救出
凄まじい量の水が落ちてくるのを見て、慌てて魔素を払って水の魔法を消し飛ばす。
今回の戦いの本命、水の魔法使いエグモントが杖を片手に俺の事を見ている。
その様子は、怒りに満ちている。
どうやら、家を破壊された事に怒っているのだろう。
「貴様!よくも私の屋敷をこんなに破壊してくれたな!」
エグモントが俺に怒鳴ってくる。
だが、俺はエグモントの言葉を無視する。
正直に言うと、先程投げ飛ばしたローラントと話していた所為でもうこんな奴らと話したいと思えないのだ。
「こんな所、破壊しないといけない!人の尊厳を踏みにじるこんな場所、破壊しないといけない!」
俺がそう言うと、エグモントは杖を俺に突き出してくる。
そして、
「清らかぐふぉあッ!!」
魔法詠唱を開始した瞬間に俺はエグモントの腹を殴って強制的に止める。
そのままエグモントを吹き飛ばし、屋敷の壁に叩き付ける!
「ごほ…わ、私が誰かわかってるのか…私を殺せば…世界の均衡が崩れる…んだぞ…」
荒い息を吐きながら、エグモントは俺にそう言ってくる。
「それはルネリアがどうにかする」
俺がルネリアの名前を出すと、エグモントの表情が変わる。
「貴様か…娘を誘拐したのは…」
そう言いながら、俺の事を睨んでくる。
「あの子がいれば、水の魔法使いとしての世界の均衡は大丈夫ですよね?」
俺がそう言うと、エグモントが歯ぎしりをする。
「貴様の…所為で、私の支配が…狂ってしまった…」
「人が苦しんでいるのなら、そんな支配なんて狂ってしまった方が良い」
俺はそう言って、ヴァレオさんからまだ借りていた魔導剣を抜き、エグモントの胸に突き刺す…。
最後まで俺の事を睨んだまま、床に倒れるエグモント。
俺は血に塗れた魔導剣を持って歩き出す。
全ての扉を開けていき、捕らわれている女性達を解放していく。
だが、数人の人は体の辛さに立ち上がる事が出来ずにいる人がいる。
そういう人達には、ルリィ特製回復薬を飲んで貰って動けるよう回復させる。
そうして女性の人達を集めていき、全ての部屋を見て回った後屋敷の外に出ると、
「そ、その…助けて下さり…ありがとうございます…」
俺が解放した女性達が、俺の事を待っていてくれていた。
俺はそれを見て、
「ち、ちょっと待っていて下さい」
女性達に少し待つように伝えて、屋敷の中に戻って窓に下げられていたカーテンを魔翔剣で綺麗に斬っていく。
屋敷の全てのカーテンを斬った後、それを更に斬って簡易的ではあるが体を覆う布が出来た。
それを持って屋敷の外に出て、俺の事を待っていてくれた女性達に配っていく。
いくら日差しがあっても、薄着で外を歩かせる訳にもいかないし、彼女達の体を隠す意味もある。
そうして屋敷の前にいる女性達に布を配り終える。
布だと言うのに、女性達の嬉しそうな表情が忘れられない。
俺はルネリアの父であるエグモントを殺した。
人を殺したという事実が俺の心に突き刺さる。
どんなに生き物を殺しても、慣れる事のない痛みと圧迫感。
だが、彼女達を…ヨハナさんやアウレーテさん、ルネリアを助ける事が出来たと思うと少しだけだが、心の痛みが和らぐ。
そう思っていると、
「あの、このゴミはどうしましょうか?」
「ア…ガァ…」
女性の1人が屋敷の外に放り出されたローラントを指差している。
「彼の処遇は貴女達が決めて下さい。生かすも殺すも自由です」
俺はそう言って、エルミールから渡された縄を魔導袋から取り出して、1人の女性に渡す。
縄を受け取った女性は、それでローラントを縛り付けて引っ張る。
すでにボロボロの状態で、更に引きずられるローラント。
「それと、体が弱っている人にはこれを」
俺はそう言って、皆をまとめている女性に持っている回復薬を全て渡す。
「ありがとうございます」
「あの、貴女は剣は使えますか?」
俺はお礼を言ってくる女性に剣を見せながら質問する。
「は、はい。使えます」
俺はその言葉を聞いて、握っている魔導剣を彼女に渡す。
すると、俺に魔導剣を渡された女性が不思議そうにしている。
「皆さんの事、お願いしても良いですか?俺は、この屋敷を破壊したいので…」
俺がそう言うと、彼女は真剣な表情で返事をして、女性達をまとめて1番近くであるフィノイ村に向かって歩き出した。
俺はその後ろ姿を見送った後、屋敷の前に立つ。
そして、
「…覇魔化」
魔素を圧縮したモノを体に浸透させて力を増幅させる。
こんな負の塊は、消滅させないと。
「剛魔拳!!」
俺の拳を一振りで、屋敷の半分が消滅する。
それと同時に、俺の体からも魔素が霧散する。
その後、俺は体の魔素が霧散するまで、屋敷とその跡地を破壊し続けた。
そして、
「…少し、やり過ぎてしまった…」
俺は跡形も無くなった屋敷の前に座りながらそう呟く。
今俺の目の前に広がっているのは、森に囲まれていたはずだったにも拘らず、屋敷の後ろの森に少し広い道が出来てしまっていた…。
やり過ぎてしまった事は反省しないとな。
俺はそう思いながら、後遺症の魔素が使えなくなるのが終わるのを待っている。
魔素が使える様になったら、目的地である帝都…いや、一度山小屋に戻ってエルミールの所に戻ろう。
…約束もあるし…。
そう考えて、頬が熱くなるのを感じながら座って後遺症が治るのを待った。
それから少ししてから俺は魔素が使える様になり、魔素を脚に纏って空に跳んで走り出した。
途中、先に帰った女性達が見えたが、様子を見るに大丈夫そうだったので俺は止まらずに山小屋に走った。
その後、フィノイ村の上空を駆け抜けて山小屋に着くと、扉を通ってグリニオン帝国に着いた。
グリニオン帝国の家に戻ると、良い匂いがする。
扉の部屋から出て階段を下り、一階に下りてみると、
「…もう少し濃い味がシュウさんの好みですかね?」
エルミールが料理をしていた。
集中しているのか、俺に気づかないで調味料を料理の鍋に入れている。
俺はその様子を見ていたく、黙って彼女の料理している姿を見つめていた。
結局、エルミールが俺に気づいたのは帰って来てから30分位経ってからだった。
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