奴隷との契約
エルフの子の物騒な呟きが聞こえて内心ビビりつつ老婆に問う。
「この子はいくらですか?」
人生でこんな事言う事になるとは思わなかった。
「お前さん、このエルフが誰か知ってるかい?」
「エルフの長の娘ぐらいとしか知りませんよ」
「この娘いや、この娘の一族はハイエルフなんだよ」
「ハイエルフ?」
エルフと何が違うんだ?
「この娘の価値がわかったかい?」
「いえ、俺にはよくわからないですが」
「な!」
老婆が驚いている。
『シュウ、ハイエルフっていうのはエルフの中でも希少な種族で、人というよりも精霊などに分類されるの』
『精霊?』
『そう。寿命がなく男女共に美しい姿ををしているの、そして、魔法というより精霊を使役する精霊術というものを使うわ』
つまり、このエルフの子はエルフよりも凄いって事だよね?
「この娘の価値がわからない馬鹿がいるなんてね~」
この婆さん失礼な事言うな…。
「良いからこの子下さい」
早くしたいんだ。
「はいはい。じゃあ、1300万ラティーだよ」
1300万!?
俺の手持ちほぼ全てじゃないか!
「高くないですか?」
「何言ってんだい!これでも安い方だよ!」
仕方ない。
エルフの人達の命が1300万で助かるなら安いもんだ。
「わかりました」
『リーシャ、俺のお金出して』
『わかったわ』
右腕に13枚の王金貨を出してもらう。
それを老婆に渡すと、
「ほう、王金貨かい。お前さん一流の冒険者かい?」
「新人ですよ」
俺がそう言うと、老婆が俺の顔をまじまじと見てからそっぽを向いてしまった。
「まぁいい」
そう言って老婆は牢屋の開ける。
中に入り、エルフの子の鎖を持ってくる。
「この鎖を持ちな」
老婆は俺に鎖を手渡してくる。
俺が鎖を左手で持っていると、鎖が熱くなっていく。
だが、それもあっという間に無くなる。
「これで終わりだよ、鎖は引かなくていいからね」
老婆はそう言って俺から鎖を奪い、再び牢屋の中に入る。
女の子から鎖を取り、彼女に新しく首輪を付けている。
首輪を付け終え、女の子を立たせる。
老婆に連れられてエルフの子が俺の所に来る。
さっきは暗くハッキリと姿は見れなかったが今は彼女の姿がよく見える。
綺麗な金髪に尖った耳、顔も整っているしスタイルもほっそりとしているが足がスラッとしていてカッコ可愛い。
胸は…絶壁。
だが、彼女は整っている顔を歪めて俺を睨みつけている。
俺は何もしてないのに…。
「契約印はあるかい?」
老婆が俺に聞いてくる。
契約印?
『シュウ、多分鎖を持ってた左手にあると思うわ』
リーシャに言われて左手を見ると、手の平に紋様があった。
これかな?
「ちゃんとあるね」
老婆が俺の左手を見て言う。
「契約は終わったよ!さっ!帰りな!」
老婆はそう言って俺の背中を押す。
商売が終わったらさっさと追い出すのか。
俺は老婆に従い小屋から出る。
外にいるのは俺とエルフの子…。
気まずい。
何が気まずいかと言うと、さっきから女の子が
「人間風情が…人間風情が…」
と、聞こえるか聞こえないかの音量で呟かれている罵倒…。
『リーシャ、どうすればいい?』
『とりあえずエルフの森に行きましょう。そこで事情を説明しましょう』
『そうしよう』
リーシャの言う通り、事情を説明すればこの物騒な呟きも無くなるだろう。
そう思い彼女に、
「これから、エルフの森に行くよ」
出来るだけ優しく話すことの心かけながら彼女に話しかけると、
「死ね」
と返されてしまった。
心折れそう…。
そう思いながら俺は歩き出す。
彼女は付いて来てくれるかな?
と思い、後ろを見ると少し離れているがちゃんと付いて来てくれる。
良かった。
そう思いながら町を歩く。
時々、町の男共がエルフの子を見ている。
そんな光景がありながらもヴァランス帝国を出る。
門番の人が俺を見て、イヤらしい顔をする。
俺はエルフを助けるんだよ、そう思いながら歩き続けてふと気づく。
このまま歩いていたら森に着くのは夕方か夜になってしまう。
『リーシャ、森に転移出来る?』
『できるけど、エルフの子も一緒に行くんだから彼女に触れてないといけないのよシュウ』
『そうだった~!』
だが、こんな所で遅くなるわけにはいかない。
俺は意を決して彼女に話しかける。
「あの、ちょっと良い?」
「死ね死ね…何?」
「このまま歩いていたら遅くなっちゃうから少し急ぐんだけど君に触れるよ?」
「何で人なんかに私が触られなくちゃいけないの?」
「その、魔法を使うから」
「…」
彼女は無言で人差し指を出す。
なるほど…、指先に触れってことね。
そう思い、彼女の人差し指の第一関節を摘まむ。
彼女はそれだけでも凄い嫌そうな顔をする。
『転移』
リーシャが魔法を使い、一瞬で森の前まで来た。
彼女は一瞬で周りの景色が変わったことに驚いているのかキョロキョロしている。
彼女は睨んでくる顔よりも素の表情の方がやはり可愛いな。
『…シュウ?』
何でもないです。
リーシャの低い声が聞こえて俺は考えるのを止める。
すると、森から声が聞こえてきた。
森の入口を見ると、前に森に来た時にエルフを狩りに来た男達が森から出てくるところだ。
「ん?同業者か?」
男達の1人が俺とエルフの子を見てそう言ってくる。
「エルネット様!!」
男達の奴隷だと思われるエルフの子が俺の後ろにいる彼女を見て声を出す。
そう言えば、彼女の名前聞いてなかったな。
そんな事を思っていると、
「エミリシー!エミリシーなの!?」
後ろから声が聞こえる。
どうやら知り合いらしい。
「おい!勝手に喋るな!」
エミリシーと呼ばれていた子が男に平手打ちをされていた。
決定、どんなことをしても彼女を助ける。
「俺は同業者じゃありませんよ」
俺は男達に向かって言う。
「あぁ?じゃあ、何でエルフを連れて森に入ろうとしてんだよ?」
「エルフを助けるために」
「あ?どういうことだ?」
俺がそう言うと男達はいきなり喧嘩腰になる。
「言葉通りです。ヴァランス帝国はもう少しでこのエルフの森に侵攻し、エルフの人達を全員奴隷にするって聞きました。それをエルフの人達に教えるためにここに来ました」
「つまり、俺達の邪魔をするって事だよな!」
「そうですね」
俺が男の1人の言葉に頷くと、
「なら、ここで殺さないとな~!」
そう言って男達は剣を出してくる。
リーダーの様な男だけ剣ではなく、こん棒の様な武器だ。
『シュウ、私が…』
『いや、ここは俺がやるよ』
リーシャにそう言って俺は剣を出す。
男達は防具を着けていない。
多分だが、エルフを捕まえるだけなので防具は要らないという事だろう。
「生意気なガキを殺しちまえ~!」
そう言って男達が斬りかかってくる!
が、
「風の精よ、荒れ狂い風を起こせ、我が敵を切り刻め」
後ろから魔法の詠唱が聞こえ、後ろを向くとエルネットさんの周りにふわふわクルクルと飛んでいる緑色の光る物体が。
何あれ?
『シュウ、あれが精霊よ』
リーシャが教えてくれる。
そして、瞬間!
精霊から風の刃が!
『護風壁』
リーシャが魔法を使う。
風の刃がリーシャの魔法とぶつかり消える。
だが、リーシャの魔法は俺だけを護っているので男達は、
「ギャァァ!」
「うわぁぁ!」
「や、止めろ~!」
「あぁぁぁぁ!」
叫び声を上げながら切り刻まれていく。
リーシャが守ってくれなかったら俺も男達と一緒に切り刻まれていただろう…。
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