メイユ村、発つ
あの後、馬車までコレットさんを連れていく。
所々に男の死体が転がっている。
エルミールさん強いな、俺なんて3人でも大変だったのに。
「すみません。貴方はあそこに監禁されているこの村の本当の村民を解放してあげてください」
エルミールさんは少し大きな家を指さす。
「わかりました」
俺はエルミールさんが指さした家に行き扉を開ける。
中には鎖で繋がれた人達が俺の事を怯えた目で見てくる。
たぶん、俺の事を奴隷商人と勘違いしているのだろう。
「大丈夫ですよ。俺は奴隷商人じゃないです」
俺が家にいる皆に聞こえるように言うが、警戒しているのか声を出す人がいない。
とりあえず、鎖を外さないと。
近くにいた男の人の傍に行き、鎖を手に取る。
『リーシャ頼んで良い?』
『大丈夫よ、解呪』
リーシャが魔法を使うと村民の手足についた枷が外れる。
「外れた」「自由だ」「はぁ~」
皆、枷が外れた事でようやく安心したのか、声を出し始める。
「ありがとうございます!私達を助けていただいて。私はメイユ村の村長です」
おじいさんが俺に話しかけてくる。
「いえ、無事でよかったです。ところで、何があったんですか?」
「突然男達が村に来て、村の皆を集められたのです」
「それで、捕まったって事ですか?」
「その通りです」
俺と村長と話していると、
「ちゃんとできましたか?」
エルミールさんの声が後ろから聞こえた。
後ろを振り返るとエルミールさんが驚いている顔をしている。
「もしかして村の方々は奴隷の枷を付けられていましたか?」
「たぶんそうです」
「どうやって外したんですか?その枷は確か、特殊な魔法を使わないと外れなかったはずです」
え?
『リーシャ、そうなの?』
『そうだったわね…』
マズいな…エルミールさんには火魔法しか使えない事になっているのに。
「まぁ、いいでしょう」
そう言ってエルミールさんは俺の隣に来る。
「申し訳ありません。今日、この村に泊めていただきたいのですが」
村長に話し掛ける。
「えぇ、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
それからは早かった。
村人たちは歓迎したいと言っていたが、エルミールさんは主人が疲れているから休みたいと言って断っていた。
村の男性は奴隷商人達の死体の処理をし、女性は俺達が泊まる場所の確保と分担して動いている。
エルミールさんは馬車を置き、コレットさんの傍にいる。
俺はというと、村の近くにある川に来ていた。
「シュウ?大丈夫?」
今はリーシャも人の姿になっている。
「大丈夫…だと思う」
「そうには見えないわ」
村にいた時は気にならなかったが俺は人を殺したんだ。
覚悟を決めていたとしても、キツイな。
「リーシャ…」
「…何?」
「俺の元いた世界では、人を殺すのは罪なんだ…」
「うん」
「生き物すら殺した事がなかった…」
「うん」
「前に殺したゴブリンの時も罪悪感があったんだ…でも魔物には言葉は通じないから殺すしか無かった…。けど今回は人だった、言葉が通じたんだ…」
「…ねえシュウ、あの時シュウは何であの男達と戦ったの?」
「それは…コレットさんを助けないとって思って」
あの時は襲われていたコレットさんを助けないと!と思っていた。
「ならシュウのした事は絶対に間違えているとは思わないわ。ただ人を殺したいとかじゃなく、誰かを助けたい、救いたいということからしてしまった事なの。自信を持ってシュウ、貴方はコレットさんだけじゃなく、あの村の人たちも救ったって事を」
「ありがとうリーシャ」
リーシャと話して、気が楽になった。
それから少し俺とリーシャは何も話さなかった。
けど、隣に座っているリーシャの存在が嬉しかった。
「さて、帰ろうかリーシャ」
「えぇ…あっ!」
リーシャは何かに気がついたように驚き、俺の体に触れて義手になってしまった。
『どうしたの?魔物?』
『違うわ。待ってればわかるわ』
そう言われて少ししてガサガサと茂みが動いた。
そして、出てきたのは
「あ、いた」
コレットさんだった。
「どうしたんですか?」
「貴方がこっちに行ったのを聞いたから来たの」
「何か用事でもありましたか?」
俺がそう言うとコレットさんは顔を赤らめながら、
「ありがとう。助けてくれて」
「依頼ですからね」
「違う、私じゃない。メイユ村の人達の事」
「あれは成り行きの所もありましたけどね」
「それでも。我が領民を助けてくれたのは事実だから」
コレットさんが俺の前に来る。
「まだ男は苦手…」
「どうしました?」
「貴方、冒険者辞めて私の専属騎士にならない?」
「専属騎士?」
「そう、私だけを守ればいいから簡単だし、お金も冒険者より全然良いよ」
「ありがたいけど、当分の間は冒険者をするって決めてますから」
「そう、冒険者辞めたら私の所に来てね」
「わかりました」
そう言ってコレットさんは村の方へ歩いていく。
俺もその後を追いかける。
『シュウ、モテモテね…』
『そんなことないよ、リーシャが強いから力を求めている人に誘われやすいんだよ』
『ふ~ん…』
またリーシャの機嫌が悪くなってる…。
コレットさんの後ろを歩きながらリーシャと話しているうちに、村に帰ってきた。
それから、俺は村の方達から命の恩人扱いされて、宴に強制参加されたりしたが、コレットさんは疲れているからと言ってすぐに泊まる家に入ってしまった。
俺もキリの良い所でそそくさと逃げて、泊まる家に入った。
リーシャに言われた通り、彼らを救えたことに自信を持とう。
そう思っているうちに、いつの間にか寝てしまった。
翌日、朝に目が覚め外に出ると馬車の準備が出来ている。
エルミールさんがいたから話し掛ける。
「おはようございます。早いですね」
「おはようございます。えぇ、朝から村を出れば今日の夜にはサンレアン王国に着きますから」
もうそんな近いところまで来ていたのか。
それから、コレットさんも馬車に乗り込んで村の人達に感謝され、見送られながらメイユ村を出発した。
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