SS1-24話:エピローグ
アルバード伯爵の反乱が終えてから、三日が過ぎた。
今回の反乱により、多数の死傷者が出た。
特に、アイアンゴーレムの不意打ちにより、セリスを慕っていた兵士の多くが死んでしまった。
また、奴隷として戦わされていた亜人達の数人も瓦礫の下に埋められ命を落とした。
今回の騒動を引き起こしたアルバード伯爵とイザベラは、捕縛され牢屋へと連れて行かれた。
国王暗殺という企み以外に、他国への無断の密輸や不正の水増し書類などが見つかり、二人には極刑―――死刑が言い渡された。
薬により理性を失くしたイザベラは、頭髪が真っ白でやせ細った姿のまま、何も話せずただ「アーアー」と奇声を発するようになった。
アルバード伯爵は雄二によってアイアンゴーレムが壊された後、雄二の教育的指導により、恐怖で頭髪が抜け落ち、身体はボロボロの状態にまで殴られ続けた。
また、イザベラやアルバード伯爵の罪は親族にまで及んだ。
イザベラの親族の者達は、計画に加担した疑いにより、全員牢屋行が言い渡された。
彼らは必死に関与していないと言い逃れをしたが、イザベラの部屋にあった日記により親族達が関与していた証拠が見つかり、その者達も極刑が言い渡された。
イザベラの日記には書いていなかったが、イザベラの娘であるサリナも母親同様に極刑が言い渡されていた。なぜなら、最も計画に関与していたのではないかとの疑いが強かったためだ。
そんな罪に怯える人達を救ったのは、セリスだった。
セリスは国王や国を統べる重鎮達の前で、再び〝心眼“を発動させた。
相手の嘘や心の状態を見通す〝心眼“の力により、本当に関与がなかった親族達やサリナは罪を許され普段の生活へと戻った。
計画の加担していた親族達は、セリスやクリスの説得により無期懲役の刑が下された。
その話を聞いて、雄二はセリスに尋ねた。
「本当に良かったのか? お前の母親の仇なんだろう?」
「……それでも、私はこの国の王女ですから……この国の人達が死んでいく姿は見たくありません」
「そうか」
本人がそう望むなら、何も言う必要はないと、雄二は思った。
(だが、俺が教育した牢屋の中で、強制的に更生されることになるだろう……ざまあみやがれ!)
サリナがアルバード伯爵の子供だった件について、雄二は国王に話した。
国王はイザベラが城を襲ったさいに、自ら戦うことをしなかった。
「自分の正妻を御することもできなかった愚かな自分に何も言う資格などない」と、国王は悲観的になっていた。
雄二はその話を聞いて、すぐさま国王を殴った。
「てめえがしっかりしていないから、セリス達が大変な目にあってんだろうが! ちったあ反省しろ!」
「―――!!」
国王だろうが何だろうが関係なかった。
今の雄二の思考はシンプルに一つ。
―――セリス達を害そうとする者がいれば、どんな障害でも跳ね除ける!
この後、国王を殴り飛ばしたことで、兵士達が雄二を取り囲んだが国王の制止により、雄二は罪を許された。
サリナは今まで通り王族として生きることが許された。
だが、王位継承権を失い王になることはできなくなった。
そのことをサリナに伝えたが、サリナは気にする素振りを見せなかった。
それどころか、
「此度の件、誠にありがとうございました。私の命を救っていただき何とお礼を申し上げればよいか」
セリスやクリス、そして雄二に向かって、サリナは深くお辞儀をした。
同時に、セリスに化物呼ばわりしたことを心から謝った。
極刑になる可能性が高かったサリナを救った理由も大きいが、一番はアルバード伯爵の屋敷の地下室で拘束されていたサリナをセリスが救ったのが一番の理由だった。
拘束され身心ともに衰弱していたサリナ。
外からは凄まじい爆発音が鳴り響き、サリナはずっと恐怖に怯えていた。
だが、やがて激しい戦闘音が止まり、段々と人の気配が遠ざかるのを感じていたサリナは、自分が気づかれないまま一生ここにいるのか不安になっていたところを、セリスが発見したのだ。
以降、自分を見つけてくれたセリス、そしてクリスに対して、サリナは態度を大きく改めるようになった。
このように、今回の事件によって問題となっていたことが全て良い方向へと解決していった。
〝奴隷廃止制度“についても、反対派の筆頭だったアルバード伯爵がいなくなり、さらに後ろ盾のイザベラもいなくなったため、流れは完全にセリス達のほうに傾いていた。
アルバード伯爵のもとにいた奴隷達も、今は国が保護する形になりボロボロだった身体もきちんと治療されている。
そんな誰もが幸せな方向に進んでいる中、一人だけ自分が予期していない方向へと向かっていることに気づいた少年がいた。
―――雄二SIDE―――
「……なあ? これ、どういうこと?」
「えっ!? どうと申されましても祝賀会ですわ」
突然、セリス達に呼ばれた俺は二人に連れられて城内の広間へと入り、気が付けばセリスと並んで主賓席のような場所に座っている。
周りには丸いテーブルがいくつも並べており、城内の多くの人達が正装して席についてこちらを見ている。
近くのテーブルには、涙を拭い「ついにこの時が来てしまったか」と涙ぐむ国王の姿と、その国王を優しく宥めるクリスもいる。隣にはトーマスが給仕をしており、時折優しい目でこちらを見ている。
………。
………。
……いや、これって、もしかしてそういうことですか。
「ふつつかものですが、どうかよろしくお願いいたします」
セリスが俺に向かってニコリと笑いかけた。
「って、これ結婚式じゃねえか! 俺は認めてねえぞ! というか、何勝手に新郎新婦ってなってんだ! というか、セリスと結婚なんて冗談じゃねえ!」
心からの叫びが城内に響き渡った。
「婿殿! こんなときに何を言っておる! ワシを殴り、セリスは俺のモノだと言って奪っておいて、今さら」
「記憶を捏造してんじゃねぇえええ!! あと、婿って呼ぶな!」
椅子から立ち上がり俺を睨みつける国王。
敵は国王だけではなかった。
『なんだ! アイツ、セリス様との結婚をこの場に来て断るなんて!』
『だから言ったのだ! あんなガキにセリス様を任すなどあってはならん』
『コロシチャウヨ、アノガキ、ミンチニシチャウヨ!!』
周りの兵士や給仕、全ての人達が俺の敵として、会場に溢れていた。
「ひどいです! ユウジ様。家族になろうって、私に告白したじゃありませんか!?」
「それは……そういう意味で言ったんじゃなく……そうだ! クリスお前も教えてやれ! お前も俺の家族なんだよな!」
「なっ! ユウジ、急に何を言っているんだ! お前にはセリスというフィアンセがいるのだぞ! それなのに私に告白するなんて!」
「ちっがーう!!」
今度はクリスに告白したと捉えられ、会場内のボルテージはさらにヒートアップする。
兵士達の士気は益々高まり、一部の人達は武器を握りしめ激しくこちらを睨みつけている。
国王も「セリスだけでなく、クリスも奪っていくとは!」と怒りを露わにしている。
……何故だ。異世界人とはここまで意思疎通ができないものなのか!
俺は迷いに迷った末。
「さらば!」
「あっ! ユウジ様!」
「……いや、私は男なんだが、ユウジがそれでも良ければ……って! ユウジどこへ行く!?」
「逃げたぞ! 奴を追えぇえ!!」
『『『ヒャッハー、レッツ、パーリ―!!』』』
―――セリスSIDE―――
祝賀会の会場は一気に鬼ごっこへと雰囲気を変えた。
必死に押し寄せる暴徒を殴り、蹴っては逃げ続けるユウジ様。
そんなユウジ様を「待てぇえええ!!」と追いかける兵士の方々。
そんな光景を見て思わずクリスお兄様と一緒に笑顔がこぼれてしまう。
ユウジ様と一部の激しい兵士達のやり取りで、給仕の人達や他の兵士達も思わず笑い声を上げる。
「てめえらの覚悟はよくわかった! なら、ここからはバトルロワイアルだ!」
「奴は手ごわい! 徒党を組んで対処するのだ!」
「「「ハッ!」」」」
イザベラ様の件で落ち込んでいたお父様が、気が付けばあんなに活き活きとした表情をしていた。
今回の戦いで犠牲者が出て、兵達の中には悲しい雰囲気が漂っていたが、今は皆が笑いあっている。さらには、奴隷となっていた者達も同じテーブルに座り、その姿を見て笑っていた。
私はこの光景をいつまでも見ていたかった。
身分や立場など関係なく、目の前の人を大切に思いやりながら生きていく姿を。
言うのは簡単なことだが、実行に移すのはとても難しい。
なぜなら、人は〝人を思いやる“という気持ちをいつしか忘れてしまい、傲慢な気持ちを無意識に抱える生物だからだ。
資質、権力、お金、才能、ありとあらゆる〝力“が溢れているこの世界。
その力に翻弄され私達は次第に当初の謙虚な気持ちを忘れ、その〝力“に酔いしれるようになる。
これは決して拭えない人間の業なのだと思います。
でも、同時に人は傲慢なだけの生物ではないと、私は信じています。
なぜなら、
―――人を慈しみ守ろうとする気持ちは、誰にだってあるのだから!
その気持ちをいつまでも持って、私は周りの人に分けていこうと思います。
「ユウジ様! フィアンセを置いてどこに行くんですか!」
「待て、ユウジ! 少し話をしよう! 私達のよりよい未来についてだな……」
「あの~ユウジ様! よろしければ私と―――」
「「サリナ姉さまは駄目!」」
「うるせぇええ!! お前らもまとめてかかってこいや!」
顔を赤くしてサリナ姉様までもが、ユウジ様を追ってあの楽しそうな輪の中へと入っていく。
自分達もあの楽しそうな輪の中へと飛び出そう、そう思い私はとクリスお兄様と一緒にあの輪の中へと飛び込んでいった。
「お母さま……私はきちんとお母さまの言いつけを守っていますよ」
お母さまが死んで、数日の時が立ったある日。
どこからともなく、私、クリス、お父さまの頭の中に突如、お母さまの遺言が聞こえて来た。
お母さまが死ぬ間際に私達に残していってくれた最後の言葉だった。
私はお母さまの遺言に従って今を一生懸命生きているし、これからもそう生きていきます。
ねえ、お母さま。
最後のお母さまのお願いですが、心配無用です。
「私達は今とても幸せですから!」
私は笑顔で答えた。
雄二のSSはこれで終了です。
次は、久実のSSになります。
※謝辞
読者様、本作をいつも読んでいただいてありがとうございます。
おかげさまで、目標にしていた100話を投稿することができました。
これからも、色々ツッコミどころや誤字脱字が多い本作ですが、宜しくお願いいたします。
(可能な限り読みやすいように修正していきます)




