民衆
俺が瓶を掴むと、周りにいた人達が突然現れた俺に驚いている。
「何だお前!そいつが誰だがわかってんのか!」
すると、前に立っていた男が俺にそう怒鳴ってくる。
その言葉を無視して、俺は後ろを向いてヴェロニアさんの様子を見る。
彼女の前に置かれている魔導具が、少し壊れている…。
「…大丈夫ですか?」
「…うちの子達が…」
俺が彼女にそう聞くと、ヴェロニアさんは壊れている魔導具を見てそう呟く。
彼女にとって、作り上げてきた魔導具は子供と同じなんだろう。
俺がそう思っていると、背中に何か当たった感じがする。
見ると、石を当てられたようだ。
痛覚半減のスキルはこういう時に便利だな。
俺はそう考えながら、俺達の事を睨んでいる人達を見る。
「お前!その女が何したか知ってるのか!」
すると、少し若い男の人が俺にそう言ってくる。
「知らないですよ。彼女は良い人…ですから」
「何で少し間があったかは後で聞こうか?」
俺が男に言い返すと、後ろにいたヴェロニアさんの声が聞こえた…。
後で大変な事になりそうだな…。
俺がそう考えながら苦笑していると、
「そいつはな!自分の事をあのバルナルド・ヴィリヴァの子孫だって言いやがったんだ!」
男性が俺にそう言ってくる。
だが、その言葉を聞いてもヴェロニアさんが嘘を吐いている理由にはなっていない。
彼らは、どうしてここまで彼女を嘘吐きだと言いたいのだろう…。
俺がイマイチな反応をした所為か、男性が更に口を開いて、
「良いか!魔導具開発に生涯を捧げたバルナルド・ヴィリヴァには、家族はいないんだ!なのにこの女はバルナルド・ヴィリヴァの子孫を名乗ってるんだぞ!」
俺にそう怒鳴ると、周りの皆も賛同している。
バルナルド・ヴィリヴァに家族はいない…か。
すると、
「うちは本当にバルナルド・ヴィリヴァの子孫なんだ…」
後ろから震え声が聞こえてくる。
「…信じて貰えないの…かな…」
ヴェロニアさんの声が聞こえて、俺は思う。
彼女がもしバルナルド・ヴィリヴァの子孫では無くても、凄い人だとは思う。
バルナルド・ヴィリヴァの手記を持っていて、魔導具の開発が出来る時点で協力して貰いたいと思っている。
それに、彼女の言葉を信じたい。
俺はそう思いながら、一歩前に出て口を開き、
「俺は彼女の言葉を信じたい!」
俺とヴェロニアさんに文句を言ってくる人達に聞こえる様に、大きな声を出してそう言う。
すると、俺の言葉を聞いた人達は一度止まるが、更に苛烈に俺達に文句を言ってきたり、物を投げたりしてくる!
「ヴェロニアさん!荷物をまとめて下さい!」
俺は飛んでくる空き瓶や石などを魔拳で弾きながら、後ろにいるヴェロニアさんにそう言う。
俺の言葉を聞いて、ヴェロニアさんが地面に置いていた魔導具をリュックの中に入れていく。
少しして、
「お、終わった!」
後ろからヴェロニアさんの言葉を聞いて、俺は罵倒しながら俺達に物を投げてくる人達の動きを見る。
ヴェロニアさんと一緒に逃げるには、大きな隙を作らないといけない。
何故なら彼女は、牢屋から逃げ出すときに走るのが遅いと言っていたからだ。
正直に言うと、この状況は凄くマズいのだ。
俺がそう思った瞬間、昨日嫌という程感じた甘い空気が辺りを支配する!
すると、
「…おい、何かムズムズするぞ…」
「お前もかよ…」
「な、何でこんなに胸が高鳴るの…」
「あなた…今すぐ家に帰りましょ?ね?」
俺達に暴言を言ってきていた人達が、モジモジしながら落ち着きが無くなってくる。
すると、人の間からカーヤさんが出てくる。
その姿は、昨日の換金所のビシッとした服装とは違い、動くのに楽そうな格好をしている…。
この状況にしたのは、カーヤさんだろう…。
俺がそう思っていると、周りにいた人達が散っていき、残ったのは俺とヴェロニアさんとカーヤさん。
そして、カーヤさんの催淫で気が惑わされたのか、キスをし始める恋人らしき人達。
流石にこの状況は気まずいな…。
さっきまでの怒りの感情はどこに行ったんだ?
俺がそう思っていると、後ろから抱きつかれる!
見ると、
「ハァ…ハァ…。し、少年。どういう事なのだ…」
顔を真っ赤に染めながら、俺の体にしがみ付いてくるヴェロニアさん。
催淫の所為で体に力を入れずらいのだろう。
「大丈夫ですから、ゆっくりと深呼吸をして落ち着いて下さい」
俺はそう言いながら、ヴェロニアさんを離して座らせようとする。
ヴェロニアさんの体に触れてわかったが、今のヴェロニアさんはほとんど体に力が入っていない。
俺はゆっくりとヴェロニアさんを座らせて、落ち着くように促す。
すると、
「昨日はどうも。お陰で寂しい夜を過ごさせて頂きました」
俺達に近づきながら、カーヤさんが俺にそう言ってくる。
怒っているのは、カーヤさんの言葉を聞いた瞬間にわかった。
だが、そんなに怒られるような事をした覚えはないはずだ。
俺がそんな事を考えていると、
「どうしましたか?まさか私の事を覚えていないなんていう訳では無いですよね?」
カーヤさんが俺とヴェロニアさんに近づきながらそう言ってくる。
俺は下手に刺激しない様に、ただ頷くだけにする。
「なら、私が今ここにいる理由もわかりますよね?」
すると、俺が頷いたのを確認したカーヤさんが俺に質問してくる。
だが、カーヤさんの質問に見当もつかない。
俺が黙っていると、カーヤさんが口を開いた。
その瞬間!
「貴様ら!ここで何をしている!」
遠くから聞こえてくる兵士の怒鳴り声にカーヤさんが服を正す!
その瞬間、周りの空気が変わって色々と始めようとしていた恋人達が元に戻る。
それはヴェロニアさんも同じだ。
「お、落ち着いた…」
ほっとしている彼女を見て、良かったと思う反面今の状況がマズい事になっていると思う。
今兵士に捕まってしまったら、また牢屋に入れられてしまう。
今度は脱出できない可能性もあるのだ。
俺はそう思い心の中で謝りながら、ヴェロニアさんのリュックを背負って彼女を持ち上げる。
「し、少年ッ!?」
俺に持ち上げられて驚いているヴェロニアさんを無視して、俺は逃げ出そうとしているカーヤさんも捕まえて、魔素を脚に纏って逃げ出した。
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