間違い
その後もアルと戦い、圧縮までは上手くできるようになっていった。
「はぁっ!!」
「よっ!」
だが、やはりただのパンチでは遠距離からの攻撃に対処が出来ない。
「集中しろっと!!」
「あっ!ごほっ…」
アルとの戦いに集中しないで、俺は遠距離での戦い方を考えていた。
そのせいで、アルに蹴り飛ばされる!
俺はゴロゴロと吹っ飛ばされる。
ようやく止まったが、俺は倒れた状態で考える。
アルの様に腕を伸ばすことを考えて実践してみたが、圧縮した魔素を伸ばすと圧縮が解除されて、またすり抜けてしまう。
「おいシュウ」
アルが俺の所まで来て声を掛けてくる。
「ごめんアル、集中できなくて」
「いや、考え事してるんだろ?1回休憩しようぜ。流石に何時間も戦ってるとオレも疲れる」
俺が謝ると、アルは笑いながら地面に倒れている俺の隣にドカッと座る。
俺も身を起こし、座る。
疲れている様には見えないな。
そう思って、隣にいるアルを見ると、汗を掻いている。
少しだけ前かがみの状態で座っているせいか、アルの胸元が…。
そして、首筋から鎖骨、胸元へと汗が流れる…。
ゴクリ…、ハッ!いけないいけない!!
俺にはリーシャがいるんだ!!
「なぁ、シュウ?」
「な、何?」
突然声を掛けられて、少し裏声の状態で返事をしてしまった。
「シュウは、何で強くなりたいんだ?正直言ってオレは努力とかしないで強かったからよくわかんねぇんだ。シュウの強くなりたい理由が。それにお前にはリーシャがいるしな」
「俺の強くなりたい理由…、それは、勇者の力になりたいからだよ」
「あぁ、そう言えばシュウも勇者と同じ場所から来たんだもんな、忘れてたぜ。じゃあ、何であの時にシュウはその勇者達に正体を隠してたんだ?」
「あの時?」
俺がそう言うとアルは、
「あっ…ヤベ」
と言って、視線をキョロキョロし始める。
俺はその様子を見て、考える。
俺が先輩達に会ったのは、コレットさんを護衛した時だった。
でも、その時はアルとはまだ出会っていない。
となると、
「アル、俺の過去を見たの?」
アルの全知のスキルはこの世界の全てが見えると言っていた。
つまり、この世界にいる俺の過去を見る事も可能だろう。
「すまん、気になっちまってな…」
アルはそう言って、俺に頭を下げてくる。
「いや、それは、気にしてないよ。でも、恥ずかしいな。前の俺って相当ダメだったから」
「シュウの過去は、この世界に来た時からしか見れないからそこまで恥ずかしがる事ねぇよ…。オレが言うのも変だけどな…」
アルはそう言ってハハッ…と笑う。
「正体を隠してた理由か…。2つ理由があるんだ」
「オレが言うのも何だが、聞いちまって良いのか?」
アルが俺を見て、言ってくる。
「うん。まず、1つは身勝手な理由なんだけど、まだ会えないって思ったんだ」
「どうしてだ?」
「俺が弱いままで戻ったら、もう俺は強くなれないと思ったんだ…。言わんこっちゃないって事になって、俺はレベル上げとかさせてもらえなくなると思った。役に立ちたくても、それすら迷惑がられるんじゃないかって思ったら…、会えないと思って」
「だが、それはシュウの想像だろ?」
「平民の俺の事を簡単に信頼してくれるとは思えなかったんだ」
「だが、シュウには先輩とか姉ちゃんとか妹がいるんだろ?」
「2人も信頼はしていないと思って。その…先輩は…」
「先輩がどうかしたのか?」
俺が歯切れを悪くしていると、アルが聞いてくる。
「2つ目の理由が、先輩なんだよ」
「どういう事だ?」
「その、先輩って俺が危ない事や怪我とかすると、心配し過ぎて部屋とかに閉じ込めるんだ」
「はっ?」
「しかも、縄でグルグルに縛ってね」
「それは、異常だろ…」
アルはそう言って、顔を引き攣らせている。
俺が確か、小学生高学年の時に事故にあって骨折した時があった。
次の日に、お見舞いに来た先輩が俺を拉致して先輩の部屋に閉じ込められた。
先輩曰く、外は危険だから部屋に居ようねってことらしい。
確か、
「柊ちゃん、外は危ないから私の部屋にずっと居ましょうね。大丈夫よ、柊ちゃんのお世話は私がしっかりするからね?…ね?」
と言ってた気がする。
俺がそう思っていると、アルが立ち上がる。
「アル?」
「悪いなシュウ、またシュウの考えている事見ちまった」
「いいよ」
俺がそう言うと、
「シュウ、お前は逃げてる…」
アルが呟く。
「え?」
「シュウは、前の自分を知っている勇者の連中から逃げてる」
「…そんな事…」
「シュウが先輩達の役に立ちたい気持ちもある。だが、それと同じくらいお前は勇者達やサンレアン王国の王女から遠ざかりたいと思ってる。男だから、自尊心や誇りを持っていたい気持ちはわからなくは無い。だがそれは、人を悲しませてまで持っていたいなら、それは違うぞシュウ。人を悲しませてまで誇りを保ちたいっていうなら、今ここでオレがぶん殴ってやる…」
アルの言葉に俺は否定できなかった。
昔の自分、情けない俺を知っている人に会いたくないって思っていた。
それは、俺のプライドってやつなのだろう。
だが、アルの言った通り、先輩達に心配掛けて守るものではない。
「…ごめん」
「オレに謝っても意味ねぇぞ。今度会った時にしっかりと打ち明けて謝れ。それがシュウが勇者や王女にしてやれる誠意ってモンだ」
「うん、ありがとう。アル」
「気にすんな。それより、姿を消してるお前が本当はするべきだったんじゃねぇのか?」
アルがそう言うと、突然リーシャが姿を現した。
「わかってたわよ。でも、私だと甘やかしてしまいそうで…」
「否定はしねぇぞ」
どうやらリーシャも俺の考えていた事を知っている様だった。
「リーシャにも心配掛けてごめん」
「私もごめんなさい」
俺がリーシャに謝ると、リーシャも謝ってくる。
それから、俺とリーシャは互いに謝りまくり、アルに止められた。
「今すぐにでも無事を知らせた方が良いよね」
「本当ならそうなんだが、先輩の話を聞くとなぁ~」
「難しいわね」
3人で俺の今後の事を話し合っている。
無事を知らせるのは簡単だ。
リーシャの転移でサンレアン王国に行けばいいのだから。
だが、先輩の事を考えていると、リーシャやアルは今は行かない方が良いと言っている。
特にアルが今はヤバい、と言っていった。
結局、次に会った時に必ず正体を教える事をアルに約束した。
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