ヘルム君
棚から取り出した服をカーヤさんが着替えて、手錠も付ける。
勿論俺は、カーヤさんが着替える時に後ろを向いたが、服の脱ぐ時や着る時の布の擦れる音に少しドキドキしてしまった。
少ししてから、カーヤさんが着替え終わって俺とヴェロニアさんに声をかけてくる。
振り返ると、少しきつそうにしているカーヤさんが、
「あっ…」
何かに気が付いたのか小さく声を出した。
だが、何に気が付いたのだろう?
そう思って周りを見ると、隣にいたヴェロニアさんが微かに震えている。
それを見て、ヴェロニアさんがカーヤさんの催淫の効果を受けていることに気付いた!
そうか、カーヤさんが服を着崩しただけで催淫効果がある事を忘れていた!
しかも俺はその効果が強くは出ない。
俺がそう思っていると、ヴェロニアさんが俺の服を握りしめている。
催淫の効果と戦っているのだ。
「少ししたら治ります。今はここから移動しましょう」
カーヤさんがそう言って部屋の扉を開けて外に出る。
俺は歩くのが辛そうなヴェロニアさんを支えながら、カーヤさんの後を追って部屋から出る。
そうして建物内を歩いて行くと、1人の女性が俺達の方に歩いていく。
そして、その後ろには女性の荷物であろう荷物を持っている人がいた。
するとカーヤさんが歩みを止めてしまう。
そうして、女性と荷物持ちの人がすれ違った瞬間、荷物持ちの人が幼さを残した男の子だという事に気づいた。
もしかして…。
俺がそう思って止っているカーヤさんを見ると、カーヤさんは安心した様な顔をした後、厳しい顔つきに戻ってしまう。
それから歩き出したカーヤさんの後を付いて行き、1つの部屋に着いた。
カーヤさんが中に入り、俺とまだ催淫の効果が切れていないヴェロニアさんも後に続いて中に入る。
中に入ると、俺は部屋の中にドッシリと置いてあるベッドにヴェロニアさんを座らせる。
ヴェロニアさんも、今は余裕がないのか何も言わないで俺の指示に従ってベッドに腰を下ろす。
「さっきの男の子が、弟さんですよね?」
それから俺は、少し表情が固くなっているカーヤさんに質問する。
俺の言葉を聞いて、
「…はい。あの子がヘルムです」
カーヤさんが短く答えてくれる。
顔が少しでも分かれば、見つけやすい。
丁度良いタイミングではあったな。
俺がカーヤさんの弟、ヘルム君の顔を思い出しながらそう考えていると、
「ここからは、お願いします。私はもう出ないといけないので…」
カーヤさんが頭を下げながら俺にそう言ってくる。
「わかりました。後の事は任せて下さい。ヴェロニアさんが回復したらすぐに行動します。検問所の所で待っていて下さい」
俺がそう言うと、カーヤさんは一礼をして部屋から出て行った。
俺はカーヤさんが部屋から出て扉を閉めた後、ヴェロニアさんの様子を窺ってみる。
呼吸が荒く、顔も赤いままだ。
このままでは部屋に動くのは危険だと判断して、ヴェロニアさんが元に戻るのを待つ事にした。
カーヤさんが部屋から出て数分後、ヴェロニアさんが落ち着いてきた。
「大丈夫ですか?」
俺はヴェロニアさんにそう聞きながら、魔導袋から取り出した水をヴェロニアさんに渡す。
俺から水を受け取ったヴェロニアさんは、それを一気に傾けて中身を飲み干すと、
「ありがとう。なんとか動ける。行こう、早くしないといけない」
俺にそう言って部屋の外の音を確認する様に、扉に耳を付けている。
俺は無駄な音を出さない様にヴェロニアさんに近づいて、アイコンタクトで大丈夫か聞いてみる。
だが、ヴェロニアさんは俺のアイコンタクトには気づかないで、ただ俺の事を睨んでくる…。
流石に睨まれていたくは無いので、俺はヴェロニアさんの指示が来るまで壁に寄りかかりながら、魔素を圧縮して魔拳を作り出しておく。
すると、ヴェロニアさんが扉を開けて外に出て行ってしまった!?
俺は慌てて彼女の後を追う為に部屋を出て扉を閉める。
そうすると、ヴェロニアさんがこっちに来いと手を振っている…。
俺は彼女を追って少し走って行くと、ヴェロニアさんが何故か耳を塞いでいる…。
「…」
少し耳を澄ませてみると、いくつかある扉の先から女性と男性の振り絞ったような声が聞こえる。
その声を聞きたくないのだろう。
俺はそう思いながら、ヴェロニアさんが走る方向に付いて行く。
だがこう思うと、この建物内の室内に入られてしまっていたら探しようがない。
そう思っていると、男女の話し声が聞こえてきた。
その声がヘルム君の声だと気づいて、反対の方に歩いていくヴェロニアさんを慌てて捕まえて、声がする方に足音を立てないように進んでいく。
すると、部屋の前で話している女性とヘルム君が見えた。
俺は周囲を警戒しながら、2人の声に集中する。
「さっきヘルムのお姉さんが来てたね?」
「…うん。お姉ちゃんは僕の所為でやりたくも無い事させられてるんだ」
「大丈夫。ここの支配人の悪事はもう少しで全部揃う。そうしたら私が新しい支配人になって、ヘルムとお姉さんを解放してあげるから」
「………」
2人の話し声を聞いて、俺はこのまま事が運んだらヘルム君とカーヤさんは自由になれるのではないか?
そう考えてしまう。
俺がそう思っていると、
「僕は…確かにこの婦館の支配人に強制的に働かされましたけど…。今は僕の意志で、イーナさんのお傍に居るんです。だから…その」
ヘルム君が少しだけ声を荒げて、女性にそう言う。
ヘルム君の表情は真剣で、あの女の人に媚びを売っている様には見えない。
それにあの顔の赤さは、単純な仕事相手に対するモノではなさそうだ…。
「…全てが終わったら、返事をするわ」
女性はそう言うと、部屋の中に入ってしまった。
そして、扉を前で立っているヘルム君は、
「…ハァ…」
ため息をついてから、俺達の方に向かって歩き出した。
これならすぐに連れて行く事が出来る。
そう思ったが、もしかしたらこの子は残ると言うかもしれない。
俺がそう思っていると、
「あの子が、そう?」
ヴェロニアさんが、ヘルム君を指差しながら俺に聞いてくる。
「はい」
俺がヴェロニアさんの質問に返事をした瞬間、彼女は近づいて来ていたヘルム君を捕まえてしまった…。
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