガイネルさんからは、リデント村で待機って話よね?」

「うん。オーラル王国に見つからないようにすれば、とりあえずはいいって話だったけど」

「その後は?」

「特にありません。そもそも、リデント村にどの程度滞在すればいいのかも教えてくれませんでした」

「随分適当ね」


「まあ、ガイネルさんらしいけど」と、飛鳥が笑う。


「……少しいいかな?」


 僕は考えていたことを、飛鳥達に相談した。




「私達であの蔦の調査を行う!」

「うん。恐らく、原因は村人が言ってたあの巨大樹にあると思うんだ」

「村の後方に見えるあの巨大樹のことですね。突然、出現したって聞きました」


 リデント村の後方に一際目立つ巨大な樹木が見える。

 ちょうど、リデント村の周辺が砂漠化したときに出現したそうだ。


「村の人達も不気味に思って、誰も近づかなかったみたいだけど……あの木以外に原因が見当たらないんだ」

「まあ、怪しいことには間違いないわよね」


 僕の意見に飛鳥が同意した。


「……村の人達は許してくれたけど、僕は何か村の人達に償いをしたいんだ」


 リデント村の他に多くの村も被害に遭っていた。

 他の村の人達の救出には成功したけど、巨大蔦がまたいつ襲ってくるかわからない状況の中、自分にできることは何でもやりたかった。


「わかったわ。まあ、この前のように一人で先走らなかっただけ、まだマシね」

「志くんが望むなら、私も喜んで協力します!」


 腕を組み満足そうに頷く飛鳥と優しく微笑んでくれる美優。

 二人の優しさに心の底から僕は感謝した。


「ただ何度も言ってますけど、志くんは村のために十分頑張っているんですから。もう少し自分を許してあげても良いと思います」

「美優の言う通りよ。アンタは少し気が抜けたぐらいが丁度いいんだからッ!」

「あいた!」


 飛鳥に背中を叩かれて思わず悲鳴を上げてしまった。

 でも、二人の言葉に少し肩の力が抜けた気がする。


「それじゃあ、明日あの巨大樹を調査しよう」


 行動方針が決まり、僕達はそれぞれの部屋で床に就いた。


 翌日。

 僕、美優、飛鳥の三人は調査のため巨大樹の根本に来ていた。

 某有名テレビの『この木何の木~』のCMでお馴染みの光景が僕達目の前にあり、思わず魅入ってしまう。


「本当、大きいわね!」

海竜(リバイアサン)と同じくらい大きいんじゃないですか!」


 聳え立つ巨大樹を見上げる飛鳥と美優。

 確かに、二人が言うように巨大樹はとても大きかった。


「で、どうするの? とりあえずグルっと周辺を回ってみる?」

「そうだね。周辺にあの変な蔦が生えていないか、まず確認してみよう」

「はい!」


 三人で巨大樹の周りを歩いてみる。

 枝葉から差し込まれた日差しが何とも気持ち良かった。



 およそ一時間周辺を探索したが、蔦らしきものは全く見当たらなかった。


「全く見つからないわね」

「そうですね」


 少し休憩して、僕たちは巨大樹の根本の日陰で休憩を取っていた。


「うーん、この巨大樹が一番怪しいと思うんだけどな」


 当てが外れてしまい気を落としてしまう。

 そんな僕を美優が優しく慰めてくれた。


「まあ、まだ少ししか見ていませんから。それに、もしかしたらこの木の上かもしれませんし」


 美優が巨大樹の根本に手を触れたそのときだった。


「えっ! 何!?」

「ちょっと! なんか地面が揺れていない!」

「急いで巨大樹から離れよう!」


 僕達は慌てて巨大樹から避難した。

 すると。


『グゥオオオオオオオーーン!!』


 巨大樹の真下から、突如、エメラルドグリーンに輝く巨大な(ドラゴン)が姿を現した。

 地面から出現した竜の出現により、土煙が大量に舞い空から大量の砂や瓦礫が降り注ぐ。


「まさか……(ドラゴン)!」


 出現した巨大竜を前に、僕達はすぐさま神具を取り出し構えた。

 外観は巨大な亀の姿形をしているが、僕にははっきりとわかった。

 海竜(リバイアサン)天竜(ヘブズニール)を前にして感じた威圧感が、目の前の魔物からゾクゾクと伝わってきた。


「あの巨大樹はアイツの一部だったってことね!」


 無数の水弾(ウォーターバレット)を周囲に浮かせた飛鳥が遠巻きに(ドラゴン)を睨みつけた。

 先ほどまで僕達が休憩していた場所はちょうど亀の甲羅の中心部分だったみたいだ。

 甲羅の真上に巨大樹が生えた格好になっている。


「気を付けてください! 来ます!」


 美優が言った通り、(ドラゴン)はこちらに勢いよく突っ込んできた。

 頭部から見える鋭く大きな牙を見れば、噛み砕かれた瞬間、僕達の命はお終いだ。


「【水弾(ウォーターバレット)―――展開―――一斉照射!】」

「【爆発草(リーフボム)】セット―――セイッ!」


 無数の水の弾丸とグレネードに匹敵する爆弾効果のある弓矢が(ドラゴン)に直撃する。

 しかし、(ドラゴン)は勢いを失うことなく、自分達に突っ込んでくる。


「志!」

「志くん!」


 遠距離攻撃を続けながら二人が僕のほうを見た。

 二人の言いたいことは、わかっている。

 恐らくあの(ドラゴン)は外観から推測するに、木竜―――すなわち木属性の魔物だと。

 僕の神具―――火属性の大剣との相性なら、僕のほうが圧倒的に優位だと。

 しかし、僕は自分の剣技【紅蓮一閃】を使うことをつい躊躇ってしまった。

 なぜなら……


「くッ! 【紅蓮一閃】!」


 力を大分抑えた【紅蓮一閃】を木竜へと放った。


 木竜の腕が赤く燃え広がったが、すぐさま木竜の驚異的な再生能力により何事もなかったように迫ってくる。

 木竜の再生能力にも驚いたが、普段見せていた【紅蓮一閃】の威力が明らかに弱いことに飛鳥と美優はすぐに気づいた。


「ご、ごめん。僕は……まだ自分の力を十分に制御できないんだ!」

「えっ!」

「どういうことですか? 志くん」

「……実は―――」


 一人で他の村を回っていた時のこと。

 あの時も神具を使って、炎を出現させようとした瞬間。

「ドクン!!」と急に心臓を掴まれたような息苦しさを感じていた。


 どうやら神具の力に頼れば頼るほど、この感覚はドンドン増していくみたいだった。

 力を失った訳ではない。

 むしろ内側から溢れる力を僕が抑えきれなくなっているのだ。


 蔦を燃やす程度の炎であれば、我慢すれば耐えられるレベルだったけど、全力全開の【紅蓮一閃】を放った場合、僕自身どうなるか全く見当もつかなかった。

 そのことを、僕は二人に正直に話した。


「それはまずいわね。でもわかったわ。いい? 志は無茶せず自分ができる範囲で戦って! それと、そういうことは次からもっと早めに言いなさいよ」

「大丈夫です。志くんの調子が悪くても、私達がいます! 必ず志くんを守って見せます!」


 二人の放つ攻撃がより鋭さを増した。

 まるで二人の意思に比例するかのように威力が増している。


『グォオオオオオ!!』


 凶暴な雄叫びを上げながら木竜が僕達を追いかけてくる。

 先ほどよりも威力が増した飛鳥達の攻撃が木竜に当たっているのだが。


「何よ、あれ! 反則でしょう、あんなの! ボスキャラが回復してるんじゃないわよ!」

「ボスキャラって、飛鳥さん……でも、確かに卑怯だと思いますよねっと!」


 攻撃しても瞬時に自己再生を行う木竜に思わず悪態をつく飛鳥。

「セイッ」と美優が弓矢を急所に目掛けて放つが、木竜はすぐに回復する。

 完全に手詰まりな状況だった。

 こんなときこそ、僕の【紅蓮一閃】が必要なのに。


 僕が焦燥感に駆られていたら、突然木竜が動きを止めた。

 何事か警戒していたら、木竜の口が大きく開き巨大な魔法陣が現れた。


(まずい! あれは―――【大魔息(ブレス)】だ!)


 背中に戦慄が走った。

 美優と飛鳥ではあの攻撃を防ぐことはできない。

 ―――僕しかいないんだ!


「ちょっと! 志!」

「志くん!」


 二人の前へと飛び出した僕は、【大魔息(ブレス)】をチャージしている木竜に目掛けて全力全開の一撃を放つ。


「【紅蓮一閃】!!」


 大火力の炎が木竜の全身を燃やし尽くした。

 いつもの白く輝く炎とは違い、青く禍々しい輝きを放つ炎だった。

 炎に焼かれ木竜が悲鳴を上げる声を最後に。

 ―――僕は意識を失った。

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