暴言
俺が2人の話し声に集中すると、女性の声に聞き覚えがあった。
俺の持って来た死石を換金してくれた受付の女性の声だ。
つまり、今話している2人の言っている人物は俺の可能性が高い。
少し警戒して、話を聞いてみよう。
俺はそう思い、ゆっくりと2人に近づいて物陰に隠れる。
「半日でそれだけ稼げるってヤバいな。何としてでも常連にしてえな…。カーヤどうにかして催淫しろよ」
「彼を射止める事が出来たら、多くお金を払ってくれますか?」
「…まぁ良いぜ。1000ルーンでどうだ?」
「…わかりました。やってみましょう」
2人はそう言って、別々の道に分かれて歩いていく。
男の方は奥の道に、女性の方は俺が来た表通りの方に…。
つまり、俺が隠れている所に近づいて来ているのだ。
いくら夜だからといって、ここで屋根までジャンプしたらバレてしまう…。
ここは大人しく、彼女が俺に気づかないで歩き去っていく事を願いながら身を潜めるしかない…。
そうして近づいてくる足音を聞いていると、ピタリと音が止まる。
すると、
「この匂い…」
女性がそう呟いて、先程まで普通に聞こえていた足音が何かを探す様に動き回る様な音に変わる…。
マズいマズい…、どうしよう…。
このままじゃマズい…。
俺がそう思っていた瞬間、
「……」
隠れていた俺の事を覗き込む2つの瞳…。
正直に言って、凄く怖い…。
「見つけました」
俺の事を見てくる女性が、俺にそう言う。
俺は混乱しながらも、
「こ‥」
振り絞って声を出す。
「…こ?」
「こんばんは?」
俺の発言を聞いて女性は無言になり、俺も頭の中では絶叫しながらも、声を出す事が出来なかった。
その後、俺と女性の無言で見つめ合った後、俺は彼女に連れられて何やら怪しい建物に連れ込まれてしまった。
宿屋の様に見えるが、どの部屋からも聞こえてくる艶かしい声が体を緊張させる。
もしかして、ここって…婦館ではないだろうか?
俺がそう思った瞬間、頭の中で瞳の光が消えた愛する嫁達の姿が浮かんでくる…。
帰ったら…殺されたりしないよね…。
俺が恐怖を感じていると、
「ここです」
女性が止まって扉を開くと、俺を押し込んでくる!
仕方なく中に入ると、そこに広がっていたのは宿屋よりの大きなベッドが部屋の真ん中に置かれているだけだった…。
すると、換金所で感じた空気が背後から押し寄せてくる!
振り返ると、受付の女性が服を着崩している。
これがさっき話していた催淫というやつか…、言葉通りの力だ…。
俺はそう思いながら、彼女から距離を取る。
だが俺が距離を取ろうとしても、彼女が俺に近づいて来て意味がない。
そのまま2人でジリジリと歩いて行くと、俺の踵に何かがぶつかる。
それを見ると、部屋の真ん中に置かれたベッドの脚に当たってしまったみたいだ。
俺が彼女から視線を外した瞬間、俺の前から衝撃が与えられベッドに倒される!
見るとそこには、服を1枚脱いだ女性が目の前まで来ている。
そして、
「名前は何て言うんですか?」
そう聞いてきた瞬間、俺の意識が揺さぶられる!
この人の催淫は本物だ。
ここは彼女の催淫に惑わされない様に、意志を固めなくてはいけない!
「シュウって…言います」
俺は何とか冷静な声を出して、彼女の質問に答える。
すると、
「そう。私の名前はカーヤって言います。よろしくお願いします」
カーヤさんは俺に少し近づきながらそう言ってくる。
このままでは、リーシャ達に合わせる顔が無い!
俺はそう思って魔素を圧縮して脚に纏わせると、一気に起き上がってベッドを蹴る!
そして俺はベッドの上から部屋の隅に移動して、1つだけあった部屋の窓を開けて飛び降りる!
「なッ!」
カーヤさんが驚いている声が聞こえたが、俺はそのまま帝都の夜の町を走り抜けた…。
リーシャ達に、謝りながら…。
その後、俺は宿を取る事も出来ず、野宿する事になった。
外で寝る事の大変さが身に染みた。
1人だと、仮眠程度の睡眠しか取れないからだ。
2人であれば、交代で見張りをすれば少しだが深く眠る事が出来るが、それも出来ないのは辛い…。
その結果、
「……ふぁ~」
歩きながら大きな欠伸をしてしまう…。
今はとりあえず宿屋に行ってヴェロニアさんと、これからの事に関して話そうと思って宿屋に向かっている。
そして、宿屋に到着したのだが…。
「あの部屋のお客様なら、すでに出かけましたよ」
ヴェロニアさんは既に出掛けてしまったらしくて、いなかったのだ。
つまり、俺はこれから何をすればいいのかまた考えないといけない。
死石を集めて換金しに行くのも良いと思うが、昨日の今日であそこに行くのもどうかと思う…。
となると、俺が今すべき事は何なのだろう?
俺はそう思いながら、町の人の流れに沿って歩いていると、
「そこの片腕の兄ちゃん!安いモン揃ってるぜ!」
いきなり声を掛けられてビクッとする。
声を掛けられた方を見ると、中年の男性が俺に青色の魔石を見せてくる。
「どうよこの魔石!普通なら市場に出回らない水の魔石だぜ!1つ1000ルーンでどうだい!」
俺はそれを魔視を発動して確認すると、確かに水の魔石である。
だが、ルネリアが作ったにしてはここに流れてくるのが速いと感じる…。
となると考えられる可能性は、エグモントの配下であった男達やローラントが横流しをしていたのだろう。
「すみません。今それ程手持ちが無いので」
俺はそう言って歩き出すと、後ろから男性が欲しくなったら来いよと言う声が聞こえた。
実際は買えるだけの手持ちはある。
だが、余裕が無いのも事実だ。
ここは節約しながらやりくりをしないといけないな…。
俺がそう思っていると、
「待って!うちは嘘なんて吐いて無い!」
「とんでもねえ嘘を吐いたじゃねえか!誰か兵を呼んで来い!」
辛そうな声と、その声に対しての厳しい声。
そして、その厳しい声に対して賛同する声達。
俺は声がした方を見ていくと、ヴェロニアさんを見つけた!
だが、その状況は酷いものだ。
彼女に対する暴言の数々、それは聞くのも耳を塞ぎたくなるような言葉も聞こえた。
すると、少し大きな瓶が彼女に向かって飛んでいくのが見えた!
俺は魔素を一瞬で脚に纏わせて、騒ぎに集まっていた人達の頭の上を通過する!
そしヴェロニアさんの前に下り立ち、飛んできた瓶を左手で掴む事に成功した。
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