挨拶
エルミールさんの発言に、俺は苦笑いをしながら、
「じゃあ、寝ちゃいましょう」
そう言って、目を瞑る。
少しして目を開けると、エルミールさんも目を瞑っていた。
それを確認してから、俺は本当に意識を手放した。
「いつか……、話……ましょ…」
誰かの声が聞こえたが、俺にはもうわからない。
そして、肩を揺らされて意識が覚醒する。
エルミールさんが起こしてくれたようだ。
「すみません。寝すぎました」
「いえ、メイユ村には既に到着しました。夕食を食べるので付いて来て下さい」
そう言って、エルミールさんは馬車から降りる。
俺は、俺にもたれ掛かっているルリィを起こしてから、馬車を降りる。
メイユ村は、前来た時と特に変わりはないようで、平和そうだ。
今の俺は姿が変わっているため、村人も俺を見ても何の反応もしない。
それから俺とルリィ、エルミールさんと馬車を操縦していた騎士の女性で夕食を食べた後、エルミールさんと騎士の女性はメイユ村に停めてある馬車で眠る事になり、俺とルリィが空いている家を貸してくれる事になり、メイユ村で一泊した。
リーシャには、貸してくれた家で夕食を食べて貰った。
翌日は、朝早くに起こされた。
それからすぐに準備をして馬車に乗り込み、メイユ村を後にした。
馬車に揺られていると、
「そう言えば、貴方の偽名を考えなければいけませんね」
エルミールさんが突然そう言ってきた。
「偽名ですか?」
「はい。このままシュウと名乗るのも、どうかと思いますし…」
「偽名…どういうのが良いですかね?」
俺がそう言うと、エルミールさんは俺の顔をジーとガン見してくる。
エルミールさんも、表情豊かな方ではないが、美人の顔立ちをしているので、見つめられると緊張してしまう…。
『シュウ…』
「むぅ~…」
俺がどぎまぎしていると、リーシャの低い声が聞こえ、隣にいるルリィが頬を膨らませて俺を睨んでいる。
俺が、2人に恐怖していると、
「…レスティン…」
俺の顔をガン見していたエルミールさんが、ボソッと呟いた。
「え?」
「貴方はこの依頼の間はレスティンと名乗って下さい」
「…レスティン」
「良いですか?」
「はい」
それからしばらくの間、魔物も出ずに馬車に揺られていた。
そして遂に、サンレアン王国が見えてきた。
「良いですかレスティン?これからは貴方は、サンレアン王国に忍び込んできた虫を見つけ出す事です」
「わかってます。全力を尽くします」
「よろしくお願いします」
検問所を通過して、サンレアン王国に入国する。
そのまま城下町を進んでいくが、城が見えた所で止まる。
「宿屋に着きました。ルリィさんはここで降りてもらいます」
エルミールさんが、俺とルリィを見てそう言う。
「ご主人様…」
ルリィが声を出す。
俺は、ルリィの頭を撫でながら、
「美味しいご飯、楽しみにしてるよ」
そう言うとルリィは、
「頑張ります!だから、早く帰って来て下さいね…」
そう言って、俺に抱き付いてくる。
「ルリィさんの身の安全は、私が責任を持って保障します。安心して下さい」
エルミールさんがそう言ってくれる。
彼女になら、任せても大丈夫だろう。
俺はそう思いながら、ルリィを優しく抱きしめる。
その後、ルリィは馬車を降りて宿屋に入っていくのを見送ってから、馬車は城に向かって出発した。
「……」
「心配ですか?」
俺は、馬車を降りていったルリィの事が気になって仕方がない。
そう思っていたら、エルミールさんが俺に聞いてきた。
「えぇ、当たり前ですよ」
俺がそう答えると、
「彼女とはどういう経緯で仲間になったのですか?」
エルミールさんが質問してくる。
俺は、ルリィの事を少しだけ教えた。
違法の奴隷にされて嫌々犯罪をさせられていた事をだ。
エルミールさんは俺からルリィの過去を聞いて、
「そんな事があったのですか…」
静かに驚いている。
目もいつもより開いている。
「なるほど。ルリィさんが奴隷だったと…」
エルミールさんがぶつぶつと何やら呟いている。
何を言っているのだろう?
そう思って声を拾おうとした時、馬車が止まった。
「どうやら着いたようですね」
エルミールさんはそう言って、立ち上がり馬車から降りようとして、
「良いですか?これからはしっかりと、レスティンと呼ばれたら返事をするように心掛けて下さい」
そう言いながら、俺の方に振り向いてくる。
「わかりました」
俺がそう言うと、エルミールさんは馬車から降りていく。
俺もエルミールさんの後に続いて、馬車を降りる。
城内は特に変わった様子は無く、俺には平和そうに見える。
だが、ここにヴァランス帝国と繋がりがある奴が潜入しているのか…。
俺がそう思っていると、
「レスティンさん、こちらですよ」
エルミールさんが、俺に声を掛ける。
「は、はい!」
俺は、慣れない名前に返事をすると、エルミールさんの顔が険しくなる。
多分、ちゃんとしろ!と思っているんだろうな…。
エルミールさんに案内され、着いた場所は厨房だった。
そこでは、料理人が黙々と料理をしている。
「皆様、お聞きください」
エルミールさんが手を叩いて音を出すと、皆の視線が料理から俺とエルミールさんに移る。
「臨時で、ティアリス様の執事に就任しましたレスティンさんです。レスティンさん、皆様に挨拶を」
エルミールさんが俺にそう言ってくる。
俺は、1歩前に出て1礼する。
「レスティンと申します。臨時ではありますが、よろしくお願いします」
俺が無駄な事は言わない様に挨拶をすると、皆お願いしますやよろしくと言ってくれた。
「お時間ありがとうございました。仕事に戻って下さい。レスティンさん、次に行きますよ」
エルミールさんが厨房にいた人達にそう言うと、皆また調理に戻った。
それからエルミールさんに案内されて、城内にいる他の執事の方やメイドさん、騎士の人達に挨拶をして回った。
メイドの人達は皆、笑顔で迎えてくれたが、執事の人達は何人か俺を見て嫌そうな顔をする。
執事の人達に挨拶を済ませて、次に向かっていると、
「どうでしたか?挨拶をした感じは」
エルミールさんが俺に聞いてくる。
「メイドの皆さんは普通な感じでしたが、執事の人達にはあまり歓迎されていない感じでしたね」
俺がそう言うと、
「長い年月を掛けて執事になった者からしたら、簡単に執事になった貴方に何も思うなと言う方が無理でしょう」
エルミールさんがそう答える。
そりゃそうだな…。
俺はそう思いながら、
「これからどうするんですか?」
前を歩いているエルミールさんに聞くと、
「これから、ティアリス様とコレット様、ヴァレッド様とティシール様にお会いになって頂きます」
俺の方に振り向いて、エルミールさんはそう言った。
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