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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:ベルセリウス帝国(トパズ村編)
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第9話:フェーデの結末

 トパズ村の中心地。

 そこは、大きな広場となっており農民や商人など多くの人々が行き来している。

 しかし、現在、広場の中央には、二人の男性が向かい合っており、その周りを大勢の人々が囲っていた。


「まさか、いきなり〝フェーデ“を挑んできたから、驚いちまったが、まあ、てめぇみたいな貧弱なガキに俺が負けるわけねえしな」


 中心にいた男性の片方―荒くれ者のジュンが腰元に備えてある鞘から剣を抜いた。

 相対しているのは、当然……


「待ってください! これは誤解なんです。〝フェーデ“なんてルール僕は知らなかったんです!!」


 僕だった。


 土下座で時間稼ぎする予定が、〝フェーデ“という決闘を挑んだことになり、さらに負ければ奴隷ときた。

 冗談ではない。

 断固撤回を求めたが、一度申し込んだ〝フェーデ”は必ずやり遂げなければいけないらしい。

 なんとも融通の利かない制度である。


 さらに、この広場に向かう途中、相手のジュン兄弟について聞いた。

 驚くべきことに賞金首だった。

 賞金金額は〝10,000“RG。

 最近この辺りで盗賊稼業を行い、教会の賞金首リストに載ったばかりの極悪人である。

 そのため、ジュン兄弟がこの村で好き勝手に暴れても誰も逆らえないらしい。

 特に兄のジュンは一時期、帝国騎士団に所属していたこともあり、剣はかなりの腕前だそうだ。そんな相手と唯の高校生でしかない僕がどうやって戦えと。

 全てを捨てて逃げ去りたいが、もう周りの雰囲気からして戦う以外選択肢がない。


 周りを見渡してみると、不安そうな顔でこちらを見る、飛鳥と美優がいる。

 彼女達も必死に〝フェーデ“の中止を懇願したのだが、駄目だった。


「それでは両者、武器を構えよ」


 ガタイの良い体格をしたオジサンが僕とジュンに話しかける。

 この〝フェーデ“を取り仕切る審判だ。


 僕が〝フェーデ“を申し込んだ後、

 いきなり僕達の間にこの人が現れ、その場を仕切りはじめのだ。


 どうやら、このオジサン。

 帝国内ではかなりの有名人らしい。

 「ガイネル様が間に入るのなら、問題はないな」と村人全員が彼を信用している。

 ジュン兄弟も突然現れたガイネルに恐れていたものの、ガイネルが「今日はおぬしらを捕縛しに来たわけではない。安心せい」と言って、賞金首のジュン兄弟を見逃している。


(もう、やるしかない)


 覚悟を決めた僕は、神具―――大剣を取り出した。

 突然、空間から大剣を取り出したことで周囲がざわつく。


「へえ、お前もしかして空間魔法の使い手か? なら、とても貴重だな」


 ジュンは剣呑な目でこちらを見る。


「それでは――はじめ!!」


 ガイネルから戦闘開始の合図が放たれる。


 合図と同時に、こちらに向かってくるジュン。

 勢いのまま、ジュンは思いっきり剣を振りかざす。

 その剣に合わせるように、僕も大剣を振る。

 重なり合った剣から、キーンという金属音が辺りに響く。


「へえ、良い剣じゃねえか。お前にはもったいないぜ」

「グッ!」


 ジュンは右、左と次々に剣を振るってくる。

 連続する剣戟に僕は何とか大剣を当てていなす。


 観客はジュンの一方的な攻撃を受けている僕の姿を見て、やっぱりこうなったかと僕の勝利を諦めていた。傍らにいる飛鳥と美優もハラハラした様子で僕を見ている。


 実のところ、ジュンの攻撃は大したことはなかった。


 なぜなら、彼の剣はスローモーションのようにゆっくり見えるからだ。

 こんな鈍間な攻撃ならまったく問題はない、と思っているのだが、先ほどから身体の震えが止まらない。


 そう、ジュンは本気で僕を殺しにきているのだとはっきりわかったからだ。

 明確な殺意を持って、顔や心臓、腹などを平気で狙ってくる。

 生まれて初めて向けられた殺意に、僕の体が怯えていた。


 このままじゃまずい、そう思った僕はジュンに攻撃しようとするが、


(どこを? この大剣で斬れば相手はどうなる?)


 ジュンを殺す光景が頭の中をよぎり、思わず攻撃を躊躇う。


「チッ! てめえ、さっきから攻撃を受けてばかりで、何故、攻撃してこない」


 そんな僕の様子に気づいたのか、ジュンが声をかけてくる。


「はあ、はあ、はあ、もう引き分けということにしませんか。貴方の攻撃は僕には決して当たりません」

「ふざけんな! そっちから申し込んできた〝フェーデ“だろうが。戦いを中止にするとはどういう了見だ!」

「だから、僕はそんなつもりはなかったと……」

「くどい!」


 ジュンは再び僕に攻撃を仕掛ける。

 先ほどの攻撃よりもさらに鋭さを増しているが、やはり僕の眼には、彼の攻撃はゆっくり動いているようにしか見えないのだ。

 従って、簡単に躱せる。

 こうなったら、このまま相手の体力が尽きるまで粘ろうと考えていたとき、


『おい! 小僧。戦え!』

『神聖な〝フェーデ“の場だぞ。逃げるな!』

『相手を殺せー!!』


 周囲の観客が僕に向かってブーイングを始めた。

 観客達は娯楽に飢えていたのか、熱狂的な視線をこちらに向けている。

 その異様な雰囲気に、僕は思わず恐怖を感じた。


「おい。周りの観客も言ってるぞ! 戦えってな」

「クソッ!」


(斬り払うのではなく、大剣の太い部分を当てて気絶させる)


 この異様な雰囲気に呑みこまれた僕は、目の前の敵を倒すことを決めた。

 ジュンが剣をブンと大きく横に切り払う。

 躱してから、大剣の腹部分で彼を思いっきり吹っ飛ばした。


「グオッ!」


 吹き飛ばしたが気絶まではいかなかったみたいだ。

 手には人を斬り払った感触が残っており、罪悪感で一杯になる。


「チッ! 少しはやるみたいだな。だが、まだまだ!!」


 ジュンは立上り、再び僕に向かって攻撃を仕掛けてくる。

 僕は彼が気絶するまで何度も大剣で吹き飛ばした。


…………

……


「はあ、はあー」

「もういいでしょう! あなたの負けです。降参してください」

「……ああん! 誰が、お前、みたいなガキに降参するかよ」

「でも、もうそんな状態では無理ですよ」


 あれから三十分ほど経過した。

 その間、僕は何度もジュンを大剣で吹き飛ばした。

 吹き飛ばされ続けたジュンの身体はボロボロになり、動きも鈍くなっている。

 力の差は歴然だった。

 どう見ても僕の方が強いことは明らかなはず。

 にも関わらず彼は、「ヘッ、この……チキン野郎」と呟きながら、こちらを睨んでいる。

 彼の瞳の中から見える戦意はまったく衰えていない。

 さらに、


『もういいだろう! 早くジュンを殺せ!』

『止めをさせ!!』


 フェーデを開始してから観客の熱気はさらにヒートアップしていた。

 おかしいことに、誰もこの戦いを止めようとしない。

 それどころか、人殺しを推奨しているのだ。

 日本という人殺しとはあまり縁がない平和な世界で生まれた僕にとって、この〝狂気“に支配された観客のほうが恐ろしいと感じた。


「審判! もう決着は着いた。僕の勝利で良いでしょう」

「……駄目だ。まだ、奴は戦う意思がある。このまま続行だ」

「クソッ!」


 審判役のガイネルに何度もこの〝フェーデ“を終わらせるよう話しているが、まったく聞き入れてくれない。


(こんなとき、勇也ならどうするだろう)


 この場にいない勇也のことを思い出す。

 しかし思い出した彼は何も答えてくれない。

 どうすればいいかわからないまま戦っていた、その時だった。


 石に躓き僕は後ろに転倒してしまった。

 その隙をジュンは見逃さなかった。


「くたばれ!! このチキン野郎ぉおお!」


 尻餅をついた僕の心臓目がけて、ジュンの剣が襲ってくる。


「うわああああああああああ!!」


 恐怖のあまり僕は思わず大剣を前に向けた。

 結果、


「グフッ!」


 ジュンのお腹に大きな穴が開いた。

 大剣から放たれたレーザーのような炎がジュンの腹を焼き尽くしたのだ。


「えっ、えっ」


 目の前の出来事に戸惑う僕。

 そんな僕に、仰向けに倒れたジュンは


「……この人殺しが」


 と、僕に嘲笑を浮かべたまま、ピクリとも動かなくなった。


「……」


 僕はただその様子を他人事のように眺めていた。

 わかっている。

 僕は取返しのつかないことをしたのだと。

 でも頭はその認識を認めようとしない。いや、認めたくないのだ。

 いくら正当防衛とはいえ、僕は――――

 ―――人を殺したのだと。


『うおおおおおおおおおお!!』

『小僧が勝ったぞ!』

『久しぶりに熱いフェーデだった』


 ジュンが死んで、観客が喜んでいる。

 生前かなり迷惑をかけていたとはいえ、死んだことでここまで喜ぶ観客達を見て僕は恐ろしくなった。

 なかには人殺しの僕に「ありがとう。アイツを殺してくれて」と感謝の言葉を伝える者もいた。

 この世界はイカレテル、僕はそう思った。


 飛鳥と美優は泣きそうな顔で僕を見ている。

 その顔を見て、僕は彼女達に恐れられる存在になったのだと、痛感した。

 何も考えたくなかった。

 だが、


「てめえええええ!! よくも、兄貴を!!」


 弟のノシターがナイフを握ったまま、僕に向かって走ってくる。

 その瞳から、僕への殺意、憎しみといった感情が伝わってくる。


 もう、どうにでもなれと僕は襲ってくるナイフをただぼんやりと眺めていた。

 近くから、飛鳥や美優の叫び声が聞こえるが、もうどうでもいい。

 近づくナイフを受け入れようとしたとき、


 ザン―――

 とノシターの首が宙に飛んだ。


「ふん、〝フェーデ“で決まった決着じゃ。復讐を企むとは……それでも帝国国民か!」


 審判役のガイネルの仕業だった。

 僕に向かってきたノシターを腰元に持っていた剣で、瞬く間に斬殺したのだ。


 僕はそのときの光景をただ眺めているだけだった。

 地面に落ちたノシターの生首。

 その表情は今も僕を睨みつけていたままだった。


(もうこんな世界にいたくない。助けて、勇也!)

 

 そう思いながら、僕は意識を手放した。


※2018/6/30:誤字脱字等を修正。

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