第62話:今、自分にできること
神具から炎が放出した瞬間。
―――ドクン!!
急に心臓を掴まれたような息苦しさを感じた。
そして、そのあとの記憶は何も覚えていない。
…………
……
…
目を覚ました僕は、周囲の焼け焦げた状況を見て、すぐさま村の人達に謝罪した。
僕を止めてくれた飛鳥や美優も一緒にだ。
二人には本当に申し訳ない。
幸いなことに、村人達は笑って許してくれた。
巨大蔦から自分達の命を救ったことや、重傷者がいなかったことが幸いした。
僕達は村の復興を進んで手伝うことにした。
だけど、僕は全く役に立てなかった。
一方、飛鳥と美優は大活躍だった。
回復魔法が使える飛鳥は軽い火傷や、蔦に生命力を吸収され衰弱した村人達に治癒を施したりしていた。
美優は火傷に効果のある薬草を創生し村人に提供していた。
二人の活躍は治癒だけではない。
飛鳥は水魔法を使って、ウォータージェット工法で木々を適当なサイズに加工していた。瞬時に思い通りの形に加工する飛鳥の姿は、まるで職人のように見えた。
美優は防水性の高い植物を創生し、焼け焦げた木造建屋の表面や隙間に取り付けていた。この効果により、黒焦げになった家の外観は綺麗な状態へと戻り、防水性も問題なくなった。
頼りになる強力な魔法を持つ飛鳥と美優は、すぐさま村で人気者になった。
『あのアスカって娘。いいよな。あんなに美人で気立ても良いって最高だよな』
『ミユさんもいいよ! おしとやかで、こう守ってあげたくなる感じ! でも、凄い魔法も持っていて。全く偉ぶったりしないしな』
二人の人気は鰻上りだった。
一方、力仕事しか役に立てない僕は、村の大工の下っ端の人達と共に木材を運ぶことしかできなかった。
『……おい。坊主。すまんがこれ、運んどいてくれ』
「了解です!」
『って、おい、そりゃ持ちすぎだって! あんま気負うなよ。坊主。ありゃ、事故だったんだし、何より坊主は俺達を助けてくれたんだからよ』
「でも……」
『気持ちは十分に受け取ってるからあんま気にすんなよ。じゃないと、今のお前に声をかけたくても、誰もかけられないぞ』
「えっ?」
ふと周りを見ると、村人が僕を心配そうに見つめている。
『坊主の誠意は十分伝わってるから、肩の力を抜けって』
「……ありがとうございます」
僕のことを気にして声をかけてくれるリデント村の人達の優しさが、逆にとても心苦しかった。
こんな優しい人達を僕は無意識の内に燃やそうとしていたなんて。
そして、村に最も迷惑をかけた僕は復興支援に役に立てず、飛鳥や美優にフォローしてもらうこの状況が何より辛かった。
だから、考えた。
僕にできることがないか必死に。
…………
……
…
―――美優SIDE―――
私達がリデント村に来てから三日が過ぎました。
その間、私と飛鳥さんは村人の治療や復興作業に協力していました。
そして、志くんは……
「あのバカ! まだ戻ってきていないの!」
「……そうみたいです。村の人達が志くんの姿を森で見かけたみたいなので無事だとは思うんですけど」
このところ、志くんは元気がありませんでした。
よほど、自分がリデント村を全焼しかけたことに責任を感じているのだと思います。
「志一人だけじゃ大変に決まってるでしょう! リデント村と同じようなことが起きていないか捜索するなんて!」
今、彼はリデント村で発生した巨大蔦の件について、他の村でも同様に起きていないか調査に出掛けていました。この森林地帯はとても広いため一人ですべてを回るのは至難なことです。
私は、志くんのことが心配で仕方がありません。
そんなふうに飛鳥さんと話していたら。
「……ただいま。遅くなってごめん」
「ちょっと! 志、ボロボロじゃない!」
「志くん! 大丈夫ですか!」
志くんが村に帰ってきました。
志くんはとても疲れているのか表情が優れません。
草木を掻き分けてきたせいなのか、服も随分汚れていました。
まさかと思いますが二日二晩歩いていたのではないかと、とても心配になります。
慌てて志くんの治療に入ろうとした私達ですが、志くんは自分の体調を気にすることなく調査結果について報告しました。
「やっぱり、リデント村と同様に他の村でもあの蔦が村人達を襲っていたよ。でも今度は大丈夫だったよ。僕の神具で消滅させたし、村の人達も全員無事だったよ!」
数十に及ぶ村の全てを救ったのだと志くんは高揚した様子で私達に説明します。
明らかに普段の大人しい志くんと様子が違っています。
自分の状態を気にすることなく話す志くんに、飛鳥さんが心配して声を荒げました。
「志! アンタ、リデント村のことを気にしているからって、無茶しちゃダメでしょう!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ! 僕は!」
「―――ッ!」
志くんが飛鳥さんに怒鳴り返しました。
「僕は飛鳥や美優みたいに、治癒や村の復興活動に協力する力なんてない。精々丸太を運ぶ力仕事が精一杯だ! だったら、他に何かできることがないか探すしかないじゃないか!」
「志くん……」
己を省みずに村のために役立とうとする志くんの意思は、とても尊敬できるのですが、あまりにも痛々しい彼の姿を見ていて、私はとても辛く感じました。
飛鳥さんも、そんな志くんの姿になんて声をかけていいか、わからない様子です。
「とにかく、リデント村ほどじゃないけど他の村も被害が出ているんだ。だから、僕は早く助けに向かうよ!」
そう言い残して、志くんは門の外へと向かいます。
私は慌てて声をかけました。
「ちょっと待ってください! 少し休憩してからのほうが―――」
「大丈夫だよ。それに、僕にはそんな資格ないから……」
「ちょっと、志! 待ちなさいって! 志!!」
間髪入れることなく、志くんは別の村へと向かいました。
「……なに焦ってんのよ、アイツは!」
飛鳥さんの言う通り。
今の志くんは罪の意識に苛み、焦っているように感じました。
「……志くん」
私は、ただ彼が向かった方角を見つめることしかできませんでした。