メイド服
エルミールさんが怒っている。
目つきが元々鋭いエルミールさんが、更に怒りの表情をするとより怖い。
「エルミールさん…」
俺はなるべく彼女の怒りに触れない様に、そっと話し掛ける。
すると俺の方に顔を向けてくるエルミールさん。
顔が怖い…。
「何でしょうかレスティンさん?今からヴィクトルを八つ裂きにしに行かなければいけないのですが?」
「その…聞きたい事がありまして…」
「何です?」
「エルミールさんは、ここで働いている人達をどのくらい把握してますか?」
「ほぼ全員です」
「じゃあ、執事をしている緑髪の男性はわかりますか?」
「アルノエですね…。新人ですが、仕事は出来る様で記憶にあります」
「門番をしているケールさんと、メイドのマドロラさんは?」
「ケールは騎士の癖にヒョロッとしていて不安ですが、あれでもいざという時には戦えるようですよ。マドロラは年中包帯をしていますが、あれは怪我ではないので心配ありません」
エルミールさんが、俺の質問した人達の事をしっかりと記憶している様で、そう説明してくれる。
だが、だが、やはり決め手になる情報は無い…。
やはり、1人ずつ1回は直接話さないといけないか…。
俺がそう思っていると、
「その人達が怪しいのですか?」
エルミールさんが聞いてくる。
「怪しいというか…。俺の考えですと、闇魔法を使える人が内通者として適任かと思いまして」
「何故闇魔法なのです?」
「闇魔法の中に、影の中に入り込める魔法があるんです。それを使えば城の情報を手に入れるのが簡単だと思います」
「なるほど。では私が彼らの所に案内します」
「良いんですか?」
「はい。それに、レスティンさんが突然話をしに言っても不審がられてまともに話せない可能性もあります」
「確かにそうですね。お願いします」
俺がそう言うと、エルミールさんは歩き出す。
俺も彼女に付いて行こうとして訓練場に敷かれている布が目に入る。
「エルミールさん!この布どうするんですか!」
俺は少し先に歩いていた彼女に、大きな声を出して質問する。
すると、エルミールさんは止まり、勢いよく振り返って俺の方へ速足で来る。
そして敷かれている布を畳み始める。
畳み終わった布をエルミールさんは自身のスカートの中に入れる…。
それから歩いて行くエルミールさん。
俺も彼女に付いて歩きながら、
「エルミールさんのメイド服はどうなってるんですか?」
つい聞いてしまう。
すると、
「貴方は女性の服が気になるのですか?…変態ですね」
俺の質問に振り返らずにそう言って速足で歩くエルミールさん。
「違いますよ!?ただ、エルミールさんが服の中に色々な物を入れてるのを見て純粋にそう思ったんです」
「つまり、純粋に私の服の中が気になるという事ですか?そう簡単に私の服の下を見せませんよ」
「違いますってば…。俺には心に決めた女性がいますから」
俺がそう言うと、前を速足で歩いていたエルミールさんが突然止まり、俺の方へ振り返る。
「それはルリィさんの事ですか?」
「ルリィは俺の守りたい人です。心に決めた人とは別です」
「なるほど。つまり、心に決めた女性とはコレット様の事ですね」
「違いますよ」
エルミールさんの言葉を俺が否定した瞬間、
「…死にたいようですね?」
袖から針というか注射器の様な物を取り出すエルミールさん。
「毒でもがき苦しみながら死になさい」
「すみません!!コレット様には冒険者の俺よりも地位が高い方がいいと思います!」
「そう言う事ですか」
俺がそう言うと、少し残念そうに袖の中に取り出した物を入れる。
そうして今度はゆっくりと歩き出すエルミールさん。
俺は彼女の後ろを付いて歩いていると、
「…隣を歩いて下さい」
エルミールさんが後ろにいる俺を少し振り返ってチラッと見ながら、そう言ってくる。
「わかりました」
俺はそう返事をして彼女の隣を歩く。
そうして城内に戻る俺とエルミールさん。
肩を並べて城内を歩いていると、
「少し聞いても良いですか?」
隣にいるエルミールさんが、真剣な声で俺に話しかけてくる。
「何ですか?」
「貴方はルリィさんの事を守りたいと言っていましたね」
「はい」
「それは本心ですか?」
「本心ですよ」
「では、彼女に対して…いえ、獣人に対して劣情を催しているのですか?」
エルミールさんがこれまたとんでもない事を言ってくる…。
「そういう訳ではないです」
「では、獣人に対して性的に見ることは無いという事ですか?」
「獣人だろうが人間だろうが、彼女がいる限り俺は他の人にそういう感情は向けません」
「ハッキリ言いますね」
「事実ですから」
俺がそう言うと、
『シュウ…』
リーシャが呟く。
「では、もし彼女と出会っていなかったらどうですか?」
「エルミールさん、そもそも間違ってます」
「間違っている?」
エルミールさんが首を傾げながら俺の方を見てくる。
「はい。俺は別に外見なんてあまり気にしていません。俺も人の事にとやかく言う程顔立ちが整っている訳ではないですから。俺が彼女に惚れたのは、彼女と一緒にいて落ち着くからです」
「落ち着く?」
「はい」
「そうですか…。獣人に対しては貴方は何とも思っていないのですか?」
「どういう事ですか?」
「世間は獣人に対しての扱いは普通です。ですが、傍に置くという考えは皆嫌がります」
「何でですか?」
「人間とは違う…。つまり、自分とは違うものを傍に置くのは不安でしかない。皆、自分と同じものでないモノは排除するんです」
そう言うエルミールさんは、とても辛そうな表情をしている。
彼女の過去は、一体何があったのだろうか…。
「エルミールさん、人は多いです。獣人だって多いはずです。その中で同じ人なんていません。1人1人違います」
「…そうですね」
「俺はまだあまり人との交流がないのでハッキリとは言えませんが、人それぞれで良いんじゃないでしょうか」
「人それぞれ…」
「はい。自分と同じ人はいません。似ている人はいるかもしれませんが、完全に同じ人なんている訳ない」
「…そうですね」
「エルミールさんがどんな意味で俺に聞いてきたかはわかりませんが、そういう考えでいいと思います」
俺がそう言うと、エルミールさんは少しだけ微笑み、
「…はい」
小さく、だがハッキリとその言葉が聞こえた。
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