その『八つ当たり』自覚済みにつき
「さて、なぜ呼び出されたのか、それは分かっているな」
「はい」
侵攻の当日、天見と植田、鬼気の三人は戦闘を行いモンスターを殲滅した。
その件で教員立会いの下、警察などから事情徴収を受け、不当な行為を行っていないのかを確認していた。
端的に言えばシャトルとしての力を『モンスターを殲滅すること以外に用いる』或いは『モンスターと戦うにあって、不要な破壊』の双方の確認である。
もちろん救助活動と現場の保持であれば救助活動が優先されるので、あくまでも簡易的に行っただけである。
加えて、現場検証でもそうした行為は見受けることができなかった。
なにせ、具体的に言うなら、あの際に火事場泥棒を行うか殺人を意図的に行うなどの行為が前者に当たり、建造物を破壊することでモンスターを圧殺するなどが後者に当たるからだ。
流石に、モンスターが巨体と重量を活かして破壊する行為と、人間大の兵士が大剣や徒手空拳で殺傷を行う行為では、まるで破壊痕が違うのだ。
そもそも、三人は完全に血まみれだった。あの姿で窃盗など行おうものなら、ペンキまみれで空き巣をするよりも間抜けなことになるはずである。
「列道、私はお前になんと指示をした?」
この場合、問題になるのは列道一人だった。
はた目には身を挺して、未熟ながらも逃げ遅れた親子を守ったのだろう。
もちろんそれは、この反攻学園の生徒としてもほぼ問題ない。それが、タンクとしての能力を発動させなければだが。
「自分の安全を確保し、避難に従えと」
「そうだ、間違っても鬼気と合流しようと思うな、とも言ったな」
鬼気も植田も、見方によっては天見も危険な思考であり、列道は大分普通である。
だが、あの三人はきっちりと指示を待ち、教師の指示に従って動いていただけだ。
違法行為は一切行っていない。過剰な殺戮にしても、それは新兵故と見逃されるところだ。そもそも、新兵三人という状況ではありえないほど短期間で敵を殲滅している。
言い方は悪いが、彼らは最善を尽くしたのだ。最短の殺戮を行ったうえで、許容される範囲で享楽に興じただけなのだ。
だからこそ、彼らは皆今日も訓練に勤しんでいて、逮捕や裁判の手続きを受けずに済んでいる。
だが、植田は違う。彼は人命救助のためとはいえ、違法行為に手を染めたのだ。
「あの三人は私の指示を逸脱しなかったし、私はその程度にはあの三人に信頼を置いていた。仮に彼らが戦死したとしても、それは私の判断ミスであり、彼らのミスではない」
緊急時、非常時とはいえ、彼には刑事罰が下されるところだった。
彼が何かをして親子を守った、という証言はあったが、それは公に取り扱うことができなかった。
彼の身を挺しての行動は、決して許されるものではないのだ。
「先に言っておく、よく民間人を守ってくれた。それは、軍人の卵である反攻学園の生徒として正しいものであり、教師として誇りに思うべきことだ」
「はい」
「だが、これを表立って賞賛することもできない。それもわかるな?」
「はい……」
タンクもシャトル同様に兵器である。
人間と一体化しているが、それでも兵器なのだ。
だからこそ、彼らにはGPS機能付きの専用のスマートフォンの携帯が義務付けられており、今回の様な事態には教員の指示に従うことが、法律で定められている。
今回の行動は、目の前で民間人が危機にさらされているからと、軍人が自分の判断で銃をもって勝手に突撃したようなものだ。
それは、この国では許されていない行為である。
「お前はシャトルではない。あの状況で生き残ったのは、鬼気が間に合っただけだ。その幸運も理解しろ」
「はい」
「仮に今後似たようなことになっても、見捨てたと思うな。それを言うなら、あの三人も私の指示を待っている時点で見捨てている。だが、上手くいったからそれでよし、とはいかんのだ」
無涯は言葉を選んでいた。
もっと厳粛に、命令違反を咎めるべきではある。
だが、思春期の少年に、それも動機はどうあれ民間人を守った彼に、きついことを言いたくもなかった。
「……お前がなぜ、あの時あの駅にいたのか、見当はつく。だが、他人の事を見るな。今のお前はその段階にない」
それは適切なアドバイスだった。
例えるなら、バイクの教習所に通っている生徒が、オフロードの曲乗りに嫉妬しているようなものだ。
強いて言えば、彼が最も警戒しライバル視するべきは同じC組の『普通』のタンクである。彼らと比べても、彼らに失礼なだけだった。
「お前はこれからだ」
これから、という言葉は彼には遠い。
狭い生徒指導室から出た列道は、フラフラと出て行った。
※
「はっはっは! 植田よ、アレが雑兵というのは救いだな。弱い敵ばかりでは張り合いがない」
「そう笑うお前を見て、呆れるべきなのに喜んでいる俺ってのは、どうしようもないクズだな!」
「っていうか、やっぱりアレが雑魚なんだ……」
初陣から一夜明けて、勝利の美酒とはいかないが、三人は植田の寮室で話をしていた。
案の定、ほぼ何もない部屋である。趣味と呼ぶ物を持つ余裕がなかった彼は、自室に何も飾ることはなかった。
「獣化兵にもランクがある……量産型軍用獣化兵、劣位獣化兵、優位獣化兵。そして獣神兵だ。師匠からは大雑把にそう聞いている。モザイク種や甲殻種とはまた別の分類だけどな」
細かく分類すればまた別なのだろうが、という前置きの下に『向こう側』の兵器の区分を説明する植田。
三人はお菓子とジュースを囲みながら座り込み、そのまま話し込んでいた。
正直あまり良い体勢ではないのだが、三人とも雑なのでまるで気にしていない。
「量産型軍用獣化兵ってのは、短期間で大量に、比較的安く作れるらしい」
とはいえ、一番手間と労力の発生する、つまりは結果的に費用も膨大な育てられ方をした植田には、その辺りがどれぐらい安価なのかはわからないのだが。
少なくとも、今回の兵器は威力偵察程度だったと察することはできた。
「一番強いのは獣神兵だな、そうに違いない」
初陣の興奮が冷めない鬼気は、鼻息も荒くそう頷いていた。
その一方で、天見は少々不安そうにしている。
「う~~ん……そんなに強いのが最前線にいたら、私戦えないかな……」
「大丈夫だ、獣神兵はほとんど残ってないらしい」
「それは残念だな……」
「それは良かったよ……」
果たして、強敵がいるかいないかで喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、どちらがまともかと聞かれれば、どちらもまともではないと断言できる。
植田は自分も同類だと笑いながら、しかしどちらにも同意していた。
「まあこっちの世界と一緒で、一騎当千の大英雄様よりも、大量生産大量消費の量産品の方が生き残ったのさ」
その話をするとき、師匠は『ざまを見ろ』という顔をしていた。
稀有な獣神兵であった彼は、暗殺者に仕立て上げられたことを大層憎んでいたようだし。
「だからこっちでもA組だけじゃなくてC組まで育てているんだろう?」
はっきり言えば、軍隊は数である。今回は幸運にも最強ランクの兵士が二人、現場に居合わせるという幸運によって殲滅は速やかに行われた。
だが、これが別の地域であればより凄惨な結果になっていただろう。
特に大型商業施設など、避難が容易な場所が無い住宅地では。
「反攻とは名ばかりだな。だが仕方あるまい、まずは守って攻撃の態勢を整えてからだ」
「まだ男言葉でしゃべってるし……鬼気ってばテンション上がりすぎだよ」
「仕方あるまい、私も乙女なのだ……胸の高鳴りは抑えきれんよ」
物騒な乙女である。
とはいえ、三人は晴れて轡を並べた戦友となったのだ。その意味合いはとても大きい。
全く同じなのは学年だけだが、三人は等しく危機を共にした仲間なのだ。
「私さ……植田に選んでもらってよかったよ」
最前線で戦うことを希望し、ある程度の手ごたえを感じることができていた天見は素直にそう感謝していた。
少なくとも今回の一戦で、彼女は足手まといにはならなかった。
もちろん、相対的に見て二人に大きく劣っていた物の、独力でモンスターを倒すことができていた。
この学園に入ってから三年間、善意であれ悪意であれ、彼女は前線に立つことを諦める様に言われ続けてきた。
それでも腐らずに、周囲から何と言われようとも、どれだけ芽が出なかったとしても、研鑽を怠ってこなかった。
それが、昨日報われたのである。
例えそれが、どれほど他の二人に劣ろうとも、彼女の積み重ねは無意味にはならなかったのである。
「……俺は、誰でもいいと思ってた」
その一方で、植田は素直に心中を吐露していた。
今話すしかない、心のしこりだった。
「そのなんだ……俺は確かに師匠から鍛えてもらってて、資質も得てるから容量は大きい。でもまあ……シャトルにしてみたら、そんないい条件でもないだろ?」
確かに植田は強い。だが、それはそもそもタンクに求める条件ではない。
シャトルにしてみれば、ごく普通の、一般的なブーストか回復能力を求めるはずだ。
「確かにな、通常のシャトルならアタックブーストやガードブースト、スピードブーストを求めるだろう」
「私も誰でもよかったけど……そうか、植田君も結構条件厳しかったのか……」
植田も鬼気同様に、単体で完結している兵士だった。はっきり言えば、シャトルなど不要なのである。
であれば、今までの鬼気同様に誰かと組む必要もなかったのだ。
そして、学園の方針としてはそれを許していただろう。
「だから……最後まで残った奴と契約しようと思った。条件がいい奴と契約したら、他の奴に悪いからな」
この学校は兵士を養成する場所なので、成績が悪いというのはさぼっているからだ、という認識が少なからずあった。
まさか人一倍努力しているのに、全く身につかない相手がいるとは思わなかったが。
「でも、今は正直感謝してるよ。俺も君が相方で良かった……君の努力を無駄にしなかったのだとしたら、俺にも多少は誰かの役に立ったってことだ」
植田が強くなりたいのは、独りよがりな理由だった。
別に大して理由があったわけではないのだから。
この世界は戦略的に深刻というわけではなく、自分に戦う意味があったわけではない。
ただ、戦う力にあこがれただけなのだ。
それが、同じ志をもつ者に役立つとは、植田は思ってもいなかった。
「そうね……私も貴女と一緒に戦えることが、本当にうれしいわ」
女言葉に戻った鬼気も素直に喜んでいた。
なんだかんだと、それなりに長い付き合いである。
「私も貴女の積み重ねを知っているもの……それが実を結ばないとしても仕方がないけど、実を結ぶならそれが一番だわ」
弱ければ死ぬ、戦うということはそう言うことだ。
それを承知の上で、誰に何と言われても諦めない天見の事を、少なからず鬼気は尊敬していた。
自分は幸運にも資質と適性が一致していたが、しかし彼女の様に嗜好と適性が不一致でも諦めずに努力し続けることができただろうか。
自分の努力は周囲から認められる、成果のある努力。彼女の努力は周囲から否定される、成果のない努力。
どちらがつらいのか、それは想像するまでもないことだ。
「本当によかったわね、天見」
「鬼気……うわあああああん!」
感極まって抱擁する二人。
それは何とも美しい友情の表れだった。
優等生と劣等生の抱擁。それは等しく努力という時間を共有したが故の共鳴だった。
「私、最前線でカッコよく戦うよ! これからも頑張るからね!」
「ええ、その為にこれからも腐らないことね」
そんな二人の友人の事を、植田はとても微笑ましく見守っていた。
※
列道は自室に戻ると、自分のスマホを確認していた。
そこには、演習室内での戦闘記録が閲覧できるように、専用の回線でサーバーとつながっている。
言うまでもなく『可愛がり』を防ぐための処置であり、一般的な意味での見学の為でもある。
だがそれは、あくまでもシャトルの為の見学であって、タンクにはほとんど無意味だった。
なにせ、タンクとは戦うものではないのだから。
「やっぱりだ……」
植田の相方である天見は、B組の中でも強くない。
だがそれは数値的な物ではなく、センスの問題だった。
例えば格闘ゲームやシューティングゲームで、熟練者と素人の差は何かと言われれば、文字通りプレイヤースキルである。
性能差がまったくないとしても、反射神経やコンボのつなげ方、或いは距離の見極めなどができているかいないか。
それらが、天見には欠けていた。
その一方で、植田と鬼気が他を圧倒している理由。
それはセンスもさることながら、スペックが非常に高いという事。
タンクが不要なほどのエネルギー量だけではなく、各能力値が非常に高い鬼気と、それに真っ向から戦えている植田。
やはり、基礎能力が両者の最大の強みだった。技量もさることながら、共に数値が他を圧倒しているのである。
「クソが……」
そう言うことなのだろう。
彼が鍛えていることは事実だが、それ以上に彼が得た『資質』が圧倒的に彼を強化しているのだ。
リスクとやらがどれだけの物であったとしても、彼は『違法改造』をした結果あれだけの力を得たのだ。それが鍛錬の成果だとは笑わせる。
「チート野郎が……!」
列道は見た。
彼が言うところの簡単に手に入らない物、つまりは……モンスターの肉を、食べるところを。
アレを食べさえすれば、『数値』が手に入る。彼がセルフブーストという言葉でごまかしていた力が、誰でも手に入れることができるのだ。
リスクがあるとしても、彼はそれを黙っていたのだ。
「独占してたんだろう、自分だけが恩恵にあずかるために!」
彼のことを嫌う理由が決定的になっていた。
そして、あの時列道は回収することができていた。
奇跡的にではあるが、彼はモンスターの細切れにされた肉片を回収できていたのだ。
「これを使えば、俺だって……」
冷蔵庫に隠してあったそれを手に取る。
そして、些かの躊躇の後に、荒い呼吸のまま、口に運んでいた。
急な発熱ということで列道は月曜日の授業を休み、そのまま夜まで寝込んでいた。
休日の際の騒動が心身に影響を与えたのだろうと、誰もが察して触れることもなく、そして実際になんの不都合も生じなかった。
※
月曜日の夕方、自室にこもり一人で腹筋をしていた植田は、内線電話が鳴ったことにやや驚いていた。
基本的に、内線電話は早々鳴るものではなく、学校側から連絡があるとしてもスマホが主だからだ。
さて、誰からだろうかと電話をとってみると、その先には今日休んだはずの列道がいた。
『よう、植田。俺だよ、列道だ』
「ああ、今日休んでたよな。もう体は大丈夫なのか?」
『……心配かけて悪かったな』
「ああ、きにすんなよ。鬼気の相方は気苦労も多いだろうしな」
植田にしてみれば、列道は戦友の相方、という認識である。
同じクラスの生徒ではあるが、取り立てて親しいわけではない。
というか、基本的に植田が周囲から避けられている上に、入学して一月経過していないC組の生徒は未だに俗世抜けしておらず、トレーニングに精を出している植田は大分浮いていた。
まあ、本人はまったく気にしていないのだが。
『鬼気……鬼気さんの事、呼び捨てか?』
「ああ、結構仲良くなってな。先輩だって言っても、同い年だしな。そりゃあ呼び捨てにもするさ」
『……なあ、植田。ちょっと話があるんだ』
「そんなに深刻ぶるなよ、なんだ?」
植田にしてみれば、後輩への指導を放棄することを公言している、しかも学園側からそれが許されている鬼気の相方は気苦労が多かろうと思っていた。
そして、鬼気と親しくなった今の自分には、それなりには話したいことがあるだろうとも思っていた。
『……電話じゃ話せない』
「じゃあそっちまで行くか? 同じ寮なんだし」
『お前が、前型稽古してたところで待ってる』
「型稽古?」
『鬼気さんと天見に、色々話してたところだよ』
「―――いたのか?!」
『ああ……待ってる』
一方的に内線電話を切られた植田は、やや戸惑いつつも校舎の裏手の山道へ向かうことにした。
今更ながら、彼の言葉に不安な物を感じていたが、此処で引くという選択肢もなかった。
一応ジャージに着替えると、特に汗を拭うこともなく彼が待つと言っていた場所へ走っていた。
「よう」
日が沈みかけた、暗い道。
人がいなくなった山奥の村の跡地に建設された学園の山道は、夜になると本当に何もない。真っ暗闇で、星明りが瞬き、虫の音や風の音しか聞こえない。
ある意味ロマンチックだが、今の植田には不穏な空気しか感じることができなかった。
「早かったな、一人で来たのか?」
「ああ、鬼気たちには話せないことなんだろう?」
「話せないことか……」
暗闇に閉ざされつつある山道でもわかるほどに、彼の形相は悪い。
それこそ、先ほどまで熱で寝込んでいたことも明白なほどだ。
「なあ、植田。お前俺のことキモイと思ってるだろ?」
呼びだして、第一声がそれだった。
少なくとも、明らかに不義理な言葉である。
しかし、小ばかにしているというよりも明らかに追い詰められている彼の言葉には、口をさしはさむこともできなかった。
「だってさ……お前らよりも頑張らなきゃいけないはずの俺が、お前らの後について行って、盗み聞きだぜ? 笑っちまうよな」
自虐だった。そして、それは何も間違っていない。
少なくとも、気分を悪くしても仕方がない事だった。
だが、植田はそれどころではなかった。声は笑っているようなのに、顔がまるで笑っていない。目が闇の中でもわかるほどに、据わっているようだった。
「あげく、休みの日にお前の後を追いかけるしさ……完全にストーカーだよな」
彼が二日前、あの街にいたことも聞いていた。
だが、そんな理由だとは思っていなかった。てっきり遊びに来ていたのかと思っていた。
「キモイだろ? 素直に言えよ」
「どっちかというと、怖いよお前」
「そうかもな……ストーカーは怖いもんだしな」
空気が張り詰めていくのを感じる。その一方で、植田は今まで感じたことのないものを味わっていた。
明らかに、敵意を向けられている。しかし、自分にまるで高揚を感じない。
「キモイ俺には、お前が資質を得たっていう方法は教えてくれないのか?」
「そこも聞いてたのかよ?! っていうか、教えられねえよ、お前には!」
「キモイからだろ? そうだって言えよ!」
「言ってないだろ、そもそもキモイなんて!」
「うるせえな! 俺は全部わかってるんだぞ!」
これは、怒りだろうか。
これは、嫉妬だろうか。
分からないが、とても強い感情をぶつけられている。
寛容だった土井や嵐からは向けられなかった、暗く濃い感情が明らかに植田という個人に向けられていた。
「お前、強くなる方法を隠してたんだろ? みんなが頑張ってるところを、ずるして強くなった体で優越感に浸ってたんだろう?」
「列道……誤解だ。お前が何をそこまで思い詰めてるのかわからんが……お前色々軽く考えすぎだぞ?」
「何がだよ! 教えてくれりゃあいいじゃねえか! どのみち、俺達は兵士で、戦うってことは命がけなんだぞ!」
「そういう問題じゃねえよ……っていうか、お前あの話を聞いただけだろ?!」
「だから何だよ!」
「俺がお前に教えられることなんて、何もねえよ!」
それは、素直な心中の吐露だった。例えどれだけ請われたとしても、決して応じることなどできないと、真摯に答えていた。
「俺もお前と同じ十五歳だぞ?! 他の奴に教えられることなんて、一つもねえよ!」
それを聞いて、列道は怯みかけた。
だが、それでひるんではいけないのだ。
そう、それを認めることはできないのだから。
あくまでも、列道は正しく、植田は間違っていなければならないのだ。
「あるだろうが、リスクを侵せば強くなれる方法を教えることぐらい!」
「お前はリスクリスクって軽く言うけど、リスクを何だと思ってるんだ! 下手したら本当に死ぬんだぞ!」
この現代社会、この日本という国家で、そんなことを軽々しく行えるわけもない。
上手くいけば資質を得られるが、失敗すれば死ぬ方法など、試せるわけもない。
まして、たかが十五歳の少年が同級生に軽々しく話せるわけもない。
「大体、お前リスクを勘違いしてるぞ?! 資質を得るリスクってのは……」
「うるさい、黙れ!」
そんな教師が言うような正論が聴きたいわけじゃない。
その口から、まっとうな理屈が聴きたいわけじゃない。そうだと困る、今更引き返せない。
戦闘中と違って、今のこいつはまともすぎる。そうだと列道が間違っているようではないか。
違うのだ、自分は安易な道を選んだのではなく、あくまでも危険な道を選んだのだから。
今更そんな正論は聞きたくない、もっと見苦しく振る舞え。
「俺は! 食ったぞ!」
「……お前?」
「ああ、モンスターの肉を食った! これでお前と対等だ……お前はもう、凄くない! 俺の方が、凄いんだよ!」
当たり前の事ではあるのだが、資質が無い人間でも強くなれる方法があるのだとすれば、資質が有る人間がそれを行えばより顕著な力を得ることができる。
そして、今の列道は『禁忌』の力に手を染めていた。
植田がかつて手にした、その禁断の方法によって。
※
『師匠、何ですかソレ』
『お前に食わせる、量産型の……まあモンスターの肉だな』
『ウェ?! そんなもんを食って平気なんですか?!』
『そんなわけなかろう。逆に考えろ、これは俺達の世界の……異次元への侵攻の、主力兵器だぞ? なんで食ったら強化されるもんばら撒くんだ。文明人ならともかく、野蛮人なら殺した獣の肉ぐらい食うだろ』
『ああ、そりゃそうですよね……』
『これは基本的に毒だ、普通に人間が食ったら死ぬ。だがお前に俺が付き添っている以上問題はない。俺は獣神兵、獣の因子は完全に制御できているからな』
『うひゃあ! じゃあ俺も資質を得られるんですね!』
『ああ、その通りだ。とはいえ、お前に資質が元からあれば、こんな面倒なことをせずとも済んだんだがな。その辺りは劣位獣化兵の悲哀か』
『なんですか、ソレ。劣位ってことは、優位もあるってことですよね?』
『ああ、資質のある奴なら俺の補助も要らん。そのまま食うだけでもリスクは大分抑えられる。実際に力を行使するにも一工夫必要だが、こっちの世界ならまあ問題ない。例えばシャトルやタンクとしてインプラントを受けれいればな』
『へえ……』
『もともと資質がある上で資質をさらに増設した奴の事を、優位獣化兵と呼ぶ。ちなみにお前は劣位だ、資質が無いのに無理やり付け足したからな』
『師匠は?』
『元優位だ。当然だろうが、俺は天才だぞ? とっくに極めて、獣神兵だ』
『シャトルとどっちが強いんですか?』
『シャトルってのは沢山いるしな……一概には言えねえが……そうだな』
『強力なスキルを持つ優位獣化兵は、量産型軍用獣化兵の十倍は強いと言われてるな』