決着
奴の伸ばしくる手を見つめる。
俺は強くなりたい。
だが、この手は握ってはいけないと直観的だが、思ってしまう。
「その手は握らない」
俺がそう言うと、奴は目つきが鋭くなる。
「何で?」
声も低い。
「確かに俺の理想…願望の姿はお前みたいに魔法が使えたらなと思ったり皆とも仲良くできたらなと思っていたよ」
「じゃあ何故?」
「リーシャ」
俺がそう言うと奴は笑いながら、
「リーシャ?お前の事を甘やかしてるだけじゃないか。お前はお前自身の力で強くなりたいんだろ?」
そう言ってくる。
「うん。だけど、俺にはリーシャが必要だから」
「何でだ?」
「俺はもう元の世界に戻る気はない。先輩や姉さん、春乃に恩返しができたら俺はもうあっちには行かない」
俺がそう言うと、奴は俺を睨んでくる。
「男として情けなくないのか」
奴の問いに俺は苦笑いをしながら、
「確かにリーシャといると自分がいる意味がわからなくなってた時もあった。でも、リーシャが俺を必要としてくれているのを知ってる。それに…」
「それに?」
「リーシャがいないと何もできないけど、リーシャと一緒なら俺は何でも出来る気がする。もしリーシャが傍にいなくてもリーシャに安心してもらえるように強くなりたい。でも、その力にお前の力は必要ない」
そう言いきると、奴は左手から刀身が真っ赤な大剣を出してくる。
「話してもわかり合えない…。なら、やることは決まってる」
奴の言葉に俺も左手に直剣を出す。
「無理やりにでもこの力を受け取ってもらう!」
そう言って奴は俺に斬りかかってくる!
とっさに後ろに下がると俺が立っていた地面が大剣の刃で斬られていた。
「はぁ!!」
俺も負けじと斬りかかるが即座に態勢を整えた奴が大剣で防ぐ。
「そんな軽くちゃ俺に届かないぞ!」
あっさりと弾かれて態勢を崩される。
「ぐっ!」
後ろに下がろうとした瞬間、大剣を地面に突き刺して手を俺の方に突き出している奴の姿が!
「火よ、我が敵を貫け、火矢」
矢の形をした火が何本も俺に向かってくる!
持っている剣で弾くが弾き切れない矢が右肩に突き刺さり俺の肉を焼く!
左足の太ももに矢が掠るがこちらはそこまで問題ではない。
「うっ…」
右肩を見ると、肌が焼き爛れて血が出ている。
「苦しいし痛いだろ?さっさと俺の力を受け取れよ」
「俺はその力はいらない」
「はっ!もうボロボロなのにまだ強がるのか?」
奴が俺の有り様を見てそう言う。
「まだ戦える!」
俺がそう言って剣を握り直した瞬間、奴は大剣を横に薙ぎ払ってくる!
剣で受け止めようとしたが重い一撃に俺は吹っ飛ばされる!
吹っ飛ばされた俺は地面に倒れる。
いつの間にか俺のすぐ側に来ていた奴が俺の右肩の傷を踏み付けてくる!
「うっ!ぐうぅ…」
俺を踏み付けてくる奴が大剣を俺の腹に向けてくる。
「最後のチャンスだ。俺を受け入れろ」
「嫌だ」
奴の問いに俺は奴の言葉に被せる勢いで断る。
その瞬間、俺の腹に大剣が突き刺さる!
腹に刺さる異物感に激痛!
だがその瞬間、俺は握っている剣を奴の腹に刺した。
「な、何で…動けるんだ?」
そう言って大剣を俺の腹から抜き、手を離して自分の腹を押さえている。
少しずつだが俺から離れている。
俺は立ち上がると腹には激痛が走る。
「これぐらい…我慢しないとな」
立ち上がった俺はそう呟いて剣を握る。
その瞬間、俺が見えている光景に変化があった。
俺が見えているのは見えているモノ全てが全体的に淡く光っている。
だが奴が手を前に出した瞬間、奴の手の周りだけ淡く光っていたのが赤く激しく輝く!
「荒ぶる炎よ、焼き尽くせ、炎珠!」
詠唱をした瞬間、バランスボールよりも大きい炎の塊が出現し、俺の方に向かってくる。
リーシャが使っていた魔法を奴が使う。
リーシャが使った魔法より威力は無いな。
俺はそう思いながら、剣を握った。
今なら、あの魔法をどうにか出来る気がする。
そして、俺は駆ける!
腹が激痛で苦しいが、ここで負けられない!
『シュウ!』
声が聞こえた。
何故かとても久しぶりな声だ。
安心できる優しい声。
聞きたかった声。
既に俺の目の前まで迫っている炎の塊を見て、俺は剣を横に薙ぎ払う!
すると、炎が剣に当たる。
炎なのに感触があり、俺はそれを更に剣で横にずらす様に剣を当てると炎の塊が俺には当たらず、横にズレて掻き消える。
魔法が掻き消えるのを確認して俺は奴の元へ走る!
「なっ!炎珠を!」
そして、俺は奴の目の前まで行き肘から先がない右腕を上げる。
そこには必ず、彼女がいてくれる!
そう思った瞬間、そこにいるのが当然と思ってしまう綺麗な銀色の右腕がいた。
俺は拳を握り、思いっきり奴を殴る!
瞬間、奴の体が弾け飛ぶ!
「がっ…な、何故…ここに!」
頭が残っている奴が、俺の右腕を凝視している。
俺は驚愕している奴に向かって、
「俺とリーシャは人生のパートナーなんだよ。一緒にいるのは当然だよ」
そう言う。
すると、奴は
「俺の力があれば良かったと後悔するんだな」
そう言って消滅する。
俺は奴が消滅するのを見た後、崩れ落ちる。
うつ伏せに倒れて目を閉じる。
腹や右肩の傷がズキズキと痛む。
これで良かったのだろうか?
何が正解で、何が外れなのか分からない。
でも今は…。
リーシャに会いたい。
後、アルにも。
そう考えながら、俺は眠るように意識を手放した。
そして、目が覚めると辺りは暗く夜だった。
俺は仰向けにされており、夜空が見える。
俺はゆっくりと起き上がると、腹の傷も右肩の傷も最初から無かった様に痛みも跡形も無い。
あれは夢だったから傷なんて付かないよな。
そう思って立ち上がると、俺の横になっていた場所が真っ赤に染まっていた。
俺は何も見てない…。
そう思って、近くに張ってあるテントに近づき中を見ると、リーシャとアルの2人が眠っていた。
アルはぐっすりと眠っているのか寝息が微かに聞こえる。
だが、リーシャは少し顔をしかめながら眠っている。
俺はゆっくりとリーシャの傍まで歩き、彼女の隣に座り彼女の髪を撫で、頬も撫でる。
すると、顔をしかめていたリーシャの顔が穏やかな寝顔になる。
その様子を見ているうちに、俺はさっきまで眠っていたにも関わらず眠くなってしまいリーシャの隣に横になり眠ってしまった。
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