出発
ヨハナさんに連行されて大人しく付いて歩いていると、少し大きい建物の前でヨハナさんが立ち止まる。
「あの、ここって?」
俺がそう聞くと、
「…私が所属してるギルド勇騎士団の拠点。ここに用があるの」
ヨハナさんがそう説明してくれる。
つまり、ローラントさん達がいるのか。
そう考えていると、ヨハナさんが俺の左手を離してギルド拠点の中に入っていく。
俺をここまで連れて来たという事は、俺も中に入った方が良いのだろう…。
俺はそう思いながら、ヨハナさんの後を付いて行く。
扉を通って建物の中に入ると、普通の家の様な空間に人が集まっている。
周りの見ると、大体同じ年齢位の人が多いな。
年上の人も少し見えるけど…。
俺はそう思いながら周りを見ていると、
「…あまりキョロキョロしないで。目立つ」
ヨハナさんが小さい声で俺にそう言ってくる。
「せめて、これは何の集まりか教えて下さい」
俺も小さい声でヨハナさんに質問する。
すると、
「そろそろ良いだろう!全員ではなさそうだが、皆聞いてくれ!これから巨鬼の討伐に向かう!」
大きな声が部屋中に響き渡る。
声のした方向に視線を送ると、ローラントさんが見えた。
何かに乗っているのだろう。
俺とヨハナさんは後ろにいるのに、ローラントさんの上半身が普通に見える。
「巨鬼を討伐できれば、魔石の注文をする事も出来る!」
魔石の注文?
「…ヨハナさん」
俺は隣に立っているヨハナさんに声を掛けるが、返答は無い。
チラリと隣を見ると、皆の前で士気を高めようとしているローラントさんをキラキラした目で見ている。
これは話しかけても駄目そうだな。
俺は諦めて、ローラントさんの話を聞き続けた。
それからローラントさんの話が終わり、俺は気づかれない様に建物の外に出る。
陽が傾いてきており、もう少ししたら夕方になるだろう。
結局俺がここに来た意味って何だったんだ?
空を見ながらそう思っていると、
「…何してるの?早く中に入って」
いつの間にか外に出てきていたヨハナさんにまた捕まり、建物の中に逆戻り。
すると、少し年上だろうと見ていた女の人が皆に何かを渡している。
女の人は俺とヨハナさんの所にも来て、
「無事を祈っています」
そう言って、俺達にも何かを渡してくる。
それを見ると、赤い色をした魔石だった。
「これ、これから討伐に行くから無料で配布してくれるの。持っておいた方が良いわ」
ヨハナさんがそう言ってくれる。
「でも、俺はギルドに加入していないよ」
俺がそう言うと、
「別に大丈夫でしょ。来てない人だっているから」
ヨハナさんはそう言って、建物の外に出る。
俺も彼女に付いて外に出る。
「これから、前に会った巨鬼の討伐に行くの。貴方も来て」
「俺も…ですか?」
「そう。旅人だから、ある程度腕は立つんでしょ?あの時も倒せるけど私が足手まといみたいな事言ってたし」
やはり悪い意味で誤解されている…。
俺がそう思っていると、
「ヨハナ、それとシュウ君だったね」
ローラントさんが俺達に気づいて声を掛けてきた。
その瞬間、ヨハナさんが緊張したのが分かる。
「ヨハナが戦うのは分かるけど、君も戦うのかい?ギルドに所属していないなら、戦う必要もないし、誰も咎めないと思うけど…」
ローラントさんが俺にそう言ってくる。
「実はヨハナさんに助けて貰った時に、その魔獣と遭遇したんです。強いのはわかったので、少しでも戦力になれたらと思いまして…」
俺は頭で言う事を考えながら、言葉を口にする。
すると、俺の言葉を聞いたローラントさんが笑顔になる。
「そう言って貰えてうれしいよ!ありがとう!」
ローラントさんはそう言って手を伸ばしてきて、俺の左手を握る。
それからローラントさんが皆を先導して森へ歩き出す。
結局ヨハナさんは、緊張してか
俺とヨハナさんもその団体の後ろを歩いていると、村民の表情があまり良くない。
「…ヨハナさん」
俺が声を掛けると、ヨハナさんが暗い表情で俺の方を向く。
「…何?」
「何で村の皆さんの表情があんなに暗いんですか?魔獣の討伐って事は、村は安全になるんですよね?」
俺がそう言うと、ヨハナさんが気まずそうな顔をする。
どうしたのだろうか…。
「私達が無理をして魔獣を倒す必要は無いの。この村は水の魔法使い様の魔法で魔獣は村を襲う事が無い。でも、戦うために必要な魔石を注文するのに、大量の死石が必要だから…」
ヨハナさんがそう言う。
だが、彼女の表情は更に暗くなる。
おそらく、村の皆さんが暗い理由は別にあるのではないだろうか…。
「…何か、他にもあるんじゃないですか?」
俺がそう呟くと、ヨハナさんがビクッと動く。
「…ここは牧場なの」
「牧場?」
俺は、ヨハナさんの突然の発言の意味が分からず聞き返す。
「水の魔法使い様の…奴隷を育てる場所なの…ここは。だけどこの村だけじゃなくて他にも色々村があるから、ここに留まってはいないけど、魔石の注文をする時に村に来るの…」
つまり、水の魔法使いはこの村や他の村で人を連れて行くという事か…。
そして、魔石の注文をする時は必ず来る…。
だから、村の人達は良い顔をしていないのか…。
「…あれ?」
俺はそこで疑問に思う。
なら無理に戦う必要なんてあるのか?
俺は先頭を歩いているであろうローラントさんの方を見る。
この村に魔法使いを近づけたくないのなら、魔獣の討伐なんてしない方が良い。
魔獣もこの村を襲う事が出来ない…。
魔石の使用頻度は分からないから何とも言えないが…。
だがもし、魔法使いをあえてこの村に連れて来たいならどうだろうか…。
俺はそう考えて頭を振るう。
人をあまり疑い過ぎるのは良くない…。
だが、ヴァレオさんの言葉も聞いてしまったせいか、悪い方向にしか考えが纏まらない…。
そうして1人で考えている内に、森の前まで着いてしまった。
「これより、剣を使って松明を使え!巨鬼に遭遇したら上に打ち上げろ!」
ローラントさんがそう言うと、俺の前を歩いていた人達が剣を抜き、前にヨハナさんがしていたように剣に炎を纏わせる。
そうして、次々と森に入っていった。
「ほら、行くわよ」
俺の隣にいたヨハナさんも剣に炎を纏わせて、俺にそう言ってくる。
ヨハナさんが先に歩き出し、俺はその後ろを追って森に入る。
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