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異世界チートを期待したはずが【世界崩壊前】  作者: 中一モクハ
第1章:ベルセリウス帝国(トパズ村編)
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第1話:プロローグ

初投稿です。

よろしくお願いいたします。

 異世界チート。

 最近WEB小説でよく目にする単語だ。

 突然、別の世界へと転移した主人公が、これはチートだろうと、思わずツッコミを入れたくなるスキルや魔法を使って無双していく物語。


 僕はこういう物語が大好きだった。というか、正直、そんな主人公に憧れていた。

 だって、カッコいいじゃないか。

 圧倒的な力を持ち、巨悪な敵を倒していく逞しさ。

 地球の知識を使い、巨万の富や周囲の称賛を獲得していく賢さ。

 高い地位や権力を得たにもかかわらず、自由に生活する奔放さ。

 そんな主人公に惹かれて、国王等の世界の中心人物や綺麗な女の子達(ここが一番重要)が集まってくる。

 正直、とても羨ましいと思ってしまう。

 

 この小説の面白いところは、地球では平凡だった彼(あるいは彼女)が、別世界に転移(あるいは転生)しただけで、英雄のような存在になり、全てが思い通りとなるところだ。

 フィクションとはいえ、もしかしたら僕も……なんて思っていたのだけれど、


「うぉおおおおおおおおー! 誰か、助けて!」


 現在、僕はとある世界で『ゴブリン』に追われていた。


『ゴブリン』

 長く垂れ下がった耳とピンと伸びた鼻が特徴。全身緑色の人型の魔物。

〝ベルセリウス地域“では、比較的弱いモンスターであり、新人の騎士でも、簡単に倒せる相手だそうだが。


(僕は、ただの高校生なんだよ!!)


 心の中で叫びながら、僕は全力で逃げ出す。


「何を逃げとる、小僧。戦わんと特訓の意味がなかろう」

「ココロ殿。たががゴブリンです。落ち着いて戦えば問題ありません」


 腕を組みながらのんびりと構える老人と、両手を口元に構えこちらに向かって叫ぶ女性。

 どちらも中世ヨーロッパにあるような騎士甲冑を身に着けている。


 筋骨隆々の老人の名はガイネルという。〝ベルセリウス帝国“騎士団の副団長であり、帝国内でその名を知らぬ者はいないほどの有名人だ。短く揃えた白髪に、背中からはみ出して見える巨大斧が印象に残る。

 

 その隣にいる長身細身の端麗な女性の名は、メルディウス。こちらも〝ベルセリウス帝国“騎士団員であり、僕を指導する役目を担っている。一本、三つ編みみたいに束ねた金髪と透き通る青色の瞳が特徴的である。


「そんなこと言ったって……いや、やっぱ無理!」


 チラリと後ろを振り向いたが、凶悪な面をしたゴブリンを見て戦うことを断念する。


「こらー、(ココロ)! 真面目に戦いなさいよ!」

(ココロ)くん。ファイトー」


 騎士の二人とは別に、ローブを纏った少女二人が僕にエールを送る。この二人は僕の顔なじみであり、見知った相手である。なぜなら、彼女達は僕のクラスメートであり、一緒にこの世界へと飛ばされた友達だからだ。


 青色のローブを纏い、一目見て大和撫子と言われる容貌をした美少女は、戸成(トナリ) 飛鳥(アスカ)という。黒い艶のある長い髪をポニーテールにし、水色の瞳がとても目立つ。実を言うと、僕は密かに彼女に片思いをしている。そんな彼女の前で、情けない姿を見せている僕って何だろうと考えてしまう。


 緑色のローブを纏い、弓を持っている小柄な少女は、波多野(ハタノ) 美憂(ミユ)。肩まで揃えたショートヘアの黒髪と、どこか小動物を思わせるような愛らしさがにじみ出ている。美優も飛鳥と同様に瞳の色が違う。美優の場合は、綺麗な緑色だ。普段から大人しい美優も、友達が魔物に追いかけられている姿を見て、エールを僕に送ってくれる。



 このまま逃げ続けても埒が明かない、そう思った僕はゴブリンと戦うことを決意した。

 頭の中で武器を念じると、僕の手元に神々しい輝きを放つ大剣が現れた。

 この大剣が僕の〝神具“―すなわち、僕に与えられた特殊能力である。


 向かってくるゴブリンに対し、大剣を構え、タイミング良く剣を揮う。途端、スパッとゴブリンの胴体が真っ二つに切断された。


「なによ、一撃で簡単に倒せるじゃない。早く戦えばいいのに」

「いやいや、いきなり戦えって言われたって、普通できないよ。僕、運動系の部活動とか入ってなかったし、喧嘩なんてしたこともないんだよ」


 大剣を地面に差して、身を任せている僕に、飛鳥達が近づいてくる。


(ココロ)くん。大丈夫? 怪我はない?」

「ああ、大丈夫だよ。攻撃されなかったし」

「美優はコイツの心配しすぎ。美優も見てたでしょ」

「でも……やっぱり、心配だよ」


 美優は僕が怪我していないか心配してくれる。そんな美優に呆れる飛鳥。


「ガハハ、小僧。やればできるではないか。まったく、人をおちょくるとはお主も人が悪い」

「見事でした、ココロ殿。ただ、そのへっぴり腰で剣を揮っても、力が十分に伝わりませんよ」


 ガイネルとメルディウスが僕達のほうへと近づいてくる。


「うむ。むしろ、あんなへっぴり腰で剣を揮ったのに、ゴブリンを真っ二つにできることがすごいんじゃがの」

「そうですね。やはり、〝神具“の力は凄まじいものですね……であるなら、なおさら、ココロ殿自身が強くならなければいけません」


 そう言って、ガイネルとメルディウスは特訓プランについて話し合う。飛鳥達も初めて見たゴブリンを見て興奮した様子で話している。

 そんな様子をしり目に、僕は思わずため息をつく。

 ふと、ゴブリンの死骸を見た。胴体が真っ二つになった状態で、顔は白目になり、吐血した後が見られた。

 これを僕がやったのかと思った瞬間。


「おぇえええええええええーーーー」


 猛烈な吐き気が身体を駆け巡った。


 あれは魔物、倒すべき敵であり、やらなければ僕が死んでいたんだと、必死に言い訳するが、それでも吐き気が止まらない。


「ちょっと、(ココロ)。大丈夫!?」

(ココロ)くん!?」


 僕の様子がおかしいことに気づいた飛鳥と美優。


「……うん。だいじょ……おぇええええええーーー!」


全然大丈夫ではなかった。先ほどから、微かに身体も震えてきた。


「ふむ、まだ殺しに慣れぬのか……メルディウス」

「はい……ココロ殿。これを飲んでください」


 ガイネルに言われ、メルディウスはポーチから取り出した薬を僕に飲ませてくれた。

 すると、突然強烈な眠気が発生した。


「睡眠薬です。精神状態も安定するそうです。しばらくゆっくりしてください」


 そう言って、メルディウスは意識が混濁している僕を抱えて木の下まで移動した。メルディウスは僕より年上だが(おそらく二十代前半と予想)、女性に運ばれ、しかも、気になる女の子にそんな姿を見られていることが、とても恥ずかしい。


 異世界チート。

 期待していたモノと何か違うなと思いながら、僕は意識を手放した。


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