番外編 エルミール編 メイド?
エルミールの言葉を聞いて、まさかこの提案をするためにわざと最初に却下されると分かりきっている無理難題を提案してきたのかもしれないと想像する。
あり得る、むしろそうやって考えた方が今までのエルミールの行動が理解できる。
彼女が、ここまで秋沙の様な頭がアレな事を言う様な人では無かった。
…策士だった様だ。
俺がそう思っていると、
「シュウさんも、屋敷内限定でしたらこの格好を認めてくれますよね?」
エルミールが俺にそう聞いてくる…。
質問してきているのに、すでに決まって事の様に感じる空気に俺は顔を引きつらせる。
正直、屋敷内でするのなら認めても良いとは思っている。
…だけど、この格好で屋敷内を歩かれたら俺が視線を移してしまうのは分かりきっている。
だってエルミールの露出している格好なんて、珍しいのだから!
それにエルミールの肌、傷痕や火傷の痕も見えるがそんなの関係ないと思ってしまうくらいエルミールの素肌は綺麗だ。
感触も、すべすべしていて押すと押し返すくらい張りがあるのに柔らかいという、素晴らしい肌の持ち主だ。
それを知っている俺からしたら、その恰好で周りを歩かれたら目で追ってしまう…。
俺がそう考えて、もう彼女を止める事は出来なさそうだと察する。
だって、エルミールの目が既に自分が勝負に勝っている事を確信している。
その自信はどこから来るのか、俺はそう思いつつせめて毎日今着ているメイド服を着ない様に説得しなければならない事に心が折れそうになる。
だってエルミールと舌戦をして勝つなんて、無理に近い。
俺がそう思いながら、
「エ、エルミール?そのメイド服を着るのは良いけど、毎日は流石に駄目だよ?」
エルミールに優しくそう言うと、エルミールはフッと不敵な笑みを浮かべ、
「嫌ですシュウさん。私もそこまで毎日露出したい訳では無いですよ」
そう言ってくる。
よ、良かった…。
流石はエルミール、引き所は分かっているな。
俺がそう思って安心していると、
「ですが…」
エルミールが続けて、
「シュウさんがそこまで意識してそう言ってくるという事は、もしかして毎日着て欲しいのですか?それなら私はシュウさんの意見を尊重して、毎日この服を着ましょう」
そう言ってきた!?
駄目だった~!
フッフッフと勝ち誇った笑みを浮かべているエルミールを見て、どうしようと考える。
もう、屋敷でなら良いんじゃないか?と諦めそうになるが、エルミールにこのメイド服を許したら後が大変になるのは想像できる。
おそらく、皆の服装が過激な物になるのは簡単に想像できる。
……見たいと聞かれたら、正直見たいのだけれど…。
俺はそう考えて、首を振るう。
俺にもう手は無いのか?
俺がそう思ったその時、
「シュウさん、こちらにエルミールがどこにいるか知りませんか?」
王女であり、今は俺の救世主になるであろうティアが扉をノックしながら声を掛けてきた!
「い…ッッ…んぐぐ…」
「…静かにして下さいね」
俺がティアにエルミールが部屋にいるよと声を掛けようとした瞬間、物凄い速さで俺の背後に回ったエルミールが俺の口を塞いでくる!
これ、完全に暗殺されるやつじゃん!
というか、メイドが一応屋敷の持ち主である俺に手を出しちゃうの!?
メイドがそれで良いのか!?
俺は背中に当たる感触よりも、エルミールの動きにツッコミを入れていると、
「…?シュウさんもいないのでしょうか?」
ティアが声を出す。
すると、
「でも姉様、アルがシュウとエルミールなら部屋にいるぞと言ってたわよ」
コレットさんの声も聞こえる!
というかアルが教えてくれたって事は、今の現状もアルには分かっているという事だ…。
色々とマズいぞ…。
俺がそう思っていると、
「……スンスン」
何故か背後から鼻を鳴らす音が聞こえる。
今エルミールが気を散らしている隙に、俺は魔素を操って自室の扉を開け放つ。
そしてそこには、突然返事も無く開いた扉に驚いたティアとコレットさんが見える。
「…やられましたね」
後ろからエルミールのそんな声が聞こえる。
すると、
「な、何やってるのよ貴方達ィィッッ!!」
コレットさんの怒号が、屋敷に響いた…。
その後、俺とエルミールはコレットさんに怒られた。
しかし、エルミールは何故かコレットさんのお説教に反論し、むしろここまで肌を出せるようになった事を褒めて下さいとコレットさんに言うと、コレットさんもティアも確かに…とエルミールの言葉に納得して、エルミールの事を褒めて、俺もあまり怒られなくて済んだ。
流石エルミール、コレットさんの扱いは慣れている。
俺はコレットさんが落ち着いたのを確認した後、
「それで、2人はエルミールに用があったんでしょ?」
ティアとコレットさんにそう聞くと、
「そうだったわ。エルミール、実は頼みたい事が出来たのよ」
コレットさんがエルミールにそう言って手を合わせる。
「頼み…ですか?」
エルミールが顔を傾げてそう言うと、
「姉様が会談に必要な書類を失くしてしまったのよ。最近は屋敷で過ごす事が増えて、城の部屋が整理できていないのよ」
コレットさんが呆れた様にそう言うと、ティアが顔を赤く染めながらアワアワしている。
キッチリしているティアにしては珍しいな。
俺がそう思っていると、
「分かりました。着替えてティアリス様の部屋に行きましょう」
エルミールがそう言って立ち上がり、部屋を出ていく。
それを見て、さっきとは違って完全な仕事をする気持ちになったエルミールはキリッとしているな、と思う。
普段からしっかりしているエルミールだが、一応私生活と仕事の時とでは少しだけ違う。
俺がそう思っていると、
「シュウはエルミールに、あんな格好をさせたいの?」
コレットさんがそう聞いてくる。
「そういう訳じゃないんだけど…」
俺が曖昧に返事をすると、
「エルミールも嬉しいのだと思いますよ。今まで嫌いだった自分の一部を好きだと、受け入れてくれる事が」
ティアがそう言ってくれる。
…そうだと良いんだけどな。
俺がそう思っていると、
「準備が出来ましたよ」
エルミールがしっかりと普通のメイド服に着替えて、俺の部屋にやって来る。
そして、
「これ、シュウさんの部屋に置いておいてください。…また帰ったら着替えますからね」
エルミールが前半の言葉を普通に言って、後半の言葉を俺の耳元でそう言って部屋から出て行った。
ティアとコレットさんも、俺に一言言ってからエルミールの後を追いかけて部屋を出て行った。
…見つからない様に隠しておかないと、色々とマズそうだな。
俺はそう考えて、部屋の片付けとこの危ないメイド服を隠す場所を探し始めた。
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