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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第3章(前半):クロイツ
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第60話:リデント村へ

 ―――パカッ、パカッ。


 魔法馬(マホース)の軽快な蹄音(ひづめおん)が周囲に響き渡る。

 僕達は馬車でヨルド公国の近隣の村―――リデント村へと向かっていた。

 馬車の御者台には、魔法馬(マホース)の手綱を握る僕と美優がいた。


「……」

「……」


 互いに無言の状態が続く。

 というのも、現在、後ろの荷台で引きこもっている飛鳥を気にしての配慮だ。

 正直、どうしたらいいのか全く分からない。

 僕は飛鳥に聞こえないよう、声を小さくして美優に話しかけた。


(どうしよう! 飛鳥の(あね)さん。大変ご立腹な様子ですが! 後ろからのプレッシャーが半端ないんですけど!)

(いや、これ、無理ですよ……本当どうしましょう……)


 どうやら親友の美優でも飛鳥の引きこもり状態にはお手上げのようだ。

 どうしてこうなったのか、僕は先日起きた出来事を思い返した。



 ヨルド公国の(ドラゴン)騒動の一件で、僕達は表向き死んだことになった。

 ベルセリウス帝国とオーラル王国との戦争を回避するためだ。

 そのために、僕達三人はすぐさまヨルド公国を離れる必要があった。


 ヨルド公国を出立する前、ミーアのことを想い自ら嫌われ者を買って出ようとした飛鳥。

 僕達はミーアと飛鳥にそんな悲しい別れをさせないために、帝国騎士団のガイネルとメルディウス、ミーアとその母ルアーナ、ヨルド公国で出会ったトッティに協力を求めた。

 結果、飛鳥を騙すような形になったけど、ミーアと飛鳥は母娘の関係を取り戻し、円満に旅立つことができたのだ。

 それが昨日までの出来事だった。



 皆と別れてから、飛鳥は荷台の中へと籠り一歩も外に出てくれなかった。

 話しかけても全く返事はなく、荷台へ入ろうとしたら【水弾(ウォーターブレット)】が問答無用で襲いかかるため、僕と美優は仕方なく交代で野宿することになった。



(というか、僕達はただ師匠達に相談しただけで、あの作戦は全て師匠が立てたモノなのに!)

(飛鳥さんからしたら、自分を騙した計画に関与した時点で同罪なんですよ、きっと!)

(でも、流石にこのままじゃ拙いよ。昨日から水以外何も食べてないんだから、僕達)

(ええ。昨日は飛鳥さんを騙したってことで、負い目がありましたけど、流石にこのままではいけないと思います)


 何とか二人で飛鳥のご機嫌を回復する手立てを考えていると。


「……ねえ、志、美優……今日はやけに静かだけど何かあったの?」

「「ヒィィイー!!」」


 後ろの荷台から飛鳥が顔を覗かせ控えめな声で話しかけてきた。

 あまりの不気味さに僕と美優は思わず悲鳴を上げてしまった。


「どうしたの? もしかして、昨日の事を気にしてるのかしら? 大丈夫だよ。そんなこと全然ないからねー」


 にこやかな笑顔で僕達に話す飛鳥。

 だが勘違いしてはいけない。

 こういうときの彼女は大概怒っているのだということは身を持って知っている。

 ほら見ろ。

 美優の身体が震えているじゃないか。

 ……当然、僕もだ。


「二人とも身体が震えているわよ? もしかして、私が昨日の事で怒ってるって思ってるのかしら? そんなことないよ。ええ、私のためにしてくれたことだもんね」


「「……(ガクガク、プルプル)」」


 互いの手を握りしめながら、飛鳥様からのお告げを待つ僕達。


(どうする! 怒りを通り越して笑いかける飛鳥が正直気持ち悪いんだけど!)

(気持ち悪いなんて飛鳥さんに失礼ですよ! せめて、違和感がある程度に濁らしてくださいよ)

「……二人ともどうしたの? 何か私に言いたいことでもあるのかな?」

「「すみませんでした!!」」


 日本人が感じる最も誠意を感じる謝り方―――有名なジャパニーズDO・GE・ZAを美優と一緒に行った。

 もう、体裁などどうでもいい。

 重要なのは、爆弾が爆発する前に早めに処理することなのだ。

 すなわち


「飛鳥様! 騙して大変すみませんでした!」

「飛鳥さん! 本当にすみませんでした! どうかご勘弁を!」


 僕達は謝りつくす以外他になかった。

 ひたすら謝り続ける僕と美優の姿を、飛鳥は呆れた様子で眺めている。


「……だから許してるって言ってんでしょう。ほら、これ!」


 飛鳥が手渡しくれたのは荷台に積んであった食べ物だった。

 恐る恐る僕と美優はその食料を手に取った。


「……その、私も悪かったわよ……ありがとう。心配してくれて。もう大丈夫だから」

「えっ!」

「……飛鳥さん」


 フンと顔を赤くして僕達と目を合わせようとしない飛鳥。

 ……なに、このツンデレテンプレートのお嬢様は。


「はい! とにかく、この話はこれでお終い! いいわね!」

「ああ、そうだね」(ニヤニヤ)

「わかりました」(ニコニコ)

「アンタ達の笑顔がやけにムカつくんですけど!」


 キイキイと怒り出す飛鳥を見ながら、僕達は久しぶりに三人で楽しく食事を取った。



 食事を終え、僕達を乗せた馬車はゆっくりと前方へと進んでいく。

 後ろから覗き込んでいる飛鳥が、周りの異様な光景に思わず息を呑む。


「それにしても、すごいわね……私達が通ってる道を除いて、全てが砂漠化(・・・)してるなんて」

「そうですね。まあ、おかげで道に迷う心配はないみたいですけど……」


 リデント村まで続く街道。

 以前までは石畳でできた街道だった。

 草木が生い茂りどこが街道なのか分からないくらい緑に満ちあふれていた。

 しかし、今の街道は周囲の草木が枯れ果てて砂漠となっていた。


「これもミーアの……ううん。『竜の巫女』の力ってことなのね」


 ヨルド公国を出国する前にガイネルに言われたことを思い出した。


「ミー坊が『竜の巫女』として覚醒を遂げた日。いくつもの異常気象がヨルド公国を中心に発生したと聞いておる。恐らくじゃが、海竜(リバイアサン)天竜(ヘブズニール)以外の(ドラゴン)がこの世界に姿を現した影響じゃと思う。気を付けろ。お前さん達が向かうリデント村の周辺でもおかしな自然現象が確認されておるからのう」


 心配そうに僕達に話しかけるガイネルの姿が印象的だった。

 これから先、頼りになるガイネルやメルディウスはもういない。


(気を引き締めて二人を守らなくちゃ!)


 渡された地図と一本道を頼りに、リデント村へと僕達の馬車は進んでいく。

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