実力
俺は今、ベッドの中にいる。
あれから、リザベルトさんに説明をしてもらった。
簡単に言うと、人間がこの村で好き勝手に動かれたら困るから監視役として、実力があるリザベルトさんとエルネットさんが俺の監視することになり、あの小屋では生活できないから2人の家に俺が来たという事になる。
美人親子に監視されるとか気まずくて仕方がない…。
何故なら、
「殺して……やる」
「グス…ディデリク…」
俺とベッドは違うが2人も同じ部屋で寝ているのだ。
エルネットさんの寝言はどんな夢を見ているか気になるけど怖い…。
リザベルトさんは、どうやら嫌な夢でも見ているのだろう…。
そうだよな、旦那さんが殺されたんだ…、辛くない訳がない。
『もうこんな想いをさせる訳にはいかないわね』
『そうだね…。リーシャは良いの?』
『何が?』
『正直、リーシャは勇者だから人を殺す事はしたくないんじゃないかと思って』
『悪事を行った人を野放しにする方が私は嫌よ』
リーシャはそう言う。
俺は…。
そう思いながら、俺は眠気に負けて寝てしまったようだ。
翌朝、エルネットさんが蹴り飛ばして俺を起こしてくれた。
リザベルトさんは、どうやら先に出てしまったようだ。
村の皆と話し合いになったそうで俺の簡単な作戦が採用されれば良いなと思う。
俺は今、エルフの森の地形を覚えているところだ。
監視でエルネットさんも一緒にいる。
「この木は傷つけちゃいけないのかな?」
「特にそういうのはない。木を切って家具とか作るから」
「そうか。ちなみに結界はどんな効果なの?」
「村には辿り着けなくなる。来た道を戻らないと森から出れなくなる」
エルネットさんが答えてくれたことで更に俺の作戦は成功しやすくなる。
俺が16人のエルフをすぐに助ければ敵は村に辿り着けなくなる。
そうすれば向こうは引き返すはずだ。
『シュウ、もしかしたら森に火を放つかもしれないわよ』
リーシャに言われて気づく。
その可能性もある…。
その問題はどうしよう…。
「エルネットさん、戦えないエルフはどうするんですか?」
「村の何ヶ所かに分けて隠れさせるつもりだと思う。前もそうだった」
「前?」
「前村長が戦った時」
エルネットさんが辛そうな顔をする。
やってしまった…、この話題は止めとこう。
「ごめん、無理に話さなくていいから」
俺はそう言って彼女から視線を逸らす。
誰にだって見られたくない顔がある。
それから、俺とエルネットさんは村に戻った。
村に戻ると、リザベルトさんがこちらに気づき俺達の方へ来る。
後ろには村の人達も付いて来た。
「今良いかしら?」
「どうしたんですか?」
「実は君の案は問題なく皆それで良い事になったんだけれど、皆が君の実力がそこまであるようには見えないって話になって…」
否定できない…。
俺の自信だってリーシャがいなければ成り立たないし…。
「それで俺はどうすれば良いんですか?」
「私と闘いましょう?」
「リザベルトさんと?」
「そう。今は私がこの村で最も強いの。だから私と闘って実力を見せてもらうことになったわ」
「わかりました」
「じゃあ、移動しましょう」
リザベルトさんと村の人達に付いて歩き出す。
『リーシャ、相談しないで勝手に決めちゃってごめん』
『頑張るわよシュウ!』
リーシャがやる気満々だ。
『どうしたの?』
『このふざけたエルフ達にシュウの実力を見せつけるのよ!』
『俺の実力は全然だけどね…』
『私とシュウ実力を見せつけるってことね!』
リーシャと話しながら歩いているうちに、開けた場所に着いた。
着いた途端、俺とリザベルトさん以外が端の方へ歩いていく。
「じゃあ、始めるわよ」
「はい」
そう言うと、リザベルトさんの周りに赤、青、緑の精霊が飛んでいる。
俺は今回は殺す事をするつもりはないので剣は出さない。
『加速』
体が軽くなる。
更に、
『旋風、飛空翔』
リーシャが俺の知らない魔法を使っている。
すると、背中を押されている感じに体が押し出される。
『リーシャ?これはどういうこと?』
『前に見たシュウの妹さんがやっていた加速魔法と風魔法の同時使用で速度をあげたわよ。追加で飛行魔法も使ったわ』
『使いこなせるかな?』
『私も助けるから大丈夫よ』
リーシャに言われて俺も覚悟を決める。
「魔法を使ったの?」
「はい」
「詠唱していなかったのに…。準備は良いかしら?」
「大丈夫です」
「じゃあ、始め!」
リザベルトさんがそう言って、精霊術を使い始める。
「凍れ、数多なる氷の槍よ、我が敵を貫け!」
その瞬間、鋭い氷が何本も俺に向かって飛んでくる!
『シュウ、上に!』
リーシャに言われてジャンプをすると、一瞬でエルフの森の木の上の方まで飛んでいた。
そして、落ちると思ったら、まるでそこに地面があるように空中を踏みしめた。
現在俺は空中で立っている状態なのだ。
下を見ると、俺が立っていた場所には何本もの氷の槍が刺さっている。
更に、エルフ達も突然消えた俺を探してキョロキョロしている。
『これが飛行魔法?』
『初級の飛行魔法よ。高位の飛行魔法は完全に空を飛べるようになるわ!慣れないと酔っちゃうけど…』
リーシャが嫌そうに声を出す。
リーシャも酔ったって事だろう。
すると、リザベルトさんが空中にいる俺を見つける。
「何で空中に!?」
大声を出して言っているから俺の方まで聞こえてくる。
リザベルトさんの声に反応してエルフ達も空中にいる俺を見る。
何やら騒いでいるようだが俺の方までは聞こえてこない。
「風の精よ、荒れ狂い風を起こせ、我が敵を切り刻め」
前にエルネットさんが使った精霊術だ。
だが、風の刃は数が多く大きい。
これ、殺しに来てないかな?
俺は右腕を振り、斬撃を飛ばして風の刃を打ち消す。
リザベルトさんが驚いているのか口を開けて固まっている。
『リーシャ、リザベルトさんを動けなくする魔法はある?』
『雷魔法でできるけど相手に触れないと無理だと思うわ。ここから使ったら下手したら一発で殺しちゃうし』
じゃあ、リザベルトさんに近づこう。
今、リザベルトさんは呆然としていて隙だらけだ。
俺はそう思い、足に力を入れて走りだした瞬間、
『シュウ!?それじゃあ地面に激突し…』
リーシャの言葉通りになった。
下に向かって走った瞬間、リザベルトさんが目の前にいて、俺は体を自ら地面に叩きつけてしまった。
『癒しよ』
リーシャの声が聞こえて体の痛みが無くなる。
意外に思いっきり走ってしまったようで、凄い衝撃だったのか周りは砂ぼこりが舞っている。
そう言えば、リザベルトさんは?
そう思いながら体を起こそうとした瞬間、
ムニュっとした感触が左手にあった。
も、もしかして…。
そう思って手を見ると、そこにはリザベルトさんの慎ましやかな胸が…。
『シュウ!何触ってるの!私だってまだ触ってもらった事ないのに!不公平よ!』
これは不公平というより不幸な事故なんだよリーシャ…。
「ん…何が…」
最悪な事にリザベルトさんが目を覚ましてしまった…。
俺と目が合い、更に視線は下へ。
「きゃぁぁぁっ!!!」
リザベルトさんの悲鳴がエルフの森に響き渡った…。
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