貫通
俺がティシール様の攻撃で地面に激突した瞬間、
『癒しよ』
リーシャが回復させてくれた。
俺が地面に倒れていると、
「お母様!何をしているのですか!?」
ティアが訓練場にきたようで、声が聞こえる。
すると、
「何って訓練に決まってるじゃないか」
少し遅れて地面に下りてきたティシール様が、大きな声でそう言った。
「騎士の皆が城内に駆け込んで来たから、どうしたのか聞いたらお母様が訓練場にやって来ると聞いて、慌てて来たのですよ!」
ティアは大きな声を出しながら訓練場に入って来たのか、声がどんどん近づいてくる。
「今日の仕事は全部やったぞ!」
「お母様が訓練なんてしてしまったら、我が国の騎士の皆が離職してしまいます!」
「そんな事で騎士を辞めるならその程度でしかないんだ!」
「お母様の力で何人の騎士が大怪我をしたと思っているのですか!」
「28人だろ!」
どうしよう…。
完全に親子喧嘩が始まってしまっている。
俺はそう思いながらも動かない方が良いかと考えて、未だに地面に倒れている。
すると、城の方から人がぞろぞろ出てくる。
見た感じ、先程まで訓練場で鍛練をしていた騎士の人達だ。
それからしばらく、ティシール様とティアの言い争っている声が、訓練場に響き渡っていた。
それから俺は、騎士の人に見つけて貰い、地面から起き上がる事が出来た。
「大丈夫かい?ティシール様は手加減しないからね」
「ありがとうございます。ティシール様はいつもあんな感じなんですか?」
「いや、ティシール様が体を動かすのは、機嫌が良い時か悪い時らしい」
「今回は悪いんですかね…」
俺が騎士と話していると、
「レスティン!帰るぞ!」
ティシール様の怒号が聞こえてきた。
「…死ぬなよ」
「不吉な事言わないでください」
騎士の呟きにツッコミを入れて、俺は城の方へ歩いて行くティシール様の後を追う。
城内に入ると、前を歩くティシール様はメイドの人にあれこれ命令している。
そのまま、仕事をしていた部屋に入る。
俺も後に続いて部屋に入ると、ティシール様は椅子に座って何やら考えている。
だが、考えているのが面倒になったのか、
「おいレスティン」
俺に声を掛けてきた。
「はい」
「私が言うのもなんだが、お前はヒトか?」
ティシール様の言葉に、
「どういう事ですか?」
と聞いてしまう。
「私の攻撃を何回も食らってそこまでピンピンしているのが、おかしい」
自分で言ってしまうんだ…。
俺はそう思いながら、
「自分は普通だと思いますけど…」
ハッキリとそう言うと、部屋の扉がノックされる。
「入れ」
ティシール様がそう言うと、扉が開いてメイドの人が3人入ってくる。
1人は、ティシール様の着替えの服を持っているようだ。
後の2人は、分厚い一冊の本と大きめのパンを持っている。
何だろうと思っていると、
「レスティン、今から着替える。目を瞑ってろ」
ティシール様が俺にそう言ってくる。
「また、殴りませんよね?」
ティシール様に質問すると、
「しない。早くしろ」
鎧を外して俺を睨みつけながらそう言ってくる。
俺は慌てて目を瞑る。
すると、
「失礼します」
と、メイドの人の声が聞こえて布が擦れる音がする。
『ねえシュウ』
俺が目を瞑っていると、リーシャが声を掛けてきた。
『どうしたの?』
『実は今、一瞬だけ闇魔法を使用した気配がしたの』
『本当!誰かわかる?』
『ごめんなさい…。それはわからないわ。でも、城門付近で感じたから、今行けばわかるかも』
『じゃあ、行こう!』
『あっ!目開けちゃ…』
俺はリーシャにそう言って、目を開ける!
すると目の前には、服を脱いで着替えている途中のティシール様の姿が…。
しかも、ティシール様は訓練で汗を掻いていたのか、メイドの人が布で拭いている。
つまり…、ほぼ全裸なのだ…。
綺麗な肢体に、大き過ぎず小さくもない胸…。
その先には、綺麗なピンク色のモノ。
全部は見えず、綺麗な金髪で少し隠れている…。
「…おい」
目の前のティシール様が、俺を睨みつけながら低い声を発する。
もはや俺には、目の前の人が人間には見えない…。
完全に魔神だ。
黒いモノが体中から滲み出ている幻覚を見てしまう程の、怒り。
逃げたくても、足が動かない…。
「…レスティン」
魔神様が俺の目の前に来る。
怒りの所為で羞恥心が無くなってしまったのか、はだけている体を隠さないで俺の前で仁王立ちする。
「…死ね」
瞬間!
俺が見たのは、全力で俺に拳を振るう魔神様の姿だった。
俺は見事に腹を殴られて、意識を失いそうになる…。
だが、ティシール様の攻撃は全て衝撃が体を貫通するだけで、吹っ飛ぶ訳ではない。
俺は床に倒れそうになるが、俺が倒れる前に俺の頭を掴んで倒れないようにする魔神様。
そして…、俺は思いっきり外に向かって投げられた。
城の壁に激突して、壁を破壊して外に投げ出される…。
『今回は治してあげない』
リーシャも怒っている所為で、怪我がすぐに治る事も無く、俺は地面に落下した。
見事に城門に落下したようだが、俺は痛みで意識が朦朧としている。
何だ何だと、俺の周りに人が集まってきた。
すると、
「君は!?大丈夫かい!」
俺の体を揺すってくる男性。
見た事がある。
確か名前は…。
「ヴィクトル…さん?」
俺がそう言うと彼は、
「意識はあるね!とりあえずコレを!」
そう言いながら、持っていた袋から市販されている回復薬を俺に飲ませてくれる。
苦いが、飲んでいくと体中の痛みが消えていく。
そうして2本目の回復薬を飲んで、完全に体の痛みは無くなり、立ち上がる事が出来る様になった。
俺が立ち上がると、周りにいた人達はそれぞれの持ち場に戻って行ってしまった。
「何があったんだい?上で破壊音がしたと思ったら、いきなり君が落ちてきて驚いたよ」
俺に聞いてくるヴィクトルさん。
「仕事で失敗してしまいまして」
俺がそう言うと、ヴィクトルさんが、
「何をしたんだい?」
俺に顔を近づけて聞いてくる。
俺が話そうとした瞬間、
「レスティンさん、ティシール様がお呼びです」
エルミールさんが城の2階辺りから声を掛けてきた。
読んでくださってありがとうございます!
評価、感想、ブックマークして下さると嬉しいです!




