甘い雰囲気
俺がリーシャの事を思い出して煩悩を捨て去っていると、
「どうかしましたか?」
受付の女性が俺にそう声を掛けながら、俺の顔を覗き込んでくる。
その所為で彼女の着崩した服の隙間から、彼女の膨らみが少しだけ見えてしまう!
俺は慌てて視線を逸らして、
「換金して欲しくて来ました。お願いします」
魔導袋から死石を取り出してカウンターの上に置く。
すると、
「これ…こんなに沢山の死石を集める事が出来たんですか?」
女性が少し声を低くしてそう聞いてくる。
おそらく、1人ではこんなに持ってくる事が怪しいのだろう。
俺はそう考えて、帰って来る途中で考えた、
「旅人ですので、腕には少しだけ自信があるんですよ」
言い訳?を口にする。
すると、
「腕に自信があるのに、死石を奪われるなんて…マヌケなんですね」
彼女はそう言って、俺が出した死石を持って奥の扉を開けて行ってしまう。
今の反応、バレてる?
もし、嘘の言い訳がバレているなら、余計に怪しまれてしまっていないか?
俺がそう思っていると、ある事に気が付いた。
換金所の空気が変わっているのだ。
今まではどこかネットリとした空気だったのだが、今は特に変わらない様子だ。
婦館に行くとか言っていた男達も、今だにそんな会話はしているが先程とは違って普通だ。
さっきは目がギラギラしていたもんな。
俺がそう思っていると、奥の扉から眼鏡をかけた受付の女性が戻ってくる。
その瞬間、また換金所の中の雰囲気が変わって、さっきと同じような感じになる。
この人が何かしているのか?
俺がそう思っていると、
「…どうかしましたか?」
女性が俺の事を見ながらそう聞いてくる。
「い、いえ‥何でもないです」
俺が女性の質問にそう答えると、彼女は少し目を細めて俺の事を見るだけで終わり、
「では、死石を査定しました所、5000ルーンでどうでしょうか?」
事務的な対応を再開する。
とりあえず、それだけあればヴェロニアさんと同じ宿は行く事が出来ると思い、
「構いません。お願いします」
そう言って軽く頭を下げる。
すると、彼女は自分の近くに置いてあるしい小さな棚からヴェロニアさんが宿屋の会計の時に渡していた銀貨より少し大きくて綺麗な銀貨を5枚、俺に渡してくる。
おそらく、1枚1000ルーンなのだろう。
「確かに…。ありがとうございました」
俺は彼女にお礼を言って、換金所を後にしようとすると、
「…1つ聞いても良いですか?」
後ろから声を掛けられる。
振り返ると女性が何故か更に服を着崩している…。
「えっと…何でしょうか?」
俺は彼女の服装を気にしない様に彼女の問いに質問する。
すると、女性が俺に近づいてくる。
その途端に、甘い匂いがしてくる。
しかもただ甘い匂いではない…。
生き物として、男としての本能を奮い立たせようとするような…刺激が強い甘い匂いなのだ…。
「貴方は、何故効果が薄いんでしょう?」
目の前にいる女性の小さな声の発言は、俺に聞いている様でただの独り言のようにも聞こえる…。
それに女性の言葉は、この室内の雰囲の事に関して言っている様だ。
つまりこの人は、この空気の理由を知っているんだ…。
でも…今の女性の言葉は俺に対する質問なのかな?
それとも本当にただの独り言なのだろうか?
俺が1人でそんな事を考えて、女性の言葉に返事を返そうかと思っていると、
「手を出してもらえませんか?」
女性が俺にそう言ってくる。
俺は特に何も深く考えないで、左手を女性が触れやすいように少し前に出す。
すると、俺の手に触れる女性。
「………」
何だろう?
「やはり…効果が…」
女性が俺の手を握りながら、聞き取れないくらい小さな声で何か呟いている。
「すみません。ありがとうございました」
彼女はそう言って俺から手を離す。
「いえ、では失礼します」
俺は彼女に頭を下げて換金所の扉を開いて外に出る。
これで宿に泊まる事が出来るな…。
俺はそう考えながら、昼間とは違った空気の騒がしい道を歩いて宿に向かった。
そして、宿屋止まり木に付いて部屋を取ろうとすると、
「すみませんね。全部屋埋まってるんですわ」
まさかの先に部屋を取られてしまい、泊まる事が出来なくなってしまった…。
俺は店主に近くで泊まれる所は無いかと聞くと、あと近くにあるのは富裕層向けの高級な宿屋か、鍵も無く雨風を防ぐ事しか出来ない宿屋しかないと言われてしまった。
「…どうすれば良いんだ?」
俺は町の中を歩きながら、そう呟く。
今から山小屋に帰るとしても、移動時間が面倒だ…。
「どこか…泊まれる場所は無いだろうか…」
呟きながら歩いていると、換金所まで戻ってきてしまっていた…。
完全に無意識に歩いていた所為で、自分が知っている道を歩いていたのだろう…。
俺がそんな事を思っていると、
「…相変わらず良い客寄せしてるな、カーヤ」
「換金所に来てお金が入れば、気が少し大きくなります。後は催淫してしまえば、婦館に行くでしょう」
「お前が婦館の斡旋をしてくれるようになってから、売り上げはどんどん増えていくぜ。ほら、今日の分だ」
「どうも」
何やらコソコソしている人影が見える。
…怪しい。
「カーヤが働いてくれれば、もっと稼げると思うぜ?どうよ?」
「私は催淫して斡旋をする事しかしません。私自身を売るつもりは無いです」
「はっはっは!淫魔がそれを言ってどうするんだよ!」
何やら淡々とした女性の声と、少し興奮した様子の男性が言い争う感じになって来ているな。
「淫魔だろうが人間だろうが、私は体を許すつもりは無いです」
「はぁ~…。わかったよ。…それで?お前の催淫が効かない野郎が現れたってのは本当か?」
「…はい。おそらく、私に対して意識はしていたとは思うのですが、それ以上は…」
「となると、淫魔の催淫に耐性があるって事か…。どれだけ稼いできた?」
「昼間に来た時に死石を泥棒されたらしく、一度出て行ってしまったんです。ですが、その後夜に戻って来た時に5000ルーンです」
あれ?
昼間に換金所に行ったけど、死石を奪われてしまって夜にもう一度換金しに来た人って…俺の事かな?
換金してもらった金額も同じだし…。
俺はそう思いながら、コソコソ話している2人に改めて意識を集中させる。
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