換金所
検問の列に並んで少しして、俺の番になった。
「次の者、前へ」
俺は一歩前に出る。
検問所に勤めているであろう騎士の人だろうか?
彼らは魔導剣を装備しているが、鎧などの防具を身に着けていない。
「帝都にはどのような目的で?」
男性が俺の事を睨みつけながらそう聞いてくる。
「旅の途中でここに来ました。お金もありませんから、仕事も探しに…」
俺がそう言うと、検問の人が俺の腰にある魔導剣と魔導袋を見て、
「仕事があれば良いな、通れ。次の者!」
そう言って道を開けてくれる。
俺は軽く頭を下げて検問所を通ると、
「凄い…」
目の前に広がっているのは、人、人、人だ。
サンレアン王国にいても見た事がない程、人に溢れている。
帝都となると、ここまで人が多いのか。
俺はそう思いながら、とりあえず落ち着ける人が少ない場所に行こうとする。
すると、
「きゃ…」
「あ…大丈夫ですか?」
人に押されたのか、女の人が地面に尻餅を付いている。
俺は女性に声を掛けて、手を伸ばす。
すると、
「ありがとうございます。…きゃっ!」
俺にお礼の言葉を言って俺の手を掴むと、躓いたのか俺の体を預けてくる女性。
「す、すみません」
女性は俺に謝ると、俺から離れる。
「ありがとうございました」
「いえ、気をつけて下さい」
女性と俺は短くそう言い合うと、女性は小走りで行ってしまった。
また転びそうだな…。
俺は離れて行く女性の後ろ姿を見ながらそう思い、歩き出す。
それにしても、どこに行けば良いのだろう。
そう思いながら、俺はとりあえず人の流れに身を任せて歩いていると、
「おい聞いたか。南東に住んでいた水の魔法使いが死んだって話」
俺の前を歩いている男性2人組の1人が隣の男性に話しかけている。
しかもその内容は、よく知っている内容だ。
「あぁ聞いたな。何でも立派な屋敷に住んでいたのに、その屋敷はただの木くずになっていたってやつだろ?どんな魔獣が出たんだろうな?」
「馬鹿!魔獣な訳があるか!噂じゃ他の魔法使いがしたんじゃないかって言われてるんだ。そんな事できるの、魔法使いしか無理だからな」
「おいおいっ!それじゃあマズいじゃねえか…。もしかしたら戦争になっちまうんじゃねえか?」
「いや、調査しに行った兵が言うには何の魔法を使われたか分からないらしい。だから、どうしようも出来ないらしいぞ」
俺は前の2人組の話を聞いて、俺が思っていた以上に事が大きくなっている気がする。
あの時は怒りに身を任せて暴れてしまった。
後悔はしていないが、これからはもう少しだけ暴れない様に気をつけよう。
俺は心にそう決めて、町中を歩く。
そうして町を歩いていると、宿屋止まり木と書かれている看板が見えた。
宿屋を見つけても、お金が無いからな…。
俺はそう考えて、お金を手に入れられる所を探していると、
「ん?」
俺が見つけたのは、死石換金所と書かれた看板だ。
あそこならお金を手に入れられる。
俺はそう思い、換金所と書かれた看板を掛けている建物に向かって歩き、中に入る。
中に入って周りを見てみると、武装している人達が受付をしている人に袋を渡している。
すると、
「お待ちの方、こちらにどうぞ」
後ろから声を掛けられる。
振り返ると、凄く冷たい目をした女性が後ろにいた。
「…初めて見る方ですね」
女性が俺の事を見ながらそう言う。
見ると、彼女の耳が少しだけ尖っている。
それに、他の受け付けをしている女性と違って、服装をしっかりと着込んで肌を見せないようにしている。
エルフ…とは違いそうだな。
「…人の事をジロジロ見てきて何ですか?そんなに私が珍しいですか?」
俺がそんな事を思っていると、女性が冷たい声で俺にそう言ってくる。
俺はその言葉を聞いて、女性が怒っている事を察し、
「す、すみません。ジロジロと見てしまって…」
俺が頭を下げて謝ると、女性は俺に何か言う事はせずにスタスタと受付まで歩いて行ってしまう。
受付に腰を下ろすと、女性は俺の事を見てくる。
どうやら、俺の担当をしてくれるみたいだ。
俺はおそるおそる女性の座っている位置に歩き、魔導袋をから死石を取ろうとする。
だが魔導袋に手を入れると、地図の紙の感触とルリィが作ってくれた回復薬の瓶の感触しか無い…。
「え?」
「…?」
俺が短く声を出すと、受付の女性も首を傾げる。
俺は魔導袋の中を見て死石を探す。
だが、そこに死石は無かった…。
「な、何で…」
俺がそう呟くと、
「失礼ですが、ここに来る前に誰かとぶつかったり接触したりしましたか?」
女性が俺にそう聞いてくる。
俺は女性の言葉を聞いて、少し前に手を伸ばして起き上がらせた女性を思い出す。
「あ、ありました」
俺がそう言うと、女性はため息をついた。
「この町でもそうですけど、無闇に人と接触するのはお勧めしません。今回の様に手持ちの物を盗まれてしまいますから」
女性の言葉を聞いて、俺はあの時の女性に死石を盗まれてしまった事に気が付く。
やられたなぁ~…。
俺はそう思い、もはや苦笑いするしか出来ない。
「すみません。ここに用が無くなってしまいました。失礼します」
俺は受付の女性にそう言って、受付から離れようとすると、
「待って下さい。どれくらいの大きさの死石を持っていたんですか?」
女性にそう聞かれる。
俺は女性の言葉を聞いて、持って来ていたはずの死石の大きさを思い出す。
そして、手である程度の大きさの形を作ると、
「これくらいでしたね」
俺がそう言うと、女性が俺の事を冷たい瞳でジッと見てくる。
え?俺なんか変な事言ったかな?
俺がそう思っていると、
「その大きさの死石ですと、兵に知らせれば犯人を捜してくれますよ」
女性が俺にそう教えてくれる。
だが、
「いえ、そんな事はしないです。油断していた俺が悪いんですよ。ここっていつまでやっていますか?」
俺は犯人を探す事はしない。
そうしているのなら、外に出て魔獣を倒した方が早い。
「…ここは深夜までやっていますが…」
女性は俺の質問にそう答えてくれる。
俺は女性の目が怪しんでいるのを感じる。
おそらくそんな早く死石を取りに行く事が出来ると思っていないのだろう。
「じゃあ、深夜にもう一回来ます」
俺は女性にそう言うと、早足に換金所を出発した。
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