新たな依頼
フェリアンさんはエルフの村の長殺しはヴァランス帝国が絡んでいると言う。
「ですが、ヴァランス帝国がエルフの村の長を殺すことにどんな利点があるんですか?」
「そんなの簡単ですよ。村をまとめる者がいなくなったらどうします?」
「次の長を決めます」
「その間に村に攻め込まれたらどうなると思います?」
「エルフは混乱します」
「その結果、エルフの村は壊滅するでしょう」
フェリアンさんはそう言う。
「でもこれだけじゃ、ヴァランス帝国が関わっていると思えないですが…」
俺はそう思ってしまう。
フェリアンさんが言う事は他の国にも当てはまるからだ。
俺がそう言うとフェリアンさんは、
「理由は、もう1つあります」
と言ってきた。
「それは?」
「エルフは容姿端麗です。そして、森にある村から出るなんて変わり者以外いませんよ」
この人、自分の事言ってるのだろうか…。
「それがどんな理由に?」
俺が聞いた瞬間、
「…奴隷」
隣にいたリーシャが呟いた。
「その通りです、エルフの村を襲いエルフを生け捕りにする。エルフというだけで買い手はたくさんいるでしょう。男女共に容姿が優れていますからね」
フェリアンさんの顔が暗い。
村の人たちを心配しているのだろう。
「私もただの放浪者なら長になることも考えました。ですが、今はとても大事なこの場所がありますからね…。今ギルド長を辞める訳にはいかないです」
フェリアンさんは微笑みながら言ってくる。
それは、どこか諦めているような気がする。
その顔を見て俺は、
「俺がエルフの森に行って村の方々にフェリアンさんの考えを教えてきます。このままじゃ、危険だという事を」
自然とそう言ってしまっていた。
フェリアンさんは驚いた顔をしている。
「有り難い事なのですが、エルフは人の言う事を信じないと思いますよ」
「じゃあ、フェリアンさんが書状を書いてください。俺が届けます」
フェリアンさんの顔は混乱しているのか怪訝な顔をしている。
「君は何故、そこまでしようとしているんですか?」
フェリアンさんが俺にそう聞いてくる。
「もしかしたらヴァランス帝国に命を狙われるかもしれないっていうのに…」
「人…いや、エルフが奴隷にされるって聞いて、はいそうですかって聞き流せる訳ないじゃないですか!」
俺はフェリアンさんに強く言う。
「望んでもいないのに奴隷にさせられるなんて!容姿が優れているから奴隷にするなんて!俺はそんなの許したくない!フェリアンさんは許せるんですか!」
「それは…認めたくないですよ」
「あなたはこの冒険者ギルドが大事だって言ってましたが、それは村もじゃないんですか?」
「大切な故郷ですよ」
フェリアンさんはそう言う。
「村の方々もフェリアンさんに助けを求めてるんじゃないでしょうか?だから、手紙が届いたんでしょ」
「そうですね…」
フェリアンさんは落ち込んでいるのか頭を下げている。
だが、頭を上げるとその顔はキリッとしていた。
「では、ヴェルーズ冒険者ギルド長フェリアンからの直接依頼です。エルフの村へ行き、彼らにこの書状を届ける事を依頼します」
そう言ってフェリアンさんは書状を書き、俺に手渡してくる。
「その依頼、受けます」
俺は手紙を受け取りフェリアンさんに言う。
「どうか、よろしくお願いします」
「はい!」
そして、俺は隣にいるリーシャを見る。
「ごめんリーシャ…勝手なことして」
「良いのわよシュウ、私はシュウに付いていくつもりだし、シュウは絶対に守ってあげるわ」
「ありがとうリーシャ」
それから、俺はリーシャと冒険者ギルドを後にした。
道具屋に行き、地図を買う。
地図を見ると、不幸なことにエルフの森はヴァランス帝国が一番近い。
「リーシャ、魔法で転移できない?」
「できるけど、問題があって…」
「問題?」
「えぇ、ヴァランス帝国の近くに転移できるけど、そこに建造物があったりしたら良くて不法侵入、悪くて建造物の壁とかに転移して圧死よ」
「怖すぎるよ」
つまり、歩きや馬で行った方が安全なのだろう。
「早い方が良いから、もう出発しましょ」
「え、あ、うん」
リーシャはそう言って俺の手を掴んでヴェルーズの門から出る。
「じゃあシュウ、しっかりと掴まっててね」
「へ?」
リーシャはそう言うと、突然俺を引っ張って走り始めた。
だが、普通の速さじゃない。
俺の足はリーシャの速さによって地に付いていないのだ。
「リーシャ!リーシャさ~ん!一回止まって!」
俺は声を出すが、リーシャに届いていないのか更に速度が速くなっていく。
どうにかして一回止まってもらわないと息が苦しい。
そう思っていると、俺の手を握っているリーシャの手を見る。
これで、合図を!
そう思い、リーシャと繋いでいる手をニギニギする。
そうすると、リーシャがビクッとして俺の方を見る。
だが、リーシャの顔は少し怒っているように見えた。
俺、リーシャを怒らせるような事したかな?
そう思うと、俺の顔を見ていたリーシャが更に加速!
慌ててまた、リーシャの手をニギニギ握る。
すると、ようやくリーシャが止まってくれた。
「どうしたのシュウ?」
「ぜぇぜぇ…リーシャ…速過ぎるよ…」
息を整えながらリーシャに言う。
「だって早く宿に行きたいんだもの…」
「疲れてるの?なら、ここで少し休…」
「違うの!やっとシュウと2人きりになれるのよ!」
「そ、そうだね」
リーシャの剣幕に一歩引いてしまう。
「だから、その…シュウとくっつきたいなって思って…。でもシュウは気づいてくれないし」
そうだったのか。
「ごめんリーシャ。気づかなくて」
「ううん、私が言えば良かったの…。意地悪してごめんなさい」
「じゃあ、早く宿がある所探さないとね!」
俺はそう言ってリーシャの手を握る。
「う、うん!」
俺がリーシャの手を握ると、嬉しそうな顔をするリーシャを愛おしく感じる。
リーシャの事を傷つけたくない。
そう思いながらリーシャに引きずられ宿に着いたのだった。
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