番外編 リザベルト編 ハイエルフ
リザベルトさんの言葉を聞いて、この精霊はもう…手遅れなのだと悟る。
俺がそう思いながら精霊を見ていると、リザベルトさんは手に乗っている精霊を優しい手つきで撫でる。
彼女の優しい手つきは、とても癒される事を俺は知っている。
少しでも、この精霊が安らかに逝ける様に願う。
俺がそう思いながら黙って見ていると、リザベルトさんの手の中にいた精霊の光が細かな光になって空に飛んで行く。
その光を目で追って上を向くと、エルフの森の大木の葉の間から漏れる陽の光と同化する様に見えて無くなっていく。
幻想的ではあるが、とても悲しい光に見えた。
俺がそう思って空を見ていると、
「精霊はその命が無くなったら、また新しい精霊となるために体が細かく分かれるのよ。そして、またいつか…様々な精霊として生まれてくる。だからシュウ君、これは全てが悲しい訳では無いのよ。またこの世に生まれてくるための、準備に入ったのよ」
リザベルトさんが優しい声でそう言ってくれる。
精霊とは、そうやって誕生していたのか。
なら、あまり悲しんではいられないな。
また、俺が生きている間に会える事を祈ろう。
俺がそう思ってると、
「…昔はね、エルネットは精霊が死んでしまう事を凄く悲しんでいたのよ。どんなに次の命になるとしても、別れてしまう事は悲しい事だって」
リザベルトさんがそう言ってくる。
エルネットは敵と感じた者には冷たく厳しいが、あの人は自分の身内や仲間だと思った人にはとても優しい。
「今のエルネットを見ていれば、納得しますよ。最初会った時は、凄く厳しかったですけどね」
俺がそう言って苦笑すると、
「あら、そんな事を言ったら駄目よ。どこでエルネットが聞いているのか分からないもの。もし聞かれてたら、後でどんな目に合うのか分かってるでしょ?」
リザベルトさんがクスクス笑いながらそう言ってくる。
確かに、エルネットと出会った当時の事を聞かれたら、長い時間弁明されてしまう。
こんな事もあったね…くらいの世間話程度だと思っていたのだが、エルネットからするとそれは過去の自分の馬鹿な行動だと思っているらしく、その話が少しでも出てしまうと、
「あれは人に対して敵対心が強かった時。今はそんな気持ち無いから。成長してるから」
と、エルネットが慌てた様な悲し気な表情でそう言ってくる。
毎回、それはその時に色々あったから仕方がない事だよと言っているのだが、何故かエルネットは更に恐怖に怯えた表情をする…。
どうにかしてあげたいのだが、どうすれば良いのだろう?
俺がそう思っていると、
「ふふ、大丈夫よシュウ君。エルネットのあの態度、冗談が大半だから」
リザベルトさんがそう教えてくれる。
「え?そうなんですか?」
俺がそう言うと、
「えぇ、シュウ君が構ってくれるから、つい嬉しくてやってるのよ。甘え方が下手な娘でごめんね?」
リザベルトさんが俺にそう言ってくる。
…お母様が言っているのだ、本当なのだろう。
俺はそう思いながら、
「いえいえ。そう考えて思い出すと、可愛く感じますね」
リザベルトさんにそう返すと、
「母娘共々、シュウ君には可愛がってもらわないといけないもの」
リザベルトさんが笑顔でそう言ってきた。
「リザベルトさんを可愛がるなんて…。むしろ俺の方が可愛がられている感じがしますよ」
俺がリザベルトさんにそう言うと、彼女は俺の隣に近寄って来て右腕の二の腕部分に抱き付くと、
「たまにだけれど、私だって甘やかすより甘やかされたいと想う時があるのよ?」
頬を俺の肩に擦り付ける様にして、囁いてきた。
俺はその仕草にいつもの大人っぽさとは違う、甘えたがりな新鮮なリザベルトさんにドキッとしつつ、
「今がそうなんですか?」
そう聞く。
すると、
「えぇ。シュウ君の前じゃ私も複雑な気持ちよ?甘えたいと感じる女の気持ちと、甘やかしたいと感じる母性を感じるのだから」
リザベルトさんが俺の頬に指をつんつんと突きながらそう言ってくる。
俺はリザベルトさんの指に突かれながら、リザベルトさんの表情を見る。
微笑みながら、俺の様子を観察している様に見つめる瞳を見つめながら俺は、
「これからも色々なリザベルトさんが見たいです。だから、これからはもっと色んなリザベルトさんを見れるように俺も色々頑張りますよ」
そうリザベルトさんに言うと、左腕を動かして彼女の耳に触れる。
すると、
「ひゃぁッ!」
リザベルトさんの体がビクッと震える。
そして、どんどん顔も赤く染まっていく。
エルフは耳を親しい者にしか触らせないという風習がある。
コリコリした感触と、スベスベで柔らかな肌。
こうやって触るとエルネットは喜ぶんだけど、リザベルトさんはどう触ればいいのだろう?
俺はそう思いながら、更に少し強めにリザベルトさんの耳を摘んで形を変える様に触る。
その度にリザベルトさんが、
「ハ…ぁァ」
「ン…」
「ィッ…」
と、色々な反応をしてくれる。
その様子を見ると、ついもっと過激な事をしたくなってしまう。
俺はそう思い、リザベルトさんの耳に噛みつく。
噛み付くと言っても、唇で耳を挟んでいると言った方が正しいが…。
すると、
「シュ、シュウ君…。流石に外で…しかもここで…」
リザベルトさんが何やら懇願する様な声を出す。
この声は、恥ずかしがっている時の声だな。
リザベルトさんの耳を甘噛みしながらそう思い、
「そうですね。流石に外でする事じゃなかったですし、屋敷に戻りましょうか」
そう言ってリザベルトさんの耳から唇を放す。
すると、
「…ぇ?」
リザベルトさんが呆けた顔で俺の事を見てくる。
顔を見るとまだ赤く染まってはいるが、その呆けた表情がいつも大人の表情をしているリザベルトさんからは想像できない顔になっている。
こんな顔も、出来たんだな。
俺はそう思い、
「これからもっと、リザベルトさんの事を教えて下さいね」
リザベルトさんにそう言うと、
「…コクッ」
リザベルトさんが頷いてくれる。
「じゃあ、とりあえず屋敷に帰りましょうか」
リザベルトさんが頷いたのを確認した俺がそう言って立ち上がろうとした瞬間、
「…駄目よシュウ君」
突然脚が払われて尻餅をついてしまう。
今の体勢じゃ、リザベルトさんが俺の脚を払うなんて出来ないと思うんだが…。
俺がそう思ってリザベルトさんを見ると、彼女の顔の隣に風の精霊が浮いていた。
そして、
「一度燃え上がった炎は、ちゃんと鎮火させてくれないと…。でないと、ほどよい風で更に燃えちゃうわ」
リザベルトさんがそう言って、俺の上に覆い被さってきた。
…調子に乗った俺の自業自得なので、俺は抵抗など出来なかった。
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