幻惑
エルミールさんの言葉を聞いて、俺はまたヴァランス帝国か…、と思ってしまう。
「どうかしましたか?」
俺の様子を見ていたエルミールさんが俺に聞いてくる。
「いえ、前の護衛をした後に、ヴァランス帝国絡みで色々ありまして…。正直に言うと、あの国は何回も問題を起こすんだな、と思いまして…ね」
「ヴァランス帝国は、国自体の権力が強いですし、サンレアン王国では認めていませんが、奴隷制度で汚い話、懐が潤っています。ヴァランス帝国が様々な問題を起こすという事は、それだけ様々な事に手が出せる程、大きな力を持っているんですよ」
エルミールさんが俺にそう説明をしてくれる。
「なるほど。それで、今回の依頼の詳しい内容は?」
「はい。今回の依頼は、城の中で怪しい動きをしている者を見つけ出す事です」
「見つけ出すって…。そんなに簡単ではないですよね?」
「はい。しかも貴方には、正体を隠して欲しいのです」
「正体を隠す?」
「はい。コレット様にも勿論、ティアリス様にもです」
「勇者には良いんですか?」
「勇者様方は今、長期のダンジョン攻略に出ています。勇者様方の事は気にしないで下さい」
先輩達は今いないのか…。
「何か残念そうですが、続けていいですか?」
「あ、はい。すみません。続けて下さい」
「正体を隠す理由ですが、内通者は誰かわからない状態です。ですので、コレット様が気に入っているシュウという冒険者が城に現れると、向こうも警戒してしまう可能性があります。そこで、貴方は私が手配した魔法使いの方の魔法で姿を変えてもらいます」
「姿を変えて、城に入るって事ですか?」
俺がそう聞くと、エルミールさんは頷いた。
「姿を変えて、偽名も名乗ってもらいます。そして、貴方にはティアリス様の執事として働いてもらいます」
「ティア…ティアリス様の執事ですか?」
「ちょうど執事の者が、親族の凶報が届き至急に故郷に帰るという事で、1人足りない状態ですので、ちょうどいいのです」
「はぁ…」
「ティアリス様の執事という立場を利用すれば、大抵の所へ入る事が出来ます」
「動きやすいって事ですか」
「そういう事です」
俺は考える…。
そんな簡単に内通者を見つける事ができるのか?…と。
「ちなみに、貴方に拒否権はありません」
俺が考えていると、エルミールさんは俺にそう言ってくる。
「え?」
「私は貴方が適任だと判断してここまで来ました。手ぶらでは帰れません」
「どういう理屈ですか!?」
それから依頼を受けることになったのだが、一旦別れることになった。
エルミールさんは、魔法使いを呼びに。
俺は宿に戻り、ルリィを連れてエルミールさんが指定した場所に向かう。
集合場所に行くまでの間に、ルリィには今回の依頼ではしばらくルリィにはサンレアン王国の宿で待機してもらいたいと言うと、
「一緒にいたいですが、そんなに大変なお仕事なら仕方ないですね…。その代わりに、依頼が終わったら私と出かけて下さい!」
ルリィは耳がシュン…としたが、一気に耳が立つとそう言ってくれた。
尻尾もゆらゆら揺れている。
リーシャは、
『一緒に頑張りましょうね!シュウ!』
やる気満々の様で、元気な声でそう言ってくれた。
リーシャとルリィと話しているうちにエルミールさんが指定した場所に到着する。
すると、そこにはエルミールさんと、1人の男がいた。
男は、茶色い髪を少し伸ばしている感じだ。
気弱そうな感じの人だ。
「待たせてすみません」
俺が2人にそう言うと、
「全くです」
「エルミール君?彼がそうなのかい?」
エルミールさんは相変わらずの反応をして、エルミールさんの隣にいた男は、エルミールさんに声を掛けるが無視されている。
「ではさっさと…。誰ですか隣の方は?」
エルミールさんが、俺の隣にいるルリィを見て俺にそう言ってくる。
「彼女は、俺の仲間です。彼女を置いて行く訳にはいかないので、連れてきました」
「…はぁ~、これだから男は…。いいですか?今回の依頼は目立つ事はご法度なんですよ」
「わかってます。彼女はサンレアン王国の宿で待機させておきます」
「…わかりました。それではヴィクトル、お願いします」
「エルミール君?一応僕って君より立場が高い方なんだよ?」
エルミールさんにヴィクトルと呼ばれた人が、エルミールさんに抗議するがやはり無視されている。
彼は、しょんぼりしながら俺の方へ来る。
「初めまして。サンレアン王国で魔法の研究をしているヴィクトルと言います」
「初めまして。ここヴェルーズ冒険者ギルドに所属しているシュウと言います。今回はよろしくお願いします」
ヴィクトルさんは挨拶を済ませて、早速俺に魔法を使ってくる。
「彼の者に、我が力を纏わせ、姿を惑わせ!幻惑!」
ヴィクトルさんが俺に両手を向けて魔法を使ってくる。
俺からしたら、自分の姿を見ても変わっているようには見えないが、
「ご主人様の姿が…」
「これで良いのかいエルミール君?」
「はい。ありがとうございましたヴィクトル。さっさと帰って下さい」
「一緒にでは無いんだね…」
ルリィが俺を見ながら驚いているし、エルミールさんがヴィクトルさんを帰らせたという事は、多分成功したのだろう。
ヴィクトルさんが、トボトボ歩いて行くのを見ていると、エルミールさんが俺の目の前に来る。
「体に違和感などはありませんか?」
エルミールさんが聞いてくる。
「はい。大丈夫です」
「…そうですか」
エルミールさんの質問に答えると、エルミールさんはそう言って俺から少し離れる。
エルミールさんの様子がおかしい…。
エルミールさんなら、ここでキツイ一言とかがある。
なのに今は何やら考え事をしているのか、腕を組んでいる。
「あの?エルミールさん?」
俺が声を掛けると、
「なんですか?」
低い声で返してくる。
「今の俺の姿ってどうなってるんですか?」
「姿ですか?しっかりと執事の格好になっていますよ」
「顔とかは?」
「顔ですか…。そこそこですね」
「そ、そこそこ」
エルミールさんの言葉にショックを受けていると、
「好きな人は好きな顔って事です。私は嫌いですが…」
エルミールさんはフォローをしながら、更に追い打ちをしてくる…。
だが、
「私は本来の姿の方が良いと思います」
あのエルミールさんが、俺にそう言ってくれた。
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