準備
俺の言葉を聞いたヴェロニアさんは、難しい顔をする。
当たり前だ、俺はまだ詳しい事も言ってないし信用もまだ全然されていない。
「…詳しく話して」
だが俺の予想とは違って、ヴェロニアさんは少し乗り気のようだ。
前かがみで俺の言葉を待っている。
「ヴェロニアさんはバルナルド・ヴィリヴァの子孫という事は、ある程度魔導具の知識があると思ったんです。だから、ヴェロニアさんに俺が通ってきた扉を見せたいと思っているんです」
俺がそう言うと、
「うちは魔導研究者だよ。少し見ただけでそれがどんな魔導具か、どんな魔術式が刻まれているか解析できるね!」
ヴェロニアさんが胸を張ってそう言ってくる。
「だけど…すぐに移動できるかと聞かれたら、今すぐには無理」
だが、続けて話してくれた言葉を俺に言いながら、申し訳なさそうな表情をする。
どうやら、ヴェロニアさんには何かやらないといけないような問題がある様だ。
「いえ、突然こんな事を言いだした俺が悪いんです。ヴェロニアさんは自分のやる事を優先して下さい。それまで待っていますから」
俺がそう言うと、ヴァロニアさんは苦笑いで、
「やる事というか、路銀がもう無いんだよ。だからお金を稼がなくてはいけないんだ」
そう言ってくる。
そう言われると、俺もこちらの世界のお金が無い…。
つまり、無一文なのだ。
「お金を稼ぐ方法って、死石を換金所でお金に換えて貰える以外に何かあるんですか?」
俺がそう聞くと、
「お金を稼ぐ方法なんていくらでもあるが、うちが出来るのは開発した魔導具を売る事だな」
ヴェロニアさんが、背負っていたリュックから様々な魔導具を取り出してそう言う。
それを見ると、様々な大きさの物がある。
手で持てる位の物から置かないと使えないんではないかと思ってしまう程大きな物もある。
「少年はこれからどうするの?」
魔導具を弄りながら、ヴェロニアさんが俺にそう聞いてくる。
「俺もお金を稼がないといけないので、死石を取って資金調達ですね」
俺がそう言うと、ヴェロニアさんは俺の事を見て、
「魔導剣とかあるの?」
そう聞いてくる。
そういえば兵士の人から取り上げられた時に魔導袋に入れられていたんだった…。
俺はヴェロニアさんのお陰でその事を思い出して、魔導袋から魔導剣を取り出す。
すると、
「また古い型の魔導剣を持っているね」
ヴェロニアさんが俺の持っている魔導剣を見て、そう言ってくる。
…あれ?この魔導剣見せたらどんな反応をするんだろう?
俺はヴェロニアさんの様子を見てそう考えてしまう。
「これ、ヴェロニアさんが見たら嬉しがるんじゃないんですか?」
俺はそう言って魔導剣をヴェロニアさんに渡す。
ヴェロニアさんは俺から魔導剣を受け取って、まじまじと見つめる。
そして、
「バルナルド・ヴィリヴァが作った魔導剣!」
フィノイ村のヨハナさんやヴァレオさんみたいな反応をする。
やはり、バルナルド・ヴィリヴァの開発した魔導剣って凄いんだな。
俺はヴェロニアさんの反応を見てそう思った。
「ふぅ…大変満足しました」
ヴェロニアさんに魔導剣を渡すと、彼女は凄く熱心に魔導剣を調べていた。
魔導剣を返された俺は、部屋の窓から見えるオレンジ色になった空を見て、
「すみません。俺は今から少し出て魔獣を倒しに行ってきます」
ヴェロニアさんにそう伝える。
すると彼女は、
「死なない様にね~」
ベッドに横になりながらそう言ってくれる。
俺は静かにヴェロニアさんの部屋から出て、宿屋を後にする。
町の人がいない場所を探しながら歩いていると、巡回をしている兵士の人達が見える。
俺は慌てて小道に入って行き、巡回の兵をやり過ごす。
巡回の兵がいなくなったのを確認して、慌てて入った小道を見る。
そこは、酷く汚れていて出来れば通りたくないと思ってしまう程だ。
地面には、様々なゴミが捨てられており、壁には争い事があったのか血の様な赤黒い液体が跳ねた跡がある。
だが、酷い道であるが故に人通り少ない。
「…よし」
俺は小さくそう呟いて、小道を進み始める。
空が暗くなってきている所為で、道もどんどん暗くなっていき不安になってくる。
すると、人がいない所まで来ることが出来た。
ここなら大丈夫だろう。
俺はそう思って魔素を操り、上空を目指して思いっきり跳ぶ!
その後、俺は人に見られない様に空を駆けて、空を飛んでいる魔獣を倒し続けた。
その結果、俺は凄く満足した顔をしながら、町を歩いている。
勿論、兵士の人に見つからない様に歩いている。
魔獣を狩った結果、最初に換金所を訪時よりも更に多くの死石が取れた。
後は換金所まで行って、死石をお金に換えて貰うだけなのだ。
そうしてようやく、換金所に辿り着いた。
扉を開けて中に入ると、今まで嬉しく思っていた感情が一瞬で無くなる!
その理由は、換金所の中に入った瞬間に感じた甘い匂いとフワフワした様な、言い表すのに難しい雰囲気なのだ。
換金所の中を見ても、特に変わった様子は無い…。
だが、この…ムズムズするような感覚は知っている…。
秋沙姉が強制的に飲ませてきた薬を飲んだ時と凄く似ている。
簡単に言えば、ムラムラしてくるのだ…。
俺は周りの俺と同じ死石を換金しに来ている人達を見ると、
「おい‥今日はどこに行く?」
「今日は東通りの婦館に行くぜ…」
「お前がそこなら、俺は裏通りにするな…」
こそこそと話している男達の話がそういう方面の話だ…。
俺は耐性があるのか、そこまで効果は無い。
俺は頭を冷静にしつつ、受付の女性の所に行こうとして、
「あ…」
昼間にも受付をしていた女性が俺の事を見て小さく声を出した。
すると、俺の方に手を伸ばしてこっちに来いと手を振ってくる。
俺は彼女に従い、彼女の前に立つ。
すると彼女もここの空気の所為か、昼間は服をしっかり着込んだ女性の服が少し着崩している。
少し見える肌が余計に美しく見えてしまう…。
俺はそう思って、慌てて頭の中をリーシャ達で満たす。
『リーシャが1人、リーシャが2人、リーシャが3人…』
俺は必死に、リーシャの可愛かった表情や、少し怒った顔を思い出して、煩悩を捨て去る。
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