疑似魔法
リーシャとの訓練をしているうちにわかった事があった。
どうやら、俺の体に接している魔素を操っている間は、鎧並みの頑丈さがあることがわかった。
高い位置から落ちてもほとんど痛くない。
リーシャに聞くと、前にリーシャが使った身体剛化と言う魔法に凄く似ていると言われた。
火魔法みたいな周りに干渉する魔法はほとんど使えない。
使えるとすれば、敵の周りの魔素を取り除くことぐらいだ。
後は、俺の体に接している魔素を操る方が多い。
そして、俺は痛覚半減と言うスキルもあったから、多少の無理ぐらいなら出来ると思い、あることを考える。
それは、どれほどの強さまで殴られたら俺は痛みを感じるのかと。
今は魔素を操っているから、体が強化されているし、スキルの痛覚半減である程度の攻撃なら耐えられるんではないだろうか。
俺はそう思い、下に下りる。
俺はリーシャに話しかける。
「ねえリーシャ」
「ん?どうしたのシュウ?」
「悪いんだけど、俺の事なぐ…」
「嫌よ」
俺が頼もうとしたら、言葉を言い終わる前に拒否されてしまった。
「お願いだ…」
「嫌よ」
またもや言葉を被された…。
「どうして私がそんな事しないといけないの?」
リーシャが俺の事を睨みつけながら聞いてくる。
「その、俺が魔素を操っている時の強度を知りたくて…ごめんなさい」
俺がそう言うと、リーシャはため息をつきながら、
「じゃあ、アルに頼んで見ればどう?」
俺はリーシャにそう言われて、あることを思った。
まだ、数日だけどアルと一緒にいてアルの戦っている姿を見た事がなかった。
アルはどんな戦い方をするのかな?
俺はつい知りたくなってしまった。
「わかった。アルに頼んでみるよ」
「その方良いわ。私はシュウの事殴りたくないし、もし殴るとしても手加減しちゃうだろうしね」
リーシャはそう言って、苦笑いする。
俺はリーシャに少し休んでてと言い、アルの所に行く。
アルは俺とリーシャが一緒に訓練し始めてから木を背もたれにして、前に見せてくれた鍵を凝視している。
だが、俺が近づくと、俺に気づいて視線が鍵から俺の方に向けてくる。
「どうしたんだシュウ?リーシャと練習してたんじゃねぇのか?」
「いや、少し気になった事があって…」
俺がそう言うと、アルは立ち上がる。
「何が知りたいんだ?」
「アルの戦い方、それと俺の魔素を操ってる時の強度を知りたくて」
何だか自分の体の強度よりも、アルの戦い方の方が知りたくなってきた。
俺がそう言うと、アルはん~…、と唸っている。
「どうしたのアル?」
「いやな、シュウに戦い方見せるのが恥ずかしくて、どうしようか考え中」
それからもアルは、少しの間唸っていたが、
「まぁ、これから先何があるかわからないもんな。互いにどんな強さや戦い方か知っておいた方が良いだろ」
そう言ってくれた。
アルが俺に向かって
「準備しろ~」
そう言ってくる。
俺はアルの言う通りに、魔素が見えるようにアルに集中する。
同時に体に接している魔素も操っておく。
「準備できたよ」
俺がそう言うとアルは、
「行くぞ~!」
と言って、俺を殴ろうとする態勢になる。
右足を引き、体をひねって右腕を前に突き出そうとする。
瞬間、目の前に真っ黒な物体出てきて俺を吹き飛ばす!
背中に木々が当たりへし折っていく感触が背中から体全体へと伝わっていく。
「ぐへ…」
クルクル回ったりもしながら、やっと俺は止まり、体を起こす。
すると、周りは木なんか生えてはいなく、草原だった。
「ここは?」
そう思いながらキョロキョロと辺りを見渡すと、後ろに見えたのはさっきまで俺の周りに生えていた禍々しい木の森だった。
「…こんな所まで飛ばされたのか?」
だが、吹っ飛ばされた距離にしては痛みはあまりない。
やはり、スキルの力で痛みが半減されているのだろう。
俺がそう思っていると、
「お~、ここにいたか~」
アルの声が聞こえた。
声の方向へ目を向けると、そこにはアルが立っていた。
だが、普段の姿ではなかった。
右腕が何倍にも大きくなっている。
肌の色も、真っ黒だ。
真っ黒の腕には、赤く模様が入っている。
「アル、その腕は?」
俺は立ち上がりながら、アルに問う。
「あ~、これがオレの本当の姿っていうか…魔神としての姿なんだよ」
俺の質問に、アルは苦笑いをして何倍にも大きくなった右腕で頬をポリポリと掻いている。
俺はアルを見るが、アルの周りの魔素は何色にも変色していない。
つまり、魔法は使っていない。
俺が立ち上がると、
「どんどん行くぜ~!」
アルはそう言って俺の方へ駆けて来る!
俺は咄嗟に、空中に逃げる!
だが…。
「もっと速く移動できるようになれよ~!」
目の前には、アルが既に拳を振り上げていた。
まずい!
俺は回避しようとしたが、アルの方が速く俺を殴る!
「ぐはっ…」
アルに殴られて、地面に叩き落とされる。
背中が地面に激突して、激痛ではないが痛み、声を出してしまう。
地面は完全に砕かれて陥没している。
大きなクレーターの真ん中で俺は、上から下りているアルを見るとそこには、右腕と同じようになった左腕と両足の姿をしたアルがいた。
「大丈夫か~?」
アルは未だ倒れている俺に声を掛けてくる。
何回見ても、アルの周りの魔素は反応していない。
俺の傍にアルが下りてくる。
「シュウ、どんなに見てもオレの周りの魔素は反応しないぞ」
「どういう事?」
「オレは魔法を使えないんだよ」
「魔法が…使えない?」
俺がそう言うとアルは、両腕と両足を元に戻す。
「オレは魔神だから、元々は珍しい魔法も使えたんだ」
「それなのにどうして?」
「リーシャのスキルを知ってるだろ?」
アルが、俺の隣に座りながら言ってくる。
「うん。全能っていうスキル」
「そのスキルは、オレの全知のスキル以外は全て使えるスキルだ」
「リーシャが言ってた」
「全知は魔法が使えなくなる代わりに、この世界の全てがオレには分かる」
俺がそう言うと、アルは笑いながら口を開く。
「オレは魔法を捨てて、この全知のスキルになったんだ…いや、与えられたって言った方が良いかもな」
そう言っているアルの笑顔は、後悔などしていない晴れやかな笑顔だった。
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