番外編 カーヤ編 居場所
カーヤさんの言葉に、俺は何も言う事が出来なかった。
家を追い出すと言うのは、この屋敷の事を言っているのだろうか?
俺が混乱していると、
「…昔から、淫魔の催淫の所為で借りていた宿や家を追い出される事が多かったんです。睡眠時の無意識の催淫が、周りの家の住人に影響を及ぼしてしまっていて。家と家の距離が近い所為なんですけどね。だから、周りに家がない所に寝たりしていたんです」
カーヤさんが当たり前の事を言う様にそう言ってきた。
その言葉に俺は、
「カーヤさん、貴女をこの屋敷から追い出す事は無いです。だから、安心して私物を増やして下さい。幸いな事にこの屋敷、屋敷の建物も広いですし庭も広いです。ですので、カーヤさんの睡眠時の無意識の催淫も近隣の人達に影響はないですから」
今の状況は、カーヤさんにとって最適な居場所のはずだと伝える。
すると、
「…とりあえず座りましょう」
カーヤさんがそう言って椅子に座ってしまう…。
俺は床に座ろうかな。
俺がそう思って膝を曲げると、
「貴方はベッドに座って下さい」
カーヤさんが俺にそう言ってくる。
だが、流石に部屋の主を差し置いて自分がベッドに座るのはどうなのだろう。
俺がそう思っていると、
「椅子は渡しませんよ。大人しくベッドに座って下さい」
カーヤさんが更に俺をベッドへ促してくる。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。失礼します」
俺がそう言ってベッドに座ると、柔らかい布団が沈んでベッドからギシッと音が鳴る。
…この音に何故かドキッとする。
まさか、カーヤさんの催淫が残っているのか?
俺がそう思っていると、
「それで先程の続きですが、本当に皆さんに私の睡眠時の催淫が効いていないと思いますか?」
カーヤさんが俺にそう聞いてくる。
その言葉に俺は、
「はい。俺もそうですけど、皆も異変を感じたとは聞いた事がないです」
そう答えると、カーヤさんが少し息を吐いてから、
「貴方が想像しているより、淫魔である私の無意識の催淫の効果は凄まじいです。例えば、夜の営みが激しく濃密になったり、夢がエッチなモノになったりします」
俺にそう教えてくれる。
…教えてくれたのは嬉しいし感謝しているが、夜の営みでは常に濃密と言っても過言ではない…と思う。
もしかして、皆無意識に催淫されているのだろうか?
それに、夢と言われても覚えているのは微かな時間で、すぐに忘れてしまうから何とも言えない…。
正直、俺には全く害がないのだ。
俺がそう思っていると、
「貴方は元々催淫の効果が薄いようですので、参考にはならないかと思いますよ」
カーヤさんがそう言ってくる。
た、確かにそうだな。
普段からカーヤさんに催淫の効果が薄いと、催淫を仕掛けてきたが最悪の事態にはなっていない。
カーヤさんの言う通り、他の皆は催淫に悩んでいたりするんだろうか?
いや、皆凄いからな…。
むしろ、カーヤさんの催淫を利用しようとする人がいてもおかしくない。
今までカーヤさんにお願いしていたとしても、やっぱり…と反応してしまう人が何人か想像できてしまう。
俺がそう思っていると、
「それに、性に関してまだ知らなくても良い人もいます」
カーヤさんがそう言う。
確かに、ルネリアにはまだ早い気がする。
「でも、ルネリアが催淫の効果でエッチな夢を見ている感じは、無いですよね」
俺が普段の寝起きのルネリアを事を思い出してそう言うと、
「…確かにそうですね。ルネリアさんの事です。そういう類の夢を見たら、何かしらの反応があってもおかしくはないですね」
カーヤさんも俺の言葉に頷いてくれる。
すると、
「…貴方は私がいても、迷惑では無いのですか?」
カーヤさんが俺にそう聞いてきた。
俺はその言葉に、
「迷惑じゃないですよ。カーヤさんがいてくれたおかげで料理の幅が増えたリ、カーヤさん達の世界の常識も教えて貰って助かっています」
と、少し食い気味に答える。
すると、俺の言葉を聞いたカーヤさんが苦笑をして、
「常識なんて、ヨハナさんやアウレーテさんでも知っている事ですよ」
そう言ってくる。
だが、
「ヨハナさん達の常識とカーヤさんの常識は少し違いますよ。多分、ヨハナさん達の方は少し村での常識と混ざっているんじゃないかって考えています」
俺はカーヤさんと彼女達の世界の常識の話をした時と、ヨハナさんと向こうの世界の常識の話をした時に思った事をカーヤさんに伝える。
すると、
「なるほど、確かにそれはあり得ますね。他にも、他属性の魔法使いが治めている村などでは、様々な決まりがあるらしいですね。前に受付をしている時に、そういう事を職場の知り合いと話した覚えがあります」
カーヤさんがそう教えてくれる。
「なるほど、その話も今度ゆっくりと聞きたいですけど…。やっぱり、カーヤさんはここにいて迷惑なんかじゃないですよ」
俺がそう言うと、カーヤさんは少し目を閉じて何かを考える様な素振りを見せる。
何を考えているのだろう?
俺がそう思って黙ってカーヤさんを見つめていると、彼女はゆっくりと閉じていた瞳を開けて、
「シュウさん、ここが私の居場所だと…。本当にそう思って良いのですか?」
そう聞いてきた。
居場所…か‥。
淫魔としての体質の所為でカーヤさんは自分の家すらも追い出されて、周りには何もないボロボロの小屋で過ごしていた。
カーヤさんにとって、自分がいて良い居場所なんてあそこだけだったのだろう。
俺は俺の事を見つめてくるカーヤさんの潤んだ瞳を見つめ返して、
「当たり前じゃないですか。もうカーヤさんはうちの家族なんですから。カーヤさんがこれからもずっと帰って来るのはこの屋敷です。誰かに迷惑を掛ける訳でも無く、それに対して誰かが文句を言ってくる事も無い。ここがカーヤさんの居場所であり、カーヤさんが帰って来る家です。だから、そんな寂しい事言わないで下さい」
そう静かに話す。
俺の言葉が嘘偽りない本心である事が、カーヤさんに伝わる様に…。
すると、
「……ありがとうございます。そこまで言って下さって、本当に嬉しいです」
カーヤさんがそう言って頭を下げる。
それと同時に、雫が床を濡らす…。
俺はベッドから立ち上がってカーヤさんの元に行き、静かに肩を震わすカーヤさんの背中を擦る。
もう大丈夫だと、安心して貰える様に。
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