魔導袋
エルミールさんの言葉に、俺は彼女に心配させてしまうような顔をしていたのかと思う。
「大丈夫です」
俺がそう言うと、エルミールさんは少し怒ったような顔をする。
その表情を見た俺は、ヨハナさん達の冷たい表情を思い出してしまう。
すると、エルミールさんが手を伸ばしてきて、俺の頭に両手を添えると引っ張られる!
俺はそのまま、エルミールさんの胸の中に顔を埋める。
「何があったかは聞きません。ですが、それを溜めないで下さい。私に…甘えて下さい。私はシュウさんの全てを受け入れます」
エルミールさんはそう言いながら、俺の後頭部を撫でてくれる。
その優しさに、
「ありがとう…ございます…」
俺はお礼を言って、エルミールさんの体を抱きしめた。
それから少しして、俺はエルミールさんに向こうで何があったのかを説明した。
それを聞いたエルミールさんは、
「シュウさんは、お馬鹿さんです」
微笑みながらそう言った。
「良いですかシュウさん?正直、シュウさんは優し過ぎます。そんな人達はほっといて良いんです」
俺の頭を撫でながら、エルミールさんがそう言ってくる。
「そんな事出来ないよ。あんな光景を見せられて、黙っているなんて出来ない」
「…そうですよね。シュウさんはそんな人です。だからこそ、シュウさんの周りには多すぎる程女性が集まっているんですから」
その言葉に俺は、苦笑いで返す事しか出来ない。
「ですので、勝手にしてみればどうですか?」
「勝手に?」
「はい。村の人の平和だけを求めて、その後の事は村の人に任せてしまえばいいんです。その男を生かそうが殺そうが…。ですが、もしその男が危険と感じたのなら、シュウさんが手を下すのも考えておいて下さい。ですが、危険そうに無かったら、これで縛って拘束すれば良いんです」
エルミールさんはそう言ってメイド服の中から縄を取り出す。
エルミールさんの言葉を聞いて、俺は少し気が軽くなるのを感じる。
そうだな…。
ローラントさんの事に関しては村の人達に任せよう。
俺がやらないといけない事は、水の魔法使いであるエグモントを倒す事だけだ。
その後はルネリアが後を継いで、水の魔法使いになるはずだ。
「ありがとうエルミールさん」
俺は今だに俺の後頭部を撫でているエルミールさんにお礼を言う。
すると、
「そろそろ、呼び捨てで呼んで欲しいです」
エルミールさんがそう言ってくる。
「え、エルミール」
俺がそう言うと、俺の後頭部を撫でていた手が止まり、俺の頭を力の限りで抱きしめてくる!
その行為の所為で、俺の顔はエルミールさんの胸に押し付けられる!
「こ、これはいけないです。シュウさんは疲れてるから休ませようと思っていましたが…。私が我慢できそうにないです」
エルミールさんがそう言うと、俺にキスを…特濃のキスをしてくる!
その熱いキスに、俺は思考回路が焼き切れる…。
その後、俺は早朝に再び向こうの世界に戻る事にしたので、エルミールさ‥エルミールに我慢してもらう事になった。
それからすぐに、俺とエルミールはピッタリとくっ付きながら仮眠を取る事にした。
そうして寝ていると、体を揺さぶられる感じがして目を覚ます。
目を開けると、目の前に微笑んだエルミールの顔があった。
「ありがとう、起こしてくれて」
俺はそう言って準備を始める。
準備と言っても、外していた装備を着け直すだけなのだが…。
準備をし終えると、扉の部屋までエルミールと歩いて行き、扉の部屋に入って扉の前に立つ。
「…行ってきます」
俺がエルミールにそう言うと、彼女は一歩後ろに下がって頭を下げる。
「いってらっしゃいませ」
そう言って頭を上げる彼女の手を引っ張って、エルミールの額にキスをする。
そして、
「帰ってきたら、続きをしようね」
俺はそう言って、熱くなった顔を見られない様にすぐに振り返って扉を通る。
少し恥ずかしいセリフだったかな…。
でも、エルミールに言いたかったからな。
そう思いながら、山小屋の扉を開けて空を見る。
陽のお陰で夜が明けようとしている。
今の時間なら皆まだ寝ているだろう。
俺は魔素を操って空を駆けてフィノイ村のヴァレオ魔導店に辿り着く。
すると、
「ヴァレオさん…」
お店の扉の前にヴァレオさんが座っている。
「夜中から明け方に来るとは思っていた。ほれっ」
ヴァレオさんはそう言うと、地面に置いてあった小さめの袋を俺に投げてくる!
「おおっと‥」
それを何とか左手で受け取る。
「これは…」
俺が左手に収まっている袋を見ながらそう聞くと、
「店にある魔導袋だ。生の食料以外なら何でも入れられる。もうここに戻ってくるつもりは無いんだろう?顔を見ればわかる。だから渡せる時に渡しておく。ヨハナを助けてくれた礼だ、受け取ってくれ」
ヴァレオさんがそう言ってくる。
俺は魔導袋を柔らかく握り、
「ありがとうございます」
ヴァレオさんにお礼を言う。
すると、
「その中に、預かっていたバルナルド・ヴィリヴァの魔導剣と地図を入れてある」
俺の事を見ながら説明してくれるヴァレオさん。
「本当にありがとうございます。あ…、じゃあこれを」
俺は左手に握っていた魔導袋を腰に付けてあるポーチと交換して、ポーチの中から死石を取り出してヴァレオさんに渡す。
「俺が出せるのはこれくらいですけど…」
俺が申し訳ない気持ちでそう言うと、
「ありがたく貰おう。…すまなかったな」
ヴァレオさんが地面に死石を置くと、俺に謝ってくる。
「な、何で謝るんですか?」
俺がそう言うと、ヴァレオさんは店を見て、
「この村の者のほとんどが、あの男を信用している。だから、君の言葉を受け入れる人間は少ない。だが、私は君の言葉を信じている。あの男が、何か企んでいるのを」
俺はその言葉に、嬉しくなる。
1人でも信じてくれる人がいる…。
だから、頑張らないと…。
「さて、そろそろ出発だろ?私も店を開ける準備をしないといけない」
ヴァレオさんはそう言うと、お店の扉をゆっくりと開ける。
そして、
「ありがとう。村の者でも無いのに村の事を考えて、行動してくれて」
そう言って、ヴァレオさんはお店の中に入っていった…。
「…俺の方こそ、親切にして頂いてありがとうございます」
俺はお店の扉にそう言い、フィノイ村を後にした。
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