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初代勇者を腕に  作者: 雪羅
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番外編 ヨハナ編 素直

俺の部屋にこのままいるという事で、俺は一度部屋を出てお茶と怜華さんが貰い物だと言って持って来てくれたクッキーを持って部屋に戻る。

そして扉のドアノブに触れた瞬間、


「…大丈夫。……緊張…ないで……落ち着い‥…話せば……。素直に……」


扉の向こうからヨハナさんの声が聞こえる。

と言っても、あまり何を言っているのかは分からなかった。

緊張とかは聞こえたが、どういう事なんだろう?

俺はそう思いつつ、部屋の扉を開けて中に入る。

扉を開けると、少し顔が強張っているヨハナさんが、


「あ、ありがとうシュウ。何か…手伝う事ある?」


俺にそう聞いてきた。

…明らかに緊張している様に見える。

さっきの緊張という言葉は、こういう事なのかな?

俺はそう思いつつ、


「いえ、大丈夫ですよ。特に何かを準備する訳でも無いですから」


立ち上がってアワアワしているヨハナさんにそう言う。

何だろう、本当に今日のヨハナさんはいつもより優しいというか、柔らかい雰囲気がある。

俺がそう思ってお茶を淹れていると、


「あ、このお茶…」


ヨハナさんがお茶の香りに気づいて声を出す。


「分かりました?これ、ヨハナさん達の世界のお茶なんですよ。ヨハナさんが落ち着けるかと思って、持って来ました。持って来たと言っても、ヨハナさん達が食堂に持って来ていたのをお借りしただけなんですけどね…」


俺がそう言って淹れ終わったお茶を、ヨハナさんに差し出す。

俺からお茶を受け取ったヨハナさんは、お茶を少し口に含んで飲むと、


「ふぅ…」


少しだけ小さく息を吐いた。

これで少しでも落ち着けたら良いが…。

そう言えば、何でヨハナさんはここまで気を張っているのだろう?

いつもなら普通に話したりしているし、今の状況と特に変わった事は無いと思うのだが…。

俺がそう思いながらヨハナさんの事を見ていると、


「えっと、わざわざ私の為にありがとう」


ぎこちない感じで俺にお礼を言ってくる。


「いえいえ、そんな畏まらないで下さい」


俺がヨハナさんのお礼にそう返事をすると、ヨハナさんがキッと真剣な顔をして、


「シュウ、私の事をどう思ってるのか聞いても良い?」


俺にそう聞いてきた。

本当に、突然どうしたのだろうか?

俺はそう思いながら、


「ルネリアの事を凄く気に掛けていて、良い人だと思っていますよ。ルネリアの事だけでも無く、他の人の事もよく見ていて、誰かが困っていたら助けてくれるじゃないですか。気配りも凄くしてくれて、俺も助けて貰ったりしてありがたいです」


ヨハナさんにそう伝える。

彼女は周りの事をよく見ていて、少しでも困っているとすぐに声を掛けてくれる。

おそらく、凄い気を配って周りを見ているのだろう。

俺はそう考えながら、


「いつも、ありがとうございます」


改めてしっかりとヨハナさんにお礼を言う。

すると、


「……私はそんなに良い人じゃないわ」


ヨハナさんのそんな言葉に、俺は下げていた頭を上げてヨハナさんの事を見る。

そこには、自嘲的な笑みを浮かべているヨハナさん。

謙遜…という訳ではなさそうだ。

俺がそう思っていると、


「シュウ、私は貴方がそこまで言う程良い人じゃないの。…貴方だって知っているでしょ?」


ヨハナさんがそう言ってきた。

…俺が知っているって、何の事だ?

俺がそう思っていると、


「…貴方の事を信用しないで、あんな最低な人を…信用してしまって、私達を救ってくれた貴方に最悪な言葉を言った私が、良い人な訳ないわ」


ヨハナさんがそう言ってきた。


「あれはまだ俺と出会ってそんなに時間が経っていなかったんですよ。そんな浅い関係で信用しろって方が無理だと思います。…正直、俺はその時何とも考えていなかったですから、ヨハナさんがそこまで気にする必要は無いと思うんですけど」


俺は正直にヨハナさんにそう伝える。

ただ、こうやって少なからず一緒に過ごしてきて彼女がそこまで考えていたかと思うと、今の言葉だけでは彼女の罪悪感を拭う事は出来ないと思う。

彼女は責任感が強い所がある。

おそらく許しの言葉を聞いても、彼女は簡単に自分を許そうとは思わないだろう。

なら、一体どうすれば良いのだろうか?

俺がそう思っていると、


「それでも!…私は貴方に酷い事を言ったわ。…ごめんなさい」


ヨハナさんがそう言って、謝罪の言葉と同時に頭を下げてくる。

本当なら全然気にしていないから、すぐにでも頭を上げて欲しい。

だが、今の彼女に必要な言葉はそれではないだろう。

ただ、これだけは聞いておかないといけない。

俺は頭を下げているヨハナさんを見てそう思い、


「…今まで、周りの人や俺に気を遣ってくれていたんですか?特に、俺に対しては過敏な程手伝いをして下さっていました。…それは、贖罪の意味も…ありましたか?」


彼女に静かに問う。

ここで彼女が罪悪感で俺や他の皆に気を配っていたのなら、いつか彼女は疲れてしまうだろう。

そうなる前に、彼女を少しここから遠ざけた方が良い。

全く交流を絶つ訳では無いが、一週間毎に遊びに来るくらいとか、そんな感じで距離を置いた方が良いかもしれない。

少し冷たい対応かもしれないが、彼女の心労を考えるとその方が良い。

俺がそう考えていると、


「全く無かったとは…言えないわ」


ヨハナさんがそう言う。

だが、


「でも、それだけの気持ちでここにいた訳では無いの。本当に、ふと気づくとシュウや皆が困っている時があるから、声を掛けていただけ…。私に出来る事なら、協力したいと思って…。私は、他の人に比べるとあまり役に立つ事ないから…。手伝える事があったら、手伝いたいと思ってそうしていただけ」


ヨハナさんは続けてそう話す。

…とりあえず、無理をしていた訳では無いのだろう。

ただ、彼女のこの言葉が本当かは俺には判断できない。

…彼女が嘘を言うとは思っていないが、無理をするかもしれないとは余裕で考える事が出来る。

ヨハナさんの心労は、これからのヨハナさんの生活していく時に罪悪感をある程度拭う事が重要である。

ヨハナさんの事だ、どんなに許しの言葉を言っても彼女は自分を責める。

だから、俺が許さなければいいんだ。

俺はヨハナさんを見ながら、少し意地悪な事を考えた。


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