グリニオン帝国
翌朝、俺はリーシャに起こされた。
今朝は2人で作った朝食を食べて出発となった。
森を出て、アルに従って歩き出す。
道中は、魔物に遭遇したりしたが、問題なく対処できた。
そうして歩くこと2日。
遂に、
「この山を超えれば目的地だぞ」
目的地まであと少しになった。
そして、俺はアルから目的地がどこか聞いたことが無かった。
「アル、目的地ってどこなの?」
俺は山道を先に歩いているアルに声を掛ける。
「あ~、シュウには言ってなかったっけ?」
「うん、聞いてないよ」
俺がそう言うとアルはこちらに振り返って、
「目的地はグリニオン帝国の貧民層区だ」
そう言った。
グリニオン帝国、そう言えば紹介状を渡されていたはずだ。
防具屋…。
お金あるかな?
前に買った防具は胸当ては35000ラティーぐらいだった。
だが、防具屋のジスレットさんが言うには、あのお店より大きいし品揃えが良いと言っていた。
今の俺の持ち金は150万ラティー。
高くても何とかなるかな?
俺はそう思って、アルの後に付いていく。
山を超えると、少しずつ見えてきた。
山と山の間に城の様な立派な建築物が。
それからしばらく歩いて行くと、どうやら俺が城の様な物と思っていたのは、予想通り城だった。
そして、グリニオン帝国の門前に着いた。
だが、
「こっちだ」
アルに連れて行かれたのは門から離れた壁の窪みだ。
「ここから入るんだ」
アルはそう言って、壁の窪んでいる所を押す。
すると、
ゴゴゴゴゴ
という引きずられる音を出しながら壁の一部が押されてズレていく。
そして完全に、壁に人1人分が通れる穴が出来上がる。
「ほら、早くしろ」
アルがそう言って俺とリーシャを急かす。
リーシャに先に通らせてから、俺も通る。
俺が通ったのを確認したアルはまた壁を押す。
今度は穴を塞ぐ為だろう。
また、引きずられる音が聞こえるが、俺はグリニオン帝国の町を見る。
活気がある人達がいる反面、路上にはやせ細っている子供の姿もある。
グリニオン帝国は貧富の差が激しいのだろう…。
「行くぞ2人共」
アルの声が聞こえてそちらを向くと、アルが歩き出している。
俺とリーシャはアルの後ろに付いていく。
「何でここから入るの?」
「ここからじゃないと目的の家に行けないっていうのと、ステータスカードを見せられないからだ」
アルが説明してくれる。
リーシャならステータスカードの偽装はできるかもしれないけど、目的の場所に行くための手順なら仕方ない。
俺がそう思っていると、アルが路上で物を売っている人達を見る。
「売り込んで来る奴の商品は買うんじゃねぇぞ」
「何で?」
「1つ買った瞬間に、他の奴らも買ってくれと押し付けてくるんだよ…。それで金全部使っちまったからな」
「実体験なのね…」
「あぁ、金が十分あるリーシャならどうだ?」
「必要な物なら買うのもいいけど…。ああいうのは要らないわ」
そう言ってリーシャが指さすのは、草を持った老人。
「あれは?」
「あれはねシュウ。毒草なのよ」
「何で毒草なんか」
「上質な薬草って、毒草と形が似てんだよ。だから騙して高額で偽物を買わせようとしてるんだろ」
このグリニオン帝国も闇が深そうに感じる…。
俺がそう思っていると、
「おい!待ちやがれこのクソガキ!」
前から10歳ぐらいの子供が大人の男に追いかけられている。
だが、子供の機動力に付いて行けず、距離が離れていく。
追いつけないと悟ったのか、男が手を前に出す。
俺が見ると、男の手の周りが水色になる。
何をやったのかはわからないけど、魔法を使うのは危ない。
俺はそう思って、こっそりと魔素を操る。
「凍てつく氷よ、逃げる者を凍らせよ!」
男が魔法を詠唱して魔法を使おうとするが何の反応もない。
「な、何でだ!?」
男は魔法が使えない事に驚き、足を止める。
その隙に、子供は人混みの中へささっと行ってしまった。
俺が見ていると、
「「シュウ…」」
2人の声が聞こえる。
2人を見ると、俺の事を冷ややかな目で見ている。
「その、流石に魔法を使うのは酷いと思って…」
2人に対して、苦し紛れの言い訳をするが、今思うと俺のやった事は何かの犯罪の共犯かもしれない。
それからしばらく、俺は2人にお説教された。
人を助けるのは良い事だが、助ける人を見極めろ!…と。
2人のお説教が終わってからしばらくして、
「ここだ」
アルがそう言って止まった。
見ると、完全な一軒家だ…。
すると、違和感を感じる。
辺りを見ると、人がいなくなっている。
あんなに騒がしかった町の音すら聞こえない。
ここだけ異次元の様に感じる。
「魔法…いえ、これは魔導具ね」
リーシャが呟く。
リーシャの呟きにアルが、
「正解だリーシャ」
そう言って鍵を取り出す。
「魔導具って?」
言葉自体は知っているが、内容まではよく知らない…。
「魔導具っていうのは、遥か昔に使われていた技術よ。物に魔法を宿して使うの」
俺の質問にリーシャが説明してくれる。
「じゃあ、この家はその時代からあるって事?」
「どうかしらね?アルのスキルで分かる?」
リーシャもわからないようで、アルに聞く。
「あぁ、その時代からある。この家にも魔導具が使われている」
「どんな?」
「適切な道順を歩かないと、この家にたどり着けなくなる様に細工されてるんだ」
だから、あんな変な所から入ったのか…。
アルが家の鍵を開ける。
ギィィ
と、ドアが軋む音が鳴る。
中に入ると、特に変な所はない。
「こっちだ」
アルがそう言って2階に上がって行く。
俺とリーシャもアルに付いて、階段を上がる。
「ここにオレが言ってた扉がある」
アルがある部屋の前で言ってくる。
「入るぞ」
アルがそう言って部屋の扉を開ける。
すると、見えたのは部屋の真ん中に佇んでいる扉。
「これが例の?」
「そうだ」
「やってみてくれる?」
リーシャがアルにそう言うと、アルが扉の鍵穴に鍵を差し込む。
ガチャ
解錠音が聞こえてくる。
アルが扉を開けると、その先には部屋…。
今3人がいる部屋にしか見えない。
この扉は何を意味があるのだろう。
「どういうことかしら?」
「なぁ、リーシャ。ここ見てくれないか?」
「どれ?」
アルが扉の一部分を指さす。
リーシャがそこを見ると、
「これは古い文字ね。それに見辛いわ…。鍵、有りし者、資格、無き者、通る、許可。どういうことかしら?あっ、でもこの名前の部分は読めるわ。えっと…バルナルド・ヴィリヴァ!?」
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