仕事
ここから動けないのは完全にマズい…。
どうすればいいんだ?
『シュウ、とりあえずはこの女との信頼関係を構築していく事が重要だと思うわ』
『信頼関係?』
『そうよ。この女は、シュウの事を信頼していないから監視できるようにしているんだと思うわ』
『じゃあ、ティシール様に信用してもらえれば、自由に動ける様になる可能性があるって事か!』
『その通りよ』
リーシャとの会話で、ティシール様との信頼関係を構築する事に決まった。
だが、今は大人しく彼女の側で黙っていた方がいいということになった。
幸いな事に、リーシャがいてくれるおかげで暇なことは無い。
今は、目線はティシール様に向けているが、意識はリーシャとの会話に集中している。
『魔素を見る事を「魔眼」って名付けようと思うんだけど、どうかな?』
『魔眼は違う意味で存在するから、違う方が私は良いと思うわ』
『じゃあ、「魔視」はどう?』
『それは無いから良いんじゃない?』
『じゃあ、決定だね』
その後も、リーシャとの会話で様々な考えが思いつき、リーシャに提案して使えるかどうかの質問をしていく。
そうしている内に、ティシール様が立ち上がる。
ティシール様が、俺の方を見てくる。
「おい、レスティン」
「何でしょうか?」
「何で何も言わない」
「それは…どういうことですか?」
俺が逆に質問すると、彼女は俺の元に歩いてくる。
「ずっと立っていることに不満は無いのか?普通の執事だったら、イラつくほど話しかけてきたりするんだ」
「はぁ…」
俺はティシール様の言ってる事がよく分からず、変な返事を返してしまう。
「いつもの執事たちなら、これやりましょうか?これしますよ!とか話しかけてきて仕事に集中できなくて大変なのに、今日はもう終わった」
ティシール様が俺にそう言ってくる。
「早く終わったなら良いじゃないですか」
俺がそう言うと、
「暇になった…何か面白い事をしろ」
俺の事を睨みつけながら、そう言ってくる。
え~…、面白い事と言われても、そんなにすぐに思いつかない…。
そう思っていると、
「戦うことができるなら…、コレをどうにかしてみろ」
ティシール様がテーブルに乗っている果物を手に取り、少し離れた台の上に乗せる。
台に果物を置いて、ティシール様は台から離れる。
俺は、魔素を圧縮して剣を作り出す。
「魔翔剣」
そう言って、台に乗っている果物に飛ばす。
そして、果物を縦に真っ二つ斬り裂く。
どうだ?
そう思ってティシール様を見ると、完全な無表情だ。
「それだけか?」
ティシール様が俺に向かってそう言ってくる。
「それぐらいなら、私にだってできる」
そう言いながら、ティシール様がもう1つ果物を台に乗せる。
そうしてティシール様が俺の所へ来る。台に向かって拳を突き出す。
その瞬間!
台に乗っている果物が弾け飛ぶ!
「え?」
台に乗っていた果物があった場所を見る。
そこにはバラバラになった果物の欠片と果汁しかない。
『リーシャ、ティシール様は今、何の魔法を使ったの?俺は魔視を使って無かったからわからないんだけど…』
『この女、魔法は使ってないわ』
『じゃあ、あれってどういう事?』
『…純粋な力って事ね』
リーシャと話していると、ティシール様が少し笑っている。
どうだ?
と言ってるような顔だ。
「す、凄いですね」
「このくらいできなければ、国民を護る事は出来ない」
「国民が王族を護るんではないんですか?」
「国民がいなければ、王族だって存在しない」
「そういう事ですか」
ティシール様はそう言って椅子に座る。
俺は側に行こうとすると、
「ここに立て」
ティシール様が自分の前を指差す。
「は、はい」
ティシール様の指示に従って、彼女の前に立つ。
「……」
ティシール様が黙って俺の体を上から下へ、下から上へと見ていく。
「何でしょうか?」
俺はまじまじと見られて、緊張する。
「訓練に付き合え」
ティシール様はそう言って立ち上がり、部屋から出ようとする。
「訓練って…」
俺がそう言うと、扉を開けて部屋から半分体を出している状態のティシール様は振り返って、
「戦闘訓練だ」
そう一言言って、部屋から出て行ってしまった。
俺は、慌ててティシール様を追いかける。
「私は着替えてから行く。お前は先に訓練場に行け」
ティシール様は、歩きながら俺にそう言ってくる。
「は、はい」
俺は、ティシール様の言葉に返事をして立ち止まる。
ずんずん歩いて行くティシール様の背中を見つめる。
何というか…、ティアのお母さんとは思えないな…。
俺はそう思いながら、訓練場に歩いて行く。
城内を歩いているうちに、すれ違う人を魔視で見ていく。
闇魔法は黒色だ。
見ていると、俺が見た人の中には闇魔法を使用している人は見当たらなかった。
そうしている内に、訓練場まで来てしまった。
「あれ?君は確か、臨時で来てくれた執事君」
訓練場に入る俺に気づいた男の人が、俺に話しかけてくる。
「どうしたんだい?執事の君がこんなところに来るなんて」
「ティシール様が訓練をするらしく、今着替えに行ってしまいまして、私が先に来ました」
「……」
俺がそう言うと、目の前の男性が固まる。
彼だけで無く、俺の周りにいた人達も固まり、静かになっていく。
そして、
「ティ、ティシール様が訓練場に来るそうだぞ~!」
俺の目の前にいた男性が急に走り出しながら、訓練場にいる人達に向けて大声で話しながら、帰って行ってしまった。
すると訓練場で訓練したり、休憩をしている人達も走り出して城内に帰ってしまった。
どういう事だろう?
俺がそう思っていると、
「また逃げ出したのかうちの騎士共は?」
背後からズドンッ!と言う音と衝撃が起こり、声が聞こえる。
後ろに振り返ると、騎士風の鎧を身に纏っているティシール様が立っていた。
「あの?ティシール様?どこから来たんですか?」
俺は疑問に思い、ティシール様に聞いてみると、
「そんなのあそこに決まってるだろ」
俺の質問にティシール様は指差しながらそう言う。
ティシール様が指差している方を見ると、窓が開いている部屋を見つけた。
城の上の方だ。
「あそこから落ちて来たんですか?」
俺がそう質問すると、
「当たり前だ」
ティシール様は何事も無かった様に、平然と言い切った。
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