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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):SS
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SS2-8話:一カ月後

 アタシが〝最果ての村“に来て一カ月が過ぎた。

 アタシの最高級の誠意は、結局クミには伝わらなかった。

「……とりあえず、できる範囲で頑張る」と言ったきり、特に話が進展することはなかった。


(人間に期待するだけやっぱり無駄か)


 レナや村人達からクミのことを聞いて、正直クミの助けを期待してしまった。

 一瞬で人間達を無力化する強さやハイホー族を手なずけているところもそうだ。

 彼女の力があれば、きっと人間達に捕まったアタシ達の村人を救出できる―――そう期待してしまった。


 しかし、結果は駄目だった。

 やはり、レナや村の人達が特別といっても、クミは人間なのだ。

 アタシ達亜人や獣人とは考えが大きく異なるのだろうと、アタシはクミの勧誘を諦めた。


 頼みの綱だったクミの力も借りることができなかったアタシは、少しでも役に立つため精力的に村の人達の手伝いを行っていた。


 不思議なことに、この一カ月。

 〝最果ての村“は平和な日々が続いていた。

 

 アタシは子供ということもあって、レナと一緒に行動することが多かった。

 来年、成人になるレナは、子供たちの間ではリーダー役となっている。

 真面目に畑仕事をしたり、木の実や果物の採取、さらには狩りをしたりするなど、村でかなりの活躍をしていた。

 

 そんなレナをアタシは密かに尊敬している。

 だから、どうしてもわからなかった。

 こんなに仕事ができるレナがどうして……

 

 

「レナ~ごはん」

「はいはい。ちょっと待ってて、クミちゃん(ご飯の準備を始めるレナ)」

「……」

 

  「レナ~背中がかゆい」

「なによ、それ!? ったく仕方ないわね(クミの背中をかき始める)」

「あぁあ、そこ、そこだよ!」

「うふふ。どうですか? 気持ちいいですか?(満面の笑みを浮かべるレナ)」

「……」

 

「レナ~一緒に寝よう」

「うん。わかった(布団を敷き、クミと一緒の布団で眠るレナ)」

「ああ、レナの抱き枕は最高!」

「こら、クミちゃん。あんまり、さわらな―――アーン!」

 

「っておかしいでしょう!」

「「―――!!」」

 

 我慢できなくなったアタシは、ついに二人にツッコミを入れてしまった。

 

「クミ! アンタ、朝からずっと家にいて何にもしていないじゃない! アンタの仕事は何!」

「……自宅警護?」

「する意味あるの!? こんな平和な村の中で!」

 

 基本的に森の外から人や魔物が襲って来る気配もなく、また村人も皆良い人ばかりだ。

 間違っても盗みや強盗などは起きないと思う。

 

「まあまあ、ミレーユも少し落ち着いて」

「レナもレナですよ。クミを甘やかしすぎていませんか!」

「そ、そんなこと、ないよ?」

「……どうして、アタシから思いっきり視線を反らすんですか!」

 

 昼間のカッコいいレナは一体どこに行ったのだろう。

 今、目の前にいる人はまるでベタベタに甘えてくる子供を仕方ないなと面倒見るデレデレな母親のようにしか見えない。

 

「とにかく、クミも少しはレナを見習って一緒に仕事をしないと!」

 

 きつくクミに言っているが、心の底ではクミにはとても感謝しているのだ。

 村でこうして平和に暮らせるのもクミのおかげだと分かっている。

 だからこそ、クミのこの怠惰な状況が気になって仕方がなかったのだ。

 

 気持ちが通じたのか、クミが真剣な面持ちでアタシに語りかけた。

 

「……ミレーユ。こんな格言がある―――働いたら負けって言葉」

「知るかぁああ!」

 

 うん。

 通じ合っていない。

 というかどうして自信満々に回答しているのかアタシには全くわからない。

 

「まあまあ。ミレーユも落ち着いて。クミちゃんには何か考えがあるんだよ」

「……なんですか、考えって?」

 

 この一カ月。

 村の手伝いと同時に密かにクミの行動を観察していた。

 昼間に起きてレナにご飯を作ってもらったあと、畑へと向かう。

 大人達と少し話をした後、家に帰って寝るか、村からいなくなるかのどちらかのパターンだ。


 村からいなくなる場合も狩りや採取を行っているわけではない。

 だいたい、早朝に手ぶらで帰ってくるケースがほとんどだった。

 今日はたまたま寝る時間が同じだっただけなのだ。

 

「というか、クミは夜いつも何をしているんですか?」

「……な・い・し ょ」

「―――ッ!!」

 

 この質問も何度もクミに聞いているが、クミは全く答えてくれない。

 本当に人をおちょくるのが上手い人だと思う。

 

「まあまあ、クミちゃんの秘密癖は今に始まったことじゃないから、気にしたら負けだよ。ミレーユ」

「……レナって心が広いですよね……」

 

 アタシなら同居人がコソコソ何がやっているのであれば、気になって仕方がないんだけど。

 レナはそんなことないみたいだ。

 

「だって、クミちゃんだからね」

「……」

 

 その一言で解決できる関係なのだとわかり、アタシはクミを説得する術を失くした。

 結局、クミを説得できないままアタシ達は一緒の布団に入り仲良く眠りにつきました。

 クミがアタシとレナの間に入って、「うひょぉおー! 気持ち良い抱き枕がたくさん!」と謎のハイテンションを見せたのが少し怖かったけど。

 

 

 そんな穏やかな日々が数日続いたある日。

 異変は突然現れた。

 

 アタシを追って人間達がついに最果ての村へと入ってきたのだ。

 恐怖に怯えるアタシ。

 屈強な男達が村の門を通り抜けようとする。


『おい! ここに兔族の亜人が――――ぬお!』

「じゃかしい! さっさと出て行かんかい!」


 突然、どこからともなく、村で一度も見たことのない虎族の獣人達がアタシと人間達の間に割って入ってきた。

 

 ドカ、ボコ、ズコ、ボコ。

 ……。

 ……。

  『『『……』』』

「よし。例の場所へ連れて行け」

「了解!」


 虎族の獣人達に袋叩きにあい気を失った人間達を抱え、彼らは森の奥へと消えていった。

 

 あまりの急展開に頭がついていけなかったアタシだが、村に被害がなかったことにホッとした。

 だが、人間達は迷いの森に入り込んでいるということは間違いなくなった。

 

「……レジス村長。やはり、今のまま村に居ることは危険だと思うのですが」

「そうじゃのう。ふむ。まあ、その件なんじゃが、あと少し待ってくれんか。まだ準備が終えておらんのじゃ」

「準備?」

 

 村を出ていかないのであれば、せめて防衛するための設備を準備すべきではと提案したところ、仕切りに「あと少し待ってほしい」と言われてしまう。

 準備とは何なのか全くわからなかったけど、数日後その意味がよくわかった。

 そして、夜な夜なクミがいなくなっていた理由も。


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