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初代勇者を腕に  作者: 雪羅
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番外編 ヴェロニア編 生きがい

俺とヴェロニアさんの前に堂々と立っている女性は、怒りを表情に現してヴェロニアさんの事を指差している。

まさか、このお嬢様的な人がさっき話していた魔導具の設計図を盗んだ人なのか?

俺がそう思っていると、


「久しぶりだねジョエット。よくうちの前に顔を出せたもんだ」


ヴェロニアさんが一歩前に出て、目の前の女性にそう言う。

すると、


「当たり前ですわ!何故わたくしが貴女如きに隠れないといけませんの?」


女性は自分が悪い事をしたという気持ちが無いのか、ヴェロニアさんに突っかかる。

そんな女性の態度と言葉にヴェロニアさんは、


「ハァ…。昔から変わらないね君は…」


呆れた様子で首を振りながらそう言う。

…昔からこんな感じだったのか。

俺がそう思って女性を見ると、彼女の視線が俺に移り、


「そこの男性は、どちら様ですの?」


俺になのかヴェロニアさんになのか、どっちに質問しているのか分からない言葉を発する。

すると、


「少年はうちの家主…と言った所かな?」


ヴェロニアさんが俺の事をチラッと見て、女性の質問にそう答える。

するとヴェロニアさんの言葉を聞いた女性がショックを受けた様な顔をして、


「あ、あ…ああああなたたたが、結婚をしたという事ですの!?」


そこまで驚かなくても良い様な事を言う。

そんな様子にヴェロニアさんは苦笑しながら、


「そういう訳ではないよ。単に居候させてもらっている関係さ」


女性の言葉にそう返答する。

すると、ヴェロニアさんの発言を聞いた女性が安心した様なホッとした表情をして、


「良かったですわ。わたくしがまだ婚姻関係を結んでいないというのに、貴女に先を越されたら女として生きていけないですもの」


そんな失礼な事を言い出した。

俺はその言葉に少しムッと思いながらも、俺が口を出したらもっと余計に言い合いになりそうだと察し、ヴェロニアさんの方を見る。


「そこまで君に言われるとは思わなかったよ。うちが君に対して何かした訳ではないだろう?」


ヴェロニアさんは特に怒っていないのか、苦笑しながら女性にそう言うと、


「研究一筋の貴女に女として負けたら、わたくしは立ち直れませんわ!」


女性はそう言ってズンズンと大股でこちらにやって来ると、


「研究者としても、わたくしは悔しいですけど劣っていると思っていますわ。ですから、せめて女としては負けたくないですわ!」


ヴェロニアさんの鼻先に指をビシッと伸ばす。

すると、


「なら、せめて水浴びか湯浴みをする事だね。…女性として、流石に恰好がいけないと思うけど?」


ヴェロニアさんがそう言って、右手の人差し指で鼻先の女性の指を押し返す。

確かに、服は破けているし体も汚れている。

すると、


「こ、これは貴女の作った魔導具の所為でわたくしの魔導具が売れなくなって破産したんですわ!どんなに試行錯誤をしても、貴女の世に発表した魔導具より高性能の物が作れなくて、材料費が払えなくなったんですわ!」


女性は少し涙目になりながらも、そう言って腕を組む。

そんな事を言い返されたヴェロニアさんは、一度ため息を吐いてから、


「元はと言えばジョエット、君があの時設計図を独り占めにしなければ大儲けは出来なくとも、安定して贅沢な暮らしが出来たというのに…」


まるで面倒くさそうに、首を振りながらそう言う。

ヴェロニアさんのその言葉を聞いて、俺は少し疑問に思う事がある。

彼女が俺と出会った時、あまりお金を持っている様には見えなかった。

今も、大金を持っている様には見えない。

たまに会った時も、お金が無いと嘆いていた時があった。

でも今のヴェロニアさんの言葉を聞く限り、良い魔導具を作ればお金が稼げる感じだ。

どういう事なのだろう?

俺がそう思っていると、


「そ、それは…」


ヴェロニアさんの言葉に、言葉が詰まる女性。


「うちは別にジョエット、君が憎いからあんな事をした訳では無い。うちにとって君は、同業者程度にしか思っていない。うちはただ、より良い物を作るために日々考えて、実現の可能にしただけなんだ。君が持っていた設計図を、君が更に良い方向に手を加えていれば、今の様にはなっていなかったよ」


言葉に詰まって固まっている女性に、ヴェロニアさんは更に続ける。


「それと、うちは君を憎んではいないと言ったが…気に入ってはいないよ。理由は設計図を盗まれたからじゃない。君が魔導具をただの金儲けの道具としてしか見ていない事が、うちは気に入らない」


ヴェロニアさんのその言葉は、普段サッパリとしたヴェロニアさんからは想像も出来ない程、怒りの感情を孕んでいた。

すると、そんなヴェロニアさんの様子を見た女性が一歩後ろに下がり、


「あ、貴女とわたくしは違いますわ!貴女の様にただ無欲に魔導具を作り続ける事なんて、人生の無駄遣いですわ!」


まるで威嚇をする様に、警戒するような姿勢でヴェロニアさんにそう言う女性。

すると、女性の言葉を聞いたヴェロニアさんはため息を吐いて、


「なら、もううちに関わらないでくれ。互いの意見が合わないのなら、これ以上の会話は無駄でしかない」


そう言うと、シッシと手を振るう。

女性はヴェロニアさんのその仕草を見て口を固く結ぶと、黙って振り返って歩き去ってしまった。

彼女の後ろ姿が人混みで見えなくなると、


「ハァ~~…久しぶりに話したが、相変わらず態度が大きいな彼女は」


ヴェロニアさんは先程のため息よりも更に大きく息を吐いて、少し呆れた様にそう言うと、


「すまなかったね少年。面倒な事に巻き込んでしまって」


俺の事を見て謝罪をしてくる。


「いえ、俺は話には参加していた訳では無いですから」


俺がヴェロニアさんにそう言うと、


「じゃあ、邪魔があったけど行こうか」


そう言って歩き出す。

俺は彼女の隣を陣取って歩き、


「ヴェロニアさん、聞いても良いですか?」


隣を歩くヴェロニアさんにそう声を掛ける。

すると、ヴェロニアさんは前を見たまま、


「どうぞ」


そう言ってくれる。


「ありがとうございます。ヴェロニアさんは、何故魔導具を作ってもあまりお金を持っていないんですか?」


俺がそう聞くと、ヴェロニアさんは特に何も気にした様子も見せないで、


「お金が欲しくて魔導具を売りたい訳では無いんだよ。勿論、最低限の材料費とか生活費は貰うけど、それ以上は望んでいない。うちが魔導具を作る理由は、それが生きがいなんだ。楽しくて楽しくて仕方がない。困難にぶつかって製作が辛くなっても楽しいし、他の職人がうちの作った魔導具よりも良い物を作ったら負けるものかと燃えて、更にやる気が出てくる。まぁ、この考えを理解してくれる人は少ないと思うがね」


そう言って、俺に苦笑いを向けてくる。

俺はそんなヴェロニアさんに、


「そこまで何かに熱意を捧げるって、凄い事だと思います。俺もヴェロニアさんの様に、損得を考えない程熱意を向けるモノが見つかると良いなって思いました」


そう言うと、ヴェロニアさんは苦笑いから意地悪な笑み向けて、


「そんなの少年もあるじゃないか。……損得を考えない関係、うちと少年だね」


そう言って笑うと、ヴェロニアさんは少し早歩きをしだして俺の方に振り返り、


「これからもよろしく頼むよ。ダンナ君」


そう言った。


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