憧れ
俺の背中に手を回して、顔を俺に押し当てているティア。
「うぅ…生きていて良かったです」
「心配かけてすみません」
俺がそう言うと、背中に回している手に力が入るのが分かる。
そうしてしばらくして、ティアは落ち着いてきた。
そうしてティアが離れる。
「良い匂いがしました…」
離れたティアが一言呟く。
そう言えばリーシャとくっ付いて服はそのままだった…。
そう思っていると、
「言い方を変えると女の人の匂いです」
ティアが更に俺を見ながら呟く。
『なんか…マズい気がする』
『流石に…ね』
リーシャとそう言っていると、俺から離れていたティアが、ズイッと近づいてくる。
そして、
「私はとても心配してたんですよ?なのにシュウさん…貴方は一体何をしてたんですか?」
俺の手首を掴んでそう言ってくるティア。
「普通に冒険者として頑張ってました」
「コレットの護衛の時に、私に正体を明かさなかったのは?」
「心の準備がまだでした…。すみません」
「シュウさんから、女性の匂いがするんですが?」
「ティアの自分の匂いじゃないかな?」
俺がティアの質問に答えていると、掴まれていた手首を締められる!
「脈が速くなりました…」
ティアが呟く。
何だろう?今まで普通だったティアが物凄く怖い…。
例えるなら、怒っている時の先輩だ…。
『私が言うのもアレだけど、心配だった人が女の匂い付けて帰ってきたら、誰でも怒るんじゃないかしら…』
リーシャの尤もな意見に何も言えない…。
仕方なく、リーシャの事はあまり触れないで、ティアに説明しよう…。
「その…恋人ができたんだ…」
「恋人ぉ?」
怖い怖い!
ティアの表情が怖い…。
「どんな女性なんですか?」
「とても綺麗で凄い人だよ」
「同じ冒険者なんですか?」
「そうだよ」
ティアが矢継ぎ早に聞いてくる。
「どこで出会ったんですか?」
「冒険者ギルドでだよ」
ギュッ!!
また、手首を締められる。
「また嘘を言いましたね…」
ティアが俺に言ってくる…。
「そ、その…」
俺の脈ってわかりやすいんだな…。
どうしよう…。
俺が考えていると、
『ねぇシュウ、誤魔化すのは無理そうよ。この子の事、シュウは信用しているんでしょ?』
リーシャが諦めたように俺に言ってくる。
『まぁ、ティアは口は固い方だとは思うけど…。いいの?』
『私のこと話さないと、この子納得しないでしょう…』
『今のティアを見ると、否定できないな…』
リーシャの事を話そうと、ティアの質問に被せるように話し掛ける。
「ティア?嘘言ってごめんなさい。本当の事を話すから一度離してもらえないかな?」
「…逃げませんか?」
「逃げないよ。だからお願い」
俺がそう言うと、ティアはしぶしぶ俺の手首を解放する。
ティアは、倒れた椅子を起こして座る。
俺は、立ったままティアに話しかける。
「今からティアに話す事は本当に秘密にして欲しい。お願い」
俺がそう言うとティアは、
「…わかりました。話して下さい」
頷きながら、そう言う。
「勇者の人達から、俺の事はどんな風に聞いてる?」
「ダンジョン内で魔王と戦い、奈落に落ちてしまったと聞いていました」
「実は、その時に魔王に右腕の肘から先を魔王に食われちゃって」
「右腕を?ですが今のシュウはちゃんと右腕がありますよ」
「これが、俺の恋び…妻なんだ」
俺がそう言うと、ティアは俺を可哀相な人を見る目で俺を見てくる。
「シュウさん…良い医者を知っています。今すぐ呼びましょう」
「ちょっと待って!最後まで聞いて!」
「…はい」
「ふぅ…。それで、魔王と落ちた後、奈落の底に水があって俺はそこに落ちたおかげで生きていられたんだ」
「そうなんですか。ですが、魔王はどうしたんですか?」
「その魔王は、彼女が倒してくれたんだ」
俺はそう言って右腕のリーシャを見る。
するとリーシャが光り、人の姿に戻っていく。
突然の光にティアは驚いて、手で光を遮る。
光が止み、ティアが手をどけると、突然現れたリーシャに再度驚いている。
「あの…どちら様でしょうか?」
「彼女は…」
「良いわシュウ、自己紹介は自分で出来るもの」
リーシャは、俺の言葉を遮ってそう言うと、ティアの方を向く。
「初めましてティアリス様。私はリリアーナ。リリアーナ・シャル・ティオレットです」
「…あっ、初めまして。私はティアリス・サンレアンと申します。ここ、サンレアン王国の第一王女です」
リーシャが先に自己紹介をして、それに続いてティアも自己紹介をする。
「リリアーナ…?リリアーナ・シャル・ティオレット?」
ティアがリーシャの名前を復唱している。
そして、
「そのお名前は…勇者様…しかも伝説と呼ばれた初代勇者様のお名前…」
ティアは顔を青く染めて、プルプルと震えながらリーシャを見つめる。
「確かに、外見の特徴も一緒…。でも初代勇者様の伝説は、300年以上も前の話…。生きているはずなど…」
リーシャを見つめながらボソボソ独り言を言っているティア。
ティアの挙動をリーシャと見ていると、
「そ、その…初代勇者様ですか?」
ティアが遂にリーシャに対して質問する。
「そうね。昔はそう呼ばれていたわ」
ティアの質問にリーシャがそう返すと、
「ほ、本当に初代勇者様なんですか?」
ティアは未だに信じられないのか質問する。
「そうだって言ってるじゃない…。じゃあこれを見たら信じてくれるかしら?」
リーシャはそう言って、俺が前に買った篭手を取り出す。
それをティアに渡す。
篭手を受け取ったティアは、篭手を見ていると篭手に刻まれた紋章を見つけてまじまじと見つめる。
「これは!文献で見たティオレット家の紋章!」
ティアは大声で篭手を上に持ち上げる。
突然のティアの行動に、俺とリーシャが驚く。
それからしばらく、ティアはリーシャの篭手を何回も見て聞こえないぐらいの声でブツブツ独り言を言っていた。
「お恥ずかしい姿を見せてしまいました…。申し訳ありません」
ティアがようやく元に戻ったが、自分の今までの行動を思い出して顔を赤く染めながら俺とリーシャに謝ってくる。
だが、リーシャに篭手を返すとティアは、
「どうして初代勇者様がいらっしゃるんですか?」
と、聞いてきた。
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