解放
男達が切り刻まれていく中、1人だけ風の刃を武器で防いでいる男がいる。
それは、こん棒のような武器を持っているリーダーの様な男だ。
「ちきしょ~!よくもやってくれたな!」
攻撃が止み、男は自身の周りの惨状を見て大声を出し、叫ぶ。
だが、それでも引こうとはしていない。
仲間を殺されて怒っているのかそれとも勝てる自信があるのか。
「このエルフがどうなっても良いのか~?どうやら知り合いみたいじゃないか?」
男はエルフを人質にした。
左腕でエルフの子の首を押さえ自身の前で押さえつける。
エルフの子を盾にしているようだ。
「…チッ」
後ろから舌打ちが聞こえる。
つまり、この状況になることを想定していなかったのだろう。
「エルネット様!私のことは気にせずに行って下さい!うっ!」
人質にされているエルフの子が叫ぶ。
が、男に首を絞められて苦しそうになっている。
「そんな事しない!エミリシーも村の皆も必ず守ってみせるから!」
後ろから聞こえる声には後悔が混ざっているのか悲しげな声だ。
「うるせぇ!おいお前!殺されたくなかったらその奴隷を俺に寄越しな」
男は俺に向かって大声で命令してくる。
『リーシャ、俺に加速魔法をして欲しい』
『良いわよ。加速』
体が軽くなるのを感じる。
男との距離は10メートル程、この程度の距離なら一瞬で縮められる。
そう思い、体を前に傾けて走る!
「!?」
男は俺に一瞬で間合いに入られて声も出せないで驚いている。
人質のエルフの子も目を見開いている。
俺は男の隙を見逃さず、男の右脇腹に剣を刺す。
「ぐあぁ!」
男が痛みで声を出し、エルフの子を押さえていた左手で自身の脇腹の傷に触れる。
男がエルフの子を離した隙に、彼女を抱えて一旦距離を取る。
彼女を放すとエルフの子は、未だに何が起きたのかわからないのか呆然としている。
だが、
「エミリシー!大丈夫?怪我はない?」
と、ハイエルフのエルネットさんが声をかける。
すると、
「エルネット様…エルネット様!!」
「エミリシー!エミ!」
ようやく現状を認識したのか彼女は泣きながらエルネットさんに抱き付く。
感動の再会なのだろう、お互いに抱きしめ合い泣いている。
「ぐ…うぅ…。よくも舐めた事してくれたなぁ!」
そんな中、男の怒号が響き渡る。
彼女たちも声に反応して感動の涙が止まる。
凄い良い雰囲気を壊しやがって…。
「ぶち殺してやる!」
男を見ると、大声を出して傷口が広がったのか俺が刺した時よりも血が服に滲んでいる。
俺は剣をしまう。
「?…へへっ、良い覚悟だ」
俺の行動に何を誤解したのか笑いながらゆっくりと近づいてくる。
「俺にはあなたを殺す気はないですよ」
俺がそう言うと、男は
「俺にはお前を殺す理由があるんだよ!!」
怒鳴りながら言ってくる。
「その理由は?」
「テメェが俺達に歯向かって仲間を殺しやがったんだ!!それだけじゃねぇ!エルフ共を捕まえて奴隷商に売れば一生遊んで暮らせるんだ!それを邪魔しやがって!そのエルフは俺の物だ!!一生こき使って棄ててやるつもりだったんだ!!返しやがれ!!」
「なら…」
俺はそう言って左にずれる。
「あぁ??」
男は呆けた顔をする。
何故なら、既に彼女達は精霊術の準備を整えていたからだ。
男には自分の怒鳴り声で彼女達の詠唱が聞こえていなかったようだが。
「ま、待て!もう金輪際エルフには手を出さない!だから、ゆ…」
命乞いの途中で男は首を刎ねられた…。
俺には殺す気が無くとも、あんたに虐げられていたエルフの子と、その友人はあんたを殺したかったんだよ。
そう思いながら俺は彼女達を見ると、2人は本当の意味で解放されたことに喜んでいるのだろう、大泣きをしながら抱きしめ合っていた。
それから、2人が落ち着くまで待ったのだが…。
「何を要求するつもり?」
「…」
2人に睨まれていた。
えぇ~…。
あんなに頑張ったのにこんな扱いなの…。
よく見ると、エルフの子にはまだ奴隷の鎖が付いている。
ハイエルフの子にもだ。
『外すの忘れてたわ』
『俺もすっかり忘れてたよ。お願いできるかな』
『任せて!彼女達の鎖と首輪にちょっとで良いから触れてくれれば大丈夫よ』
リーシャに言われて彼女達に近づくと、
「殺す!」
「ひぃ!」
俺も号泣しそう…。
「ちょっと鎖と首輪に触るだけだから信じて…」
俺がそう言うと、彼女達は少しだけ大人しくなってくれた。
まずは、ハイエルフの子の首輪に触れる。
「変な事したら殺す…」
「しないから」
俺がそう言うと、
『解呪』
リーシャの魔法で首輪が外れる。
2人共、驚いている。
「次は君だよ」
俺はそう言って未だに俺に怯えているエルフの子の鎖に触れる。
『解呪』
もう一度リーシャが魔法を使い、鎖は彼女の体から離れる。
『ありがとうリーシャ』
俺はリーシャにお礼を言って2人に本題を話始める。
「2人にエルフの村に連れていって欲しいんだ」
「人間をエルフの村に案内すると思ってるの?」
「君は知らないかもしれないけど、手紙を預かってるんだ」
俺は腰に着けているポーチからフェリアンさんから預かった手紙を渡す。
ハイエルフの子が受け取り、中身を確認している。
「フェリアン様の印!」
フェリアンさんは結構有名なのかな?
2人が手紙を読む姿を見て、そう思う。
「事情はわかった。仕方ないから付いて来て。ただし、余計なことしないで」
そう言って2人が森に入っていく。
俺も2人に付いて行き、森に入る。
森の中はとても静かだ。
「魔物もいなそうだ」
そう呟くと、前を歩いている2人が俺をチラリと見るが、話しかけてはこないようだ…。
気まずいな~…。
エルフの人達は人間を凄い嫌いなんだな…。
当然か、あんなことしてるんだもんな。
そうして、木の葉が風で揺れる音と3人の足音だけが森の中で聞こえていた。
そして遂に、目的のエルフの村に到着した。
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