番外編 リザベルト編 母性
俺は今、屋敷を出発してサンレアン王国の近くの森に来ている。
それもただの森では無く、エルフ達が住んでいる神聖な森だ。
そんな神聖な森の中で俺は、
「よしよし、シュウ君は良い子ね」
リザベルトさんの膝の上に頭を乗せた、所謂膝枕の状態で頭を撫でられながら甘やかされていた…。
何で俺がリザベルトさんに甘やかされているのかと言うと、それは俺にも分からない…。
2時間前、屋敷でティアと国の事を話していた時に神妙な顔でリザベルトさんが部屋を訪ねてきて、エルフの森へ一緒に来て欲しいとお願いされたのだ。
俺はティアとの話もキリが良いのと、外の空気を吸いたいという事でリザベルトさんのお願いを快く引き受けて屋敷を出発したのだが、俺と一緒に歩いているリザベルトさんは少し無理をしているのか、笑顔を浮かべる時も少し顔が引きつっていたというか、本当に笑っていた顔では無かった。
…何かしてしまったのだろうか?
俺がそんな感じに、リザベルトさんに何かしてしまっただろうかと思い出しながらリザベルトさんの隣を歩いて、エルフの森に移動した。
エルフの森は今や、サンレアン王国の人達も入れるほど友好的な関係になっている。
サンレアン王国の代表としてティア、エルフの森の代表としてリザベルトさんとエルネットが話し合いを進めた結果、サンレアン王国の人達を森に危害を加えないという約束で森に入る事を許可されたのだ。
その結果、エルフの森は一部を除いて人が入る事が出来る。
入る事が出来ないのは、エルフの人達の住まいとエルフでも入れない神聖な場所、そしてこの森を護ってきたご先祖様のお墓。
最初はサンレアン王国の人達も立ち入った事が無いエルフの森に入るのを緊張していたが、入るとエルフの森の神聖な空気と雰囲気に魅了され、今や男女のデートに良いと話されている。
俺が今リザベルトさんがいる場所は、一般の人では立ち入る事が出来ない場所だ。
最初、エルフの森に来た時はリザベルトさんの旦那さんで、エルネットの父のディデリクさんのお墓参りなのかと思った。
確かにリザベルトさんはディデリクさんのお墓参りをしたのだが、それでも顔が浮かばれない。
何か思い詰めているのだろうかと思い、
「リザベルトさん。俺、エルフの人達に比べるとまだまだ子供ですが、話くらいなら聞けますよ」
リザベルトさんにそう言った結果、俺は他のエルフやサンレアン王国の人達が入る事は許されない神聖な森へ連れ込まれて、リザベルトさんの膝に頭を乗せる事になったのだ。
視線の先には、リザベルトさんの綺麗な顔と立派なエルフの森の木々、そしてそんな木々の間から木漏れ日が眩しく感じる。
俺は少し目を細めて、その幻想的な光景を見ているとリザベルトさんが頭を撫でてきたのだ。
何故彼女がここに俺を連れて来たのかも、この体勢になったのかもまだ分からない。
ただ、俺は横になってリザベルトさんに頭を撫でられているだけなのだ。
…しかし、下から見上げて見えるリザベルトさんの表情は、慈しんでいる様な表情の中に影が見える。
…ディデリクさんに、リザベルトさんとエルネットさんの事を頼まれたのだ。
彼女にこんな顔をさせてしまったら、ディデリクさんが心配してしまう。
俺はそう思って、
「…何かあったんですか?」
下からリザベルトさんにそう聞く。
すると、俺の頭を撫でていたリザベルトさんの手が止まる。
リザベルトさんは手を止めると、悲しげな表情で視線を俺から離すと、
「シュウ君、シュウ君は私を軽薄な女だと思うかしら?」
リザベルトさんがそう呟いた。
この距離だから聞こえると言って良い程小さな声で、俺にそう言ってきたのだ。
「…そんな事ないと俺は思っていますよ。何でそんな事を?」
俺がそう質問を返すと、
「私は一度婚姻をしていて、彼との間に子供もいるわ。…それを考えると、周りの皆はシュウ君が初めて好きで良い仲になったのに、それに比べて私は…と少し考えちゃって」
リザベルトさんがそう言う。
その表情は、どこか曇っている笑顔を浮かべている。
俺はその表情を見て、
「どうしたんですかリザベルトさん?いつもの貴女だったら、そんな事言わないと思いますけど…。何かありましたか?」
いつものリザベルトさんなら、そう思っても前向きに考えると思っている。
そんな彼女がここまで気にするのは、何かあったのだろうと考える。
すると、
「…最近読んだ本に、夫を亡くした未亡人が葛藤の末に愛した人と一緒になる本を読んだのだけれど、その時の周りの人達の反応がどうしても自分に投げかけられている様に感じたのよね。…感情移入し過ぎてるのは感じているのだけれど、どうしても気になって…」
リザベルトさんがそう教えてくれる。
…とりあえず、誰かに酷い事を言われたとかじゃなくて良かった。
最近、何やら熱中して読書をしているなと思っていたけど、そんな本を読んでいたのか…。
「凄いわよね、ヒトが作った本は。つい真剣に読んでしまうわ。…エルフにはちょっと刺激が強いと思うけれど」
リザベルトさんはそう言って苦笑する。
「そうですね。その所為でリザベルトさんが、気にしなくても良い事を気にしちゃうんですから。…大丈夫ですよリザベルトさん、俺は今の貴女が好きです。女性として甘えてくれる時も、エルネットに厳しい親としてのリザベルトさんも、俺は好きです」
俺がそう言うと、リザベルトさんは微笑んで、
「ありがとうシュウ君。…ちなみにその本の続きで、未亡人の1人娘に手を出しちゃった義父と妻と義父に染められちゃった娘のドロドロの展開があるのだけれど、それも今の状況に似てるわよね?」
そう言ってきた…。
…今それ言いますか?
完全に狙ってますよね?
というか、そう考えると俺最低じゃないですか!
母娘に手を出した義父…。
ナイフで刺されまくりそうだ…。
俺はそう思いながら、
「ち、ちなみにリザベルトさん?その本の中では、結果どうなったんですか?」
リザベルトさんにそう聞く。
するとリザベルトさんは微笑んで、
「まだ全部読んでないのよ」
そう言ってきた…。
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