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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第2章(後半):SS
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SS1-21話:vs アイアンゴーレム

 《回想3》


 半身を失った(ワタクシ)

 何をしても空虚な心は満たされなかった。


 そんな私に、ある日、オーラル王国から声をかけられた。


 オーラル王国は、私の能力を見込んでオーラル王国の国民にならないかと言ってきた。

 その際、私の親族達も一緒にということだ。

 その話を聞いて、親族一同はとても喜んだ。

 元々、私の家系は、オーラル王国出身の者だったからだ。


 遠い昔の祖先がオーラル王国の国民基準を下回ったため、国を追われグランディール王国へ住むようになったと聞いている。オーラル王国に戻ること。それは私の家系の悲願でもあった。

 しかし、私の心は満たされることはなかった。


 そんな私の気持ちを知らず、親戚一同はオーラル王国へ向かう準備を始めた。

 そして、とある親族からこんな言葉が飛び出した。


「どうせなら、この国を出る前に一つ派手なことをやらないか」


 この言葉が発端となり、気づけば私は国王を暗殺する計画を立案することになった。


………

……


「ふふふ、雑魚ばかりね」


 中の操縦席(コクピット)でアイアンゴーレムを操作するイザベラ。

 城に残っていた軍人達の大半は、予め仕込んでいた睡眠魔法により眠らせていた。

 辛うじて睡眠魔法から逃れた軍人達も、アイアンゴーレムの前に手も足も出なかった。


「このままなら、あの愚王を殺すことなんて簡単ね」


 イザベラは自分の勝利を確信していた。

 同時にこのまますんなりと物事が成し遂げられるのかと思うとガッカリした気持がイザベラの中をよぎった。


「……アナタがいない世界は本当につまらないわね、アリス」


 親友であり、超えたいと憧れた姉のような存在であり、殺したいと思うほどまでに憎んだ相手―――アリスのことをイザベラは考えた。

 国王殺しという難しい課題で、自分の空虚な心に灯火がつくかとおもいきや、全く火がつくことなどなく虚しさがこみ上げてくるだけだった。


 そんなふうにイザベラが思い悩んでいたときだった。


「―――ガッ!!」


 突如、凄まじい衝撃を受けて、イザベラの身体が大きく揺れた。

 何が起きたのか、モニタ越しで探してみると、城の屋根に一人の少年の姿があった。


「っつう! やっぱ、かてえわ!」


 酒井(サカイ) 雄二(ユウジ)だった

 雄二は金属出てきているアイアンゴーレムの身体を素手で殴り吹き飛ばしたのだ。

 アイアンゴーレムの身体には、ポツリと雄二の拳が残っている。

 とてつもないパンチ力だった。


「あら、少しは楽しめそうじゃない」


 王国軍が手も足も出なかったアイアンゴーレムを吹き飛ばした雄二を見てイザベラが嬉しそうな表情を浮かべた。イザベラが望んでいたのはこういう予測できなかったイレギュラーだ。

 そういう意味では、突拍子もない行動を起こし、イザベラやアルバード伯爵の計画を邪魔した雄二にイザベラは感謝をしていた。


「うるさい(はえ)ね。死になさい!」


 アイアンゴーレムが雄二に向かって拳を振りかざす。


「拳がきついなら……じゃあ、蹴りだ!」

「なっ!」


 巨大拳を前に、雄二は飛び蹴りで対応した。

 大質量のある金属の拳が、小さな人間の飛び蹴りによって、その動きを止められたのだ。


 相殺され上へと大きく飛び上がった雄二は、そのままアイアンタートルの肩へと着地した。

 そして、


「吹っ飛べやぁああ!」


 アイアンゴーレムの頭に強烈なパンチを食らわした。

 アイアンゴーレムは身体ごと、後方へと吹き飛ばされ地面へと倒れた。


 殴った雄二は、20m(メートル)はある高さから落下したが、なんなく着地をしたあと。


「やっぱ、かてえわ! アイツ!」


 痛みで赤くなっている手をフーフーと息をかけていた。


 そんな超人離れした雄二の戦いを呆然と眺めているグランディール王国軍。

 自分達ではどうすることもできなかったアイアンゴーレムと魔法を使わず素手で互角の戦いをしている目の前の少年に唯々(おのの)いていた。


『おい、あいつは―――』

『ああ、確かセリス姫とクリス王子の専属護衛の騎士だったはずだ』

『確か、名前は―――』


 雄二の姿を見て、グランディール王国軍がざわつき始める。

 そんな王国軍のことを、雄二は無視して、目の前の巨大な物体へと話しかける。


「てめえが何のために城を壊そうとしているのなんか俺は知らねえ……だがな、やらせるわけにはいかねえんだよ。この城、いやこの国の人達を傷つけようとするのなら―――お前は俺の敵だ!」


 雄二の身体から途轍もない威圧感が解き放たれた。

 あまりの威圧感に、遠くにある城の(ほとり)にいた鳥達や動物達が所かまわず怯えている。

 その威圧感は、倒れているアイアンゴーレム、そして中にいるイザベラも例外ではなかった。


「ぐっ! く、苦しい!」


 雄二の威圧の力を受けて、イザベラは息ができず苦しみ始めた。

 だが、イザベラもこのまま負けるわけにはいかなかった。

 ここまで来てしまったのだ。

 今さら後に引くことなど、もはやできないのだから―――


「……やっぱり、これを、使う、運命なのかしらね」


 イザベラが操縦席(コクピット)に備えていた小瓶を手に取る。

 この改造(・・)されたアイアンゴーレムを受け取るさい、渡した人物に言われていた。


 ………

 ……

 …


「本来無人のアイアンゴーレムだが、お前達の要望通り〝魔力無効化“の術式を施してある。だが、その術式を発動するためには、どうしても搭乗者が必要なため、このような操縦席(コクピット)を設けた。だが、私は更なるアイアンゴーレムとの強化が可能と考え、この小瓶を用意した」

「これは?」

「この中の液体を飲めば、アイアンゴーレムとの同調が増し、更なる力を得ることができるだろう。だが、その代償として、理性も記憶も失くした狂人へと変わる―――使う場合は、人間であることを捨てるのだな」

「……どうして、そんな危険な物を……」

「イザベラ……君は死に場所を求めているのだろう?」

「―――!!」

「そんな目をしている。この世に未練などなく、あの世にいる誰かのもとへと逝きたい。そんな目だ……まあ、私としてはどうでもいい。貴重なデータさえ手に入れば後はどうでもいい。精々頑張るのだな」


 そんな会話のやり取りがアイアンゴーレムを受け取る前に行われていた。


(本当、腹立たしい奴だったわね。変に私のことを見透かす感じで、本当あの黒仮面―――たしかカプリコーンって言ってたかしら。まあ、間違ってもないんだけどね)


 覚悟を決めたイザベラは小瓶の中の液体を飲み干した。


「……じゃあね、サリナ。貴女だけはどうか無事でいて――――グッゥウウ!!! ガァアアアアア!!」


 イザベラは人間を捨てることを決意した。

 狂う最後の直前に、「アリス、今そっちに逝くわ」とそう呟いて。


 …………

 ……

 …


 変化は突然現れた。

 雄二に威圧を掛けられその場に倒れていたアイアンゴーレムが突如光出したのだ。


「何だ! 一体、何が―――なっ!?」


 雄二が驚くのも無理はなかった。

 先ほどまでなかったゴーレムの頭に、突如、ロール状に巻かれた金色の髪が姿を現したのだから。金色の髪は、針のような鋭さを先端に持ち、猛烈なスピードで雄二を襲い始めた。


 四方八方に襲い掛かる金色の針を、紙一重で躱し続ける雄二。

 だが、躱し続ける内に少しずつ雄二の身体が針により削られていく。


「クソが!」


 アイアンゴーレムのもとへ近づこうとするが、相手の髪が邪魔して近づけないことに雄二は苛立つ。その隙に、アイアンゴーレムは体勢を立て直した。


『ボーッとするな! 今のうちに撃て!!』


 グランディール王国軍の魔導兵器―――魔導レーザーがアイアンゴーレムに向かって放たれた。

 雄二が戦っている隙に、王国軍が城から用意した物だ。


 巨大な光線はアイアンゴーレムの髪を包み込み、頭に直撃した。

『やったか!』と、魔導レーザーを放った砲撃手がアイアンゴーレムに視線を向ける。

 モクモクと広がっていた煙がなくなった後、そこには無傷のアイアンゴーレムの姿があった。


『馬鹿な……傷一つないだと!』

『魔力を無効化した!?……あり得ない!』


 グランディール王国軍の兵士達が慌てふためく。

 魔法技術の先進国であるグランディール王国でも、〝魔力無効化“を行う魔導具や魔法は存在しない。だからこそ、未知の魔法技術を扱う相手に、グランディール王国軍が動揺しているなか。


「チャンスだ!」


 襲っていた髪が怯んだのを見て、アイアンゴーレムとの距離を詰める雄二。

 真上に高く飛んで、魔導レーザーが当たった箇所に目がけて(かかと)落としを放った。

 巨体のアイアンゴーレムを素手で吹き飛ばせるほどの雄二の力を、体の部位の中で硬い(かかと)に一点集中させた一撃。


(決まった―――ッツウー!! 嘘だろう! 全然効いてねえじゃねえか!)


 強烈な雄二の(かかと)落としを食らっても、アイアンゴーレムには全く効いていいなかった。

 アイアンゴーレムは、空中で隙だらけの雄二目がけて、拳を振るう。


 雄二は両腕を交差させ防御するが、アイアンゴーレムの拳によって地面に思いっきり叩きつけられた。


「ガハっ!」


 地面に身体を打ち付けられた衝撃で、雄二の口から血反吐が溢れる。

 何とか立ち上がろうとする雄二だが、アイアンゴーレムの手は緩まない。

 雄二に向かって、足を何度も振り下ろし雄二を踏みつける。


「ウグッグゥウウー!!」


 アイアンゴーレムの猛攻に必死に耐える雄二。

 ふとアイアンゴーレムから女性の金切声が聞こえた。


『シネ! シネ! ゼンブコワレロォオオ!』


 アイアンゴーレムに搭乗していたイザベラの声だった。

 雄二からは見えないが、イザベラは既に理性を失っており、血走った(まなこ)で目の前の敵を粉砕しようとしていた。


 雄二を助け出そうと、グランディール王国軍がアイアンゴーレムの周辺で必死に攻撃を続けるが、アイアンゴーレムは全く気にする素振りを見せず、この中で最も厄介な雄二に攻撃を続ける。


(やべぇえ! 意識が―――!)


 アイアンゴーレムの攻撃を何度もその身に浴びた雄二の身体は既にボロボロだった。

 骨は悲鳴を上げ、身体のありとあらゆる場所から血が流れている。

 もはや生命の危機にまで雄二は追い込まれていた。

 そんな状況の最中。


『おい! そこの化け物! こっちを向け!』


 この戦場に相応しくない甲高い少年の声が響いた。

 理性を失ったイザベラだが、その声を聞いて、少年のほうに視線を向けた。

 そこには、


『貴様の相手は私だ! こっちに来い!』


 グランディール王国第一王子にして、無能王子とイザベラが蔑んでいたクリスの姿があった。

 クリスの周りには、魔導兵器を構えてアイアンゴーレムに照準を定めている人達がいた。

 軍人だけでなく、一般の街の人々の姿もあった。

 クリスは身体は震え、目元に涙を浮かべながらも、クリスはアイアンゴーレムから視線を外そうとしない。


 そんなクリスの姿に、イザベラは


「アリス!!!」


 クリスとセリスの母親であり、自分のメイドをしていた幼馴染の名前を叫んだ。

 狂ったイザベラの目には、クリスの姿が、幼い頃のアリスの姿と重なって見えたのだった。


「アリス、アリスゥウウウウー!!」


 雄二に行っていた攻撃の手を止め、クリスのもとへとアイアンゴーレムは向かう。


『皆の者! 私が逃げろと言ったらちゃんと逃げるんだぞ!』

「ああ。だがそん時は王子も一緒だからな」

「一緒に頑張りましょう」


 クリスの号令に合わせ、協力者の人達が一斉にアイアンゴーレムにレーザーを放つ。

 無数に繰り出される砲撃だが、アイアンゴーレムには効果がなく、クリス達との距離はドンドン近くなる。


「おい! 逃げろぉお! クリス!」


 血まみれの状態でその場から動く体力もなくなった雄二は、クリスに向かって懸命に叫ぶ。

 魔法ではアイアンゴーレムに傷つけることもできない。

 このままでは、巨体なアイアンゴーレムの拳が小さなクリスに放たれる。

 そうなれば―――


「おい! 動けよ! このポンコツがぁああ!」


 雄二は動かない身体に檄を飛ばすが、ピクリとも動いてくれない。

 そのときだった。

 クリスと目が合った。

 そして、ニコリと微笑んだのだ。


 その光景には見覚えがあった。

 この世界に来て、森で襲撃者達に襲われていたセリスが取ったときの行動と瓜二つだった。

「どうか、ユウジは生きてくれ」と、そうクリスに言われた気がした。


「ふざけんなぁああ!!」


(また、守られるのか! アイツに! 違うだろう! 俺がアイツらを守るんだろうがぁあああ!)


 天にまで届かんばかりの雄二の咆哮が響いた瞬間―――雄二の頭の中に声が聞こえた。


『―――』

「―――神具だと!!」


 その言葉に、雄二は聞き覚えがあった。

 同じくこの世界に転移してきた内田と松尾と会って話をしたときだった。


 …………

 ……

 …


「ところで、酒井の〝神具“ってどんな感じだ?」

「〝寝具“? ああ、普通のベッドだが……マットレスが少し硬いかな」

「そっちの寝具じゃないよ……酒井君」


 どうやら内田の言う神具と俺の考えた寝具は違うらしい。

 呆れた口調で松尾さんが説明してくれた。


「ほら、女神様が言ってたじゃない。私達には〝神具“っていう特殊能力があるって!」

「……ああ、そう言えばそうだったな」


 大分前の話だったので、すっかり忘れてしまっていた。

「基本、素手で魔物を倒せるから神具なんて使ったことが無い」と回答すると、内田達がとても驚いていた。


「マジかよ! 神具なしで逆にどうやってこの世界を生きていけるんだ!」

「素手って……酒井君ってかなり身体能力を強化されているんじゃ」


 どうやら内田達は素手で魔物を倒すことはできないらしい。

 というか、神具という強力な武器があるにもかかわらず、わざわざ危険なことはしないとのことだ。

 ……そりゃそうだ。


「そうだな。自分が出したい武器をイメージするんだよ。こんなふうにな」


 内田の手元に突如、赤く輝いた刀が出現した。

「おお!」と俺が驚いていると、松尾さんも同様に青色の分厚い本が現れた。


「これが神具だよ。俺の場合は火属性の刀だ。咲は風属性の魔道書になるんだ」

「神具は自分が一番イメージしやすい物を創造するといいみたいですよ」


 そう二人はアドバイスしてくれた。

 二人が城都を離れて、俺は密かに神具創成を何度か試みた。

 だが、神具を創成することは一回もできなかった。

 創成できないことは悔しかったが、俺は素手で十分危険な魔物とも戦えることができるため、余り気にはしていなかったが。


 …………

 ……

 …


(イメージしろ! あの硬くてデカいバケモンを粉砕する武器を! 俺のこのポンコツな体がすぐにでも動けるように! そして―――)


「アイツらを守れる力を俺に寄越しやがれぇえええ!!」


 突如、雄二の身体が橙色に激しく光り輝いた。

 橙色の閃光に思わず、全員が戦闘を止めて雄二の方に視線を向けた。

 光の放出が終わり、雄二の姿が露わになった。


「……ユウジ! その姿は!」


 クリスが雄二を視界に捉えた。


 雄二は神具―――(ハンマー)を手に持ち、橙色に輝く瞳へと変わっていた。


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