脱牢
ヴェロニア・ヴィリヴァさんの言葉を聞いて、俺は思考が止ってしまう。
だってその発言は、自分が助かれば他人なんてどうなっても構わないという事だ。
この世界では、これが普通なのかな…。
俺がそう思っていると、
「何を考えているかは知らないが、抜け出すのなら早くしよう」
彼女が俺にそう言ってくる。
そうだな、とりあえず彼女と一緒にここから逃げよう。
「…わかりました」
俺は彼女にそう言って、魔翔剣を作って鉄格子を斬り裂く。
鉄格子が斬れて地面に倒れて、金属音が鳴り響く。
「行きますよ」
俺はそう言って牢屋から出ると、周りの人達が凄く静かになっている事に気が付く。
俺が周りを見ると、皆ポカンとした表情をしている。
それは今から一緒に逃げ出そうとしているヴェロニアさんもだ。
「早く行きますよ。こんな事した時点で刑が重くなるんですから」
俺がそう言うと、
「ッ!?わ、わかった」
彼女は体をビクッとさせて、立ち上がって俺の所に来る。
さて、まずは俺と彼女の没収されてしまった荷物を取り返す事だが、どこに保管されているだろうか…。
俺がそう思っていると、何やら服を引っ張られる感触が伝わり振り返る。
すると、ヴェロニアさんが俺の服を摘んで引っ張っていた。
「どうしたんですか?」
俺がそう聞くと、
「荷物の場所なら、分かる」
そう言って先程逃げ出した時に走って行った方を指差す。
どうやら、向こうに荷物は保管されている様だ。
「教えて頂き、ありがとうございます」
俺は彼女にお礼を言って、ヴェロニアさんの指差した方向に歩き出す。
牢屋の場所から更に奥に進んでいく。
足音を出さない様に、ゆっくりと…。
そうして歩いていると、兵士が警護している扉を見つけた。
「…あそこにある。さっきは兵士の人がいなかったから簡単に入れたんだけど…」
俺が注意しながら扉を見ていると、ヴェロニアさんが表情を暗くしながらそう言っている。
その言葉を聞いた俺は、兵士の人の気を逸らせればと考える。
そして、思い付く。
少し可哀相ではあるが、許して欲しい。
俺は魔素を操って魔翔剣を作り、それを飛ばして兵士の人が警護している扉を斬り裂く。
すると、
「な、何だ!ぐえぇ…」
突然斬り裂いた扉が背後から兵士に倒れて兵士の人と扉は一緒に倒れる。
その隙に俺とヴェロニアさんは走って部屋の中に入っていく。
部屋の中は様々な物が置かれている。
すると、俺は自分のヴァレオさんから貰った魔導袋を見つけた。
俺は魔拳を作りながらそれを手に取り中を確認すると、魔導剣もしっかりとあった。
「よし、そっちはどうですか?」
俺がヴェロニアさんに声を掛けると、彼女はすでに荷物を背負っている。
結構な量が入っているであろうリュックを背負って、片手には杖を握っている。
その杖には魔術式が書かれているのが少しだけ見える。
おそらくあれはただの杖では無く、魔導具の1つなのだろう。
「その大荷物だと、隠れたりは出来なさそうですね」
「…置いてはいけない」
俺の言葉にヴェロニアさんは即座にそう言ってくる。
俺はその言葉を聞いて苦笑しながら、
「そんな事を言いませんよ。脱出する方法を変えるだけです」
そう言って部屋から出る。
部屋から出て、ヴェロニアさんに聞いて出口に向かう。
すると、
「待て貴様ら!いつの間に脱走した!」
兵士の人達が俺達に気づいて怒鳴ってくる。
だがその瞬間、俺の横を通り過ぎる雷!
その雷が兵士の人達に当たり、意識を刈り取る。
俺は黙って後ろにいるヴェロニアさんを見る。
すると俺の視線に気づいたヴェロニアさんは、前に向けていた杖を持ち直しながら、
「この方が早いと思って…。ダメだった?」
俺に首を傾げてそう聞いてくるヴェロニアさん。
ま、まぁもうやってしまった事だ、仕方がない…。
「次はせめて一言お願いします」
俺はそう言って歩き出す。
そうして歩いて行くと、更に俺達に気づいて兵士の人達が集まってくる。
その度にヴェロニアさんが、一言俺に声を掛けてくるのと同時に雷が俺の横を通り過ぎる…。
一言言うタイミングが間違っている…。
だが、ヴェロニアさんのお陰で俺達は簡単に外に出る事が出来た。
改めて外に出てこの建物を見ると、
「結構古い建物だな…」
俺がそう呟くと、
「…これからどうするの?出来ればうちはふかふかのベッドでゆっくりしたいの」
後ろからヴェロニアさんがそう声を掛けてくる。
その言葉を聞いて俺は、
「では…、宿屋で貴女の話を聞かせて下さい」
そう提案する。
すると、彼女は凄く嫌そうな顔をして、
「実はうちの体が目当てだったとは思わなかった…」
そう言ってくる。
「そんなつもりは無いです。…そんな事をしたら後が怖いですし…」
「…??最後の言葉が聞こえないぞ?」
俺がヴェロニアさんの言葉にそう返して、ボソッと浮気したらどうなるか思いながらそう呟く。
浮気するつもりは無いが、これは人それぞれの主観だからな…。
俺が浮気じゃないと思っても、皆が浮気と捉えるのはあり得る。
故に、なるべく皆に誤解されない様にしないといけない。
「…い、おい!聞こえてるのか!」
俺が考え事をしていると、ヴェロニアさんが俺にそう声を掛けてきていた。
「す、すみません。考え事をしていました」
俺が謝ると、
「とにかくここで立っていたらまた捕まる!早く逃げるぞ!」
ヴェロニアさんは俺にそう言って早足に歩き出す。
俺も彼女の後を追いかける。
それからは、兵士の人に見つからない様に町を歩いて、少し前に見た宿屋止まり木に2人で入る。
中に入ると、
「…いらっしゃい」
カウンターから大人しい声が聞こえて、男性が姿を現す。
「とりあえず2泊したい」
ヴェロニアさんがそう言うと、
「500ルーンです」
男性がそう呟く。
男性の言葉を聞いて、ヴェロニアさんが服の中に手を入れて袋を出す。
その袋に手を入れて銀色の硬貨を5枚を取り出して、男性に渡す。
男性は、ヴェロニアさんから受け取った硬貨の枚数をしっかりと確認すると、ヴェロニアさんに鍵を差し出しながら、
「部屋の番号は鍵に書いてあります」
そう言った。
その言葉を聞いたヴェロニアさんは鍵を確認しながら歩き出す。
…これって俺も付いて行って良いのかな?
そう思っていると、
「何してる?早く来い」
階段を上がろうとしているヴェロニアさんが、俺の事を見ながらそう言ってきた。
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